【緋彩の瞳】 ある恋と愛の物語 ⑦

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

ある恋と愛の物語 ⑦

眩しいと感じて目を開けると、見慣れた天井だった。身体の何かがおかしいと感じたその一瞬で、意識を失った。自分ではそれをどうすることもできなかった。
「レイちゃん」
「………亜美ちゃん」
「よかった。気分はどう?」
「………よく、わからない」
人工ではない光の差し込む部屋。倒れたのは夕方だから、結構時間が経ってしまっているようだ。
「ごめん…今…何時?」
「えっと、朝の7時半を過ぎたところよ」
今日は何曜日だろうか。平日じゃないだろうか。
「ごめん…亜美ちゃん、学校は?今から出たら間に合う?」
「いいの。それより、大丈夫?何か食べる?サンドウィッチなら作ってきたのがあるわ」
優しさに甘えても、何も返してあげられないのに。亜美ちゃんはそんなことを言えば、見返りを望んでなどいないと言うに決まっている。居心地が悪いような気持ちと、ほっとしてしまう自分への苛立ちの中、レイはゆっくりと起き上って、できる限り笑って見せた。
「ありがと。亜美ちゃん、ちゃんと寝たの?」
「えぇ。勝手に毛布を借りたわ」
「悪いわね……」
「気にしないで。それよりレイちゃんの方が心配だもの」
まっすぐな眼差し、身体を起こして感覚がおかしい左手を見た。赤い範囲は昨日見た時よりも広がっている。
「大きくなってるわね」
「痛くない?」
「よくわからないわ。痛いという感じはしないの」
「そう」
とても学校に行く気力が出ずに、レイは亜美ちゃんに作ってもらったサンドウィッチを食べてシャワーを浴びた。亜美ちゃんは着替えを持ってきていたようで、彼女にお風呂を貸して、2人で昨日行けなかった花嫁の出没場所に行くことにした。
「美奈子ちゃん、レイちゃんをここまで運んだ後に、1人で調査に行ったらしいの。でも、やっぱり何もなかったって」
「そう。美奈が担いだのね」
「えぇ」
美奈は1時間ほどいて帰ったらしい。
夢だろうか現実かよくわからないけれど、誰かに頭を撫でられていたような気もしないでもない。
穏やかで、ほっとするような。
そういうもの。
亜美ちゃんかもしれない。
いつも通学するよりも遅い時間に神社を出て、私服の2人はゆっくりと坂を下り、電車に乗った。朝の通勤ラッシュはそれなりにある。レイはみちるさんから借りている鏡を傷つけないように鞄を抱きしめて、つり革につかまらずに耐えた。
亜美ちゃんがパソコンで調べてくれた場所と同じ風景は、人であふれていたけれど鏡に映った通りで、被害者の女性は確かにここにいたのだ。
「どう?何か感じる?」
「人が多すぎて………いろんな邪念が」
集中しようとしても、うつむいて歩く通勤中の多くの人達の背負うオーラが気を紛らわそうとする。
「ここから少し離れても大丈夫?」
「そうね。もうちょっとだけ」
亜美ちゃんは駅前から少し離れて場所を変えてくれた。いきかう人々はずっと下を向いたまま。レイは鏡を駅に向かう人たちに向けてゆっくりと動かしてみた。
「………あそこ、気配がある」
鏡を握っている手にしびれのようなものが走った。人込みを縫って近づいてみる。一歩一歩進むたびに背筋に酷い痛みが走った。研ぎ澄ました神経が警告を発している。
「亜美ちゃんには見えないかも」
「……何も見えてないわ」
「そうみたいね。何があるか分からないから、近づかないで。私に任せて」
そこにはあの花嫁姿の霊がいた。もう、ずっと昔に死んで、彷徨い続けているのだろう。レイを見つけた瞬間、真っ赤な唇が嬉しそうに上がったのが見えた。
「花嫁さん」
鏡がなくても、彼女のことは見える。幽霊。レイの専門分野だ。
『………私が見えるの?』
「えぇ。とても若い花嫁さん。それともあなたは占い師?」
『占い師?……何のこと?』
どういうことだろう。死んでしまった女性は、錯乱状態で見間違えたのだろうか。
「それで……あなたはどうしてここにいるの?誰かを探しているの?ここにいなければならない理由があるの?」
『さぁ……』
「言った方がいいわ。あなたを救えるのは私だけよ。とても苦しい想いをして死んでしまったのでしょう?」
『死んでもなお、呪縛が解けないこの魂など……誰も救えないの』
やはり、この少女ともいえる若い花嫁と“占い師”は同一人物ということなのだろうか。
呪いをかけたのはこの花嫁なのだろうか。
「教えて。……満月の夜に複数の女の人が死んでしまうのは、どうして?」
駅へ向かう不規則な足音と、奇妙な独り言を壁に向かって話すレイを不思議そうに見るまなざし。それらを背中に受けながら、レイは雑念が入らないように頭を何度も振った。
『私は夫に……呪い殺された。たぶん、それと関係があるのでしょう』
「純潔の呪い?」
『そう。身体を赤く染める…私が犯した罪を戒める呪い』

少女は自らを“スズ”と名乗った。
そして、白い左の薬指に嵌めてある、焼け焦げたような指輪を見せてくれた。


レイの左の薬指がちぎれるような痛みを覚えた。


全ての元凶はこれだ。
いや、全ての元凶はこれをスズに贈ったという人物だ。
レイの第六感が警告している。

『この指輪に夫が呪いをかけていたの。私はこの指輪に裏切らないと誓ったその夜に、恋した別の男の人に純潔を捧げてしまった』

満月の夜の裏切り行為の罰を
満月の夜に与えられ、スズは砂になって死んだ。

「旦那さんは、助かる方法はあると言ってくれたのでしょう?」
『私を愛してくれと、彼はそう言った。それだけでいいと。だけど、君には無理だとも言われたわ。愛するということがわからないのだから……』



愛するということがわからない
それならレイも同じなのに

この身に降りかかった呪いは解くことが出来ないのではないか

レイはスズに起こった出来事を聞きながら、そう思えてならなかった。




君の知らない物語
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Date:2014/11/03
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