【緋彩の瞳】 ある恋と愛の物語 ⑧

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

ある恋と愛の物語 ⑧

『美奈』
「起きたのね。調子はどう?」
お昼休みが始まるチャイムが鳴ってから5分も経っていない。携帯電話にレイちゃんから電話がかかってきた。
『今は大丈夫』
「亜美ちゃん、学校に来てないけど」
きっと、学校に間に合う時間帯にはレイちゃんはまだ眠っていたのだろう。亜美ちゃんはレイちゃんを置いて学校に行けなかったのだ。ある程度放っておいてもいいと考えていた美奈子とは違う。それが優しいからとか、優しくないとか、そういうことでもない。
自己満足の差なのだろう。レイちゃんが望んでいるとも思えなかったが、それを美奈子が代弁する理由もない。
『悪いことをしたわ。午後からの授業は受けるって、別れたわよ』
「そうなんだ。レイちゃんは?」
『行かないわ。途中から行く方が、評価が悪くなるもの』
昼休みから堂々と校舎に入るくらいなら、一日休んだ方がいいということなのだろう。
「それで?ただ、起きただけって言うわけじゃないんでしょう?」
『出てこられない?』
わざわざそんなことの報告のために、レイちゃんが電話をするわけがない。
大した用でもないのなら、学校が終わった後でもいいのだ。
「……わかった。指令室で待ってて」
『適当に、お願いね』
「うん」
誰にも言うな、と言うことだろう。うさぎもまこちゃんも同じクラスだけど、仕方がない。後で何か言われても、まぁ適当に笑っておけばいい。一つ上の階にいるはるかさんとみちるさんも、今からやってくる亜美ちゃんも、大丈夫だろう。
美奈子は教室に戻って鞄にお弁当箱を入れて、そのまま廊下を突っ切った。
亜美ちゃんの気配がないかを確認しつつ、そっと靴を履き替えて走る。
「あら、美奈子」
「………あぁ」
「どうしたの、鞄なんて持って」
購買部にでも寄ったのだろうか。お弁当箱とペットボトルのお茶を手に、背後から声をかけてきたのは、レイちゃんの恋する人だ。
「ちょっと用事。ダッシュで外に出てくるから」
「あの事件絡み?」
「さぁね」
適当にやり過ごして逃げようとしても、鞄を持った手首を掴まれてしまって簡単には動けない。
「レイは?体調が悪そうだったけど、あのあとは大丈夫だったの?」
「別に何もなかったわ。どうせ、今日の放課後に会うんでしょ?」
鏡を返す約束をしているから、レイちゃんはみちるさんと会う。だから美奈子と話をする時間もそれほど取れない。そのあたりを気にして、この時間から呼びだしたなんてこと、あるのだろうか。ちゃんと2人きりで会えるのだろうか。
「そうだけど。あの子、はぐらかしそうだもの」
「別に、問い詰める必要がある?保護者じゃないんだから」
「………美奈子は知っているって言う顔ね。まぁ、いいわ。事情を知っているのなら、あなたに任せるしかなさそうだもの」
変な誤解を与えたのならば、それは違うと言いたい。
「もういい?放してくれる?」
「レイのこと、よろしくね」
何をどう、よろしくなのだろうか。
高校に上がる前くらいに、みちるさんに、レイのことが好きなのでしょう?なんて、ストレートに聞かれたことがあった。両想いではないのか、という意味のわからないことまで言われたことがある。
みちるさんはびっくりするくらい鈍感で、レイちゃんの感情に露ほども気づいたりしないのだ。その勝手な思い込みが余計に、レイちゃんの好きな人が誰なのかということに気付くと言う行動を阻害しているらしい。
「………救えるのは、海王みちるだけだって言ったら?」
「何のこと?」
「別に、何でもない」
腕を引きぬいてみちるさんを睨むように見つめ、それから校門へと向けて走った。

みちるさんが美奈子の愛しい人の心を救ってくれることなど、きっとないだろう。



「体調は?何か食べたの?」
「朝は、亜美ちゃんがサンドウィッチくれたから。美奈は?」
美奈はお弁当箱を取り出して、それからコンビニのお弁当を取り出した。
「こっちあげる。毎日同じで飽きてるし」
「……ありがと」
美奈のママが作ってくれたお弁当を押し付けられて、レイはいらないと言わずに受け取った。いらないと言っても押し付けられることに変わらないし、そのやり取りなんて無駄なのだ。美奈にはそう言う優しさがある。プリンセスのために人を殺すことくらい、平気でできるところもある美奈は、それでも心根は優しい人で、清らか過ぎて時々、腹が立つこともある。
「夜よりは体調はいいの?」
「今はね……ただ、正直、朝から疲れるようなことをして、昼寝したい気分かしら」
機械音痴のレイは、指令室でいつも愛用しているノートに、スズという少女に会って聞いた話を纏めておいた。冷たいコンビニ弁当を食べながら、レイの話を聞き流す美奈の横顔は険しい。
「その場でその花嫁を御払いできなかったわけ?」
「できなかったわ。あの花嫁も被害者でしょうから。死んでもあの呪いが身体から消えずに、スズは長い年月を、じっと、純平さんに許しを乞いながら彷徨っているのかも知れないわね。下手に御払いをするべきではないわ。まず、元凶となっているものを取り除けば、彼女も成仏するでしょう」
温かい緑茶を淹れて、レイは両手でマグカップを包んだ。左腕の違和感はやはり少し苦しさを伴っている。
「それで、今までの殺人事件との関連は?花嫁との関連も」
「………これは、私の推測なのだけれど。人殺しをしているのはスズにかけられた呪いであり、それを生んだ純平さんの方だと思うの」
生きているときに与えられた呪いは、殺されてもなお、その身を締め付けている。
「純平という人の幽霊は、別にいるの?」
「………その可能性があるんじゃないかって、疑っている。だけど、あの場にはスズの幽霊しかいなかった」
こんな話をしながら、かわいらしくタコに似せたウインナーを食べても、味なんてよくわからない。美奈も同じなのだろうか、おいしそうじゃないコンビニ弁当をただ、口の中に運ぶだけという風だ。
「被害女性と会ったというのは、スズは覚えていたの?」
「えぇ、確かに会ったって。でも、自分は占い師だと名乗っていないみたいだった。スズは、“愛してくれる人に愛を捧げれば呪いは解ける”とだけ伝えたらしいわ」
レイがみちるさんの鏡で見たのはスズであって、占い師ではない。だから、占い師と名乗った人物が別にいるはずだ。そしてそれが純平さんではないかと思えてならない。
どうしてスズを解放してあげないのだろう。


それとも、解放できないのだろうか。

スズの話はスズの気持ちがかなり入っているため、客観的なことがよくわからない。スズの立場も気持ちもわからなくはない。彼女は確かに罪を犯した。

だけど、殺されるほどのことなのだろうか。恋しい人と抱き合うのであれば、何もかもを捨てる覚悟をなぜ持てなかったのだろう。でもまだスズはレイと同じ年齢だ。
恋しいと思う人が自分を好きだと知ったら、情の赴くままに行動してしまうのだろうか。
愛されていると言うことも知らずに、恋をする心が得る快楽だけを欲しいと願うのだろうか。

恋とはそういうものだろうか
ふと、みちるさんの顔が思い浮かんだ
左腕がじんわりと痺れのようなものを覚える

「事件を解決して、レイちゃんの呪いを解くには、純平という幽霊を見つけ出すことしかないわけね」
「おそらくね。見つけ出したとしても、呪いが解かれるかはわからない。でも、純平さんを御祓いしてしまえば、これ以上の犠牲者を出さずには済むはずよ」
説得して、自分から成仏してくれたら一番いいのだが、人を殺す厄介な幽霊だとしたら、そう簡単に事は進まないだろう。
どうしてスズと純平さんはあの世じゃなく、いつまでもここにとどまり続けているのだろうか。
そして、会えずにいるのだろうか。


スズはまだ、純潔を捧げた男のことを想っているのだろうか
だから、呪いが解けないのだろうか
純平さんは、そんなスズを許せないのだろうか
それとも、殺してしまったことを悔やんでいるのだろうか

2人は死んでもなお
互いの想いを通じ合えないでいるのだろう

「レイが助からなければ、意味がないわ。最優先で純平を探しましょう。何か方法はある?」
お茶で喉を潤した美奈は、いつものまっすぐな瞳でレイを力強く見つめてきた。
逃れられない瞳の力は、嫌だと言うことを言わせない。
「……もう一度、スズに会うわ。人が少ない時間に動かないと、邪念が多すぎて彼女と会話をするのが大変なの。あと、客観的な資料が欲しい。スズが死んだ事件、昔の資料が欲しい」
「亜美にやらせてもいい?」
「………えぇ」
スズから聞いた話を、亜美ちゃんには伝えていない。少し整理させて欲しいからとその場では亜美ちゃんに何も言わなかった。
どうしてだろうか、好きだと言ってくれる亜美ちゃんに何も応えてあげられない事が、スズと重なっているような気がして、心が疲れるような想いになる。
「嫌なら私がやるわよ」
「……できるの?」
「そりゃできるわよ。誰かと違って、機械音痴じゃないもの」
美奈はスズの死んだ年代と、それからその年の月の満ち欠けを調べ、事件のあった年月日をすぐに探し当てた。スズが16歳の4月の満月の夜に呪いをかけられ、その次の満月に死んだのだ。
「メールで、若木さんに当時の新聞記事と事件のデータを転送してもらうから」
「ありがと」
レイは身体中の全ての疲れを吐き切るように、深くため息を吐いた。
「大丈夫?」
「…………えぇ」
「少し時間がかかるみたいだし、寝ていたら?」
「そうね……」
置いてあるソファーに場所を移して身体を横にすると、すぐに意識が朦朧としだした。
朝から精神的にきつかったせいだろう。

確実に身体は死へと向かっている。

そんな気がする。

自分の顔を鏡で見たら、死相が見えているだろうか。
それが怖い。




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Date:2014/11/04
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