【緋彩の瞳】 ある恋と愛の物語 ⑩

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

ある恋と愛の物語 ⑩

「………亜美ちゃん」
今宵は新月だ。赤く染まる手は夜ごと範囲を広めて、肘まで広がっている。美奈と一緒にスズに何度か会いに行ったが、会えなかった。今日また2人で探しに行こうという約束をしている。そして占い師と名乗ったであろう純平さんも、なかなか見つけきれない。
「調子、どうかなって思って」
「うん。まぁ、少しずつね」
学校から神社に戻り、夜遅くを待ってから行動しようという約束をしていた。終電が終わって人がいなくなってからでなければ、スズと話をしにくい。
亜美ちゃんは放課後に神社に来てくれた。彼女にはまだ、スズのことを話していない。
「そう。事件のことはその後、何かわかった?」
「うん………確実に呪いを解く方法っていうのはわからない。あの花嫁さんはきちんと知らないみたいで、何か打開策をって考えてはいるんだけどね」
亜美ちゃんは服を着替えていて、差し入れを作って持って来てくれた。レイは亜美ちゃんの作ってくれるサンドウィッチが好き。本当に食欲が減ってきていて、料理をするにも自分の赤く染められた手を見なければならなくなり、何か買ってきても食べたいという気持ちを削がれてしまう。
「美奈子ちゃんと2人で解決するつもりなの?」
「……この事件は、ずいぶん前に死んだ人間の愛憎が絡んでいて。……正直言うと、被害者の3人も巻き添え食らった感じなのよね。亜美ちゃんは関わらない方がいいわ」
亜美ちゃんが心配していることもわかるし、そしてスズから聞いた話のことをレイが何も言わないことに苛立っているということもわかる。包帯をはらりとはがして亜美ちゃんに見せた。
亜美ちゃんが見た最後より、ずいぶん綺麗に赤く染められている。
悲しい瞳がそれを見つめる。心苦しい。
「美奈子ちゃんが消したデータを、勝手に復元させてもらったわ」
「………流石?それとも美奈が馬鹿なの?」
「いえ、美奈子ちゃんは完璧にデータを消していたわ。でも、指令室のコンピュータは私が操作しやすいように、ずっと前に色々ソフトを入れ換えていたから」
「流石、なのね」
それでも、亜美ちゃんにこれ以上関わらないでと懇願すれば、亜美ちゃんは悲しい顔をしながらも頷いてくれるだろう。
「美奈子ちゃんには情報が欲しいってお願いしたわ。第3者としての意見が欲しいから、それは構わないって言われたの。一緒に行動しないわ。ただ、情報が欲しいの」
「………美奈がそう言うのなら」
レイが拒否する理由を亜美ちゃんはわかっている。美奈は頭が良いから、亜美ちゃんに情報処理をさせることが一番いいとわかっている。レイの感情なんて考えもしていないのだろう。
1週間も情報を得ることが出来なかったから。一応は美奈もレイに猶予を与えたというわけだ。
文句も言えない。
「美奈子ちゃんからスズさんのことも合わせて、昔の資料をもらったわ。レイちゃんは直接会ったけど、私は会っていない。美奈子ちゃんから、純平さんがスズさんと同じように彷徨う亡霊であったのなら、どのあたりに現れると思うか、って聞かれたの」
「……へぇ。それで?」
レイは資料を読んで毎日、夜中に美奈と別れてから探しまわった。スズのお墓あたり、スズの実家あたり、純平の実家、今もある純平一族の持っている土地。
スズはレイの学校の卒業生だった。だけど、学校にそんな霊の気配を感じたことはない。
「呉服屋さんは今もあるの?」
「あるわ。うちの学校の近くに。探したけれど、気配はないの」
「その呉服屋さんの彼と、どこで会っていたの?堂々とデートをしたの?逢瀬の場所は?きっと隠れて会っていたんじゃない?」
「……そんなのわからない。スズに聞かないと」
「スズさんに会えないの?」
本当に会えていない。あちこち探し回った。睡眠時間を削ってばかりだから、美奈はきっと毎日遅刻しているはずだ。
「あれからは会えていないの。あの人、放浪癖でもあるのかしらね」
「探す時間帯を変えたから、という可能性は?」
「幽霊よ?」
「でも、例えば朝じゃなければ会えない幽霊なんていうことは?」
「わからないけど……」
「呪いにかかって死んだ幽霊なんて言う存在、レイちゃんは初めてでしょう?今までの経験を頼りにして、見失っていることや、想いこんでいることはないかしら?」
とても冷静に見つめてくる亜美ちゃんの瞳は、レイに好きだと言ってくれた時と変わらない色。
この瞳の色はとても好きで、とても息苦しい。
「……月が空にある時間に、スズは姿を見せないというの?」
「そう言う考えをしてみるのも、ひとつだと思うの。そして、純平さんはその逆だとして、夜にしか現れない。2人は別の時間帯に、別の場所にしか現れない」
美奈の勘は正しい。亜美ちゃんが必要だとわかっていたから情報を漏らしたのだ。そして、亜美ちゃんならレイとは違う考えをするだろうと。
レイが左腕を覆う鈍い痛みで、冷静さを失うことも計算しているのではないだろうか。
「美奈には早起きをしてもらわないとね」
すぐにメールで待ち合わせ時間帯の変更を送る。1分で返事が返ってきた。
鬼のような時間だと文句だけの返事だった。
「ごめんね、亜美ちゃん。あんまり、亜美ちゃんを巻き込みたくなくて」
「気を使ってくれたのでしょう?別にいいのに。もしも私に変な気を使うのなら、止めて欲しいの。私、そういうのは嫌だから」
亜美ちゃんの涼しい頬笑みは、やっぱりあの時と同じで。何も変わらないんだって思ってしまう。そしてレイも何も成長できていない。
知りたくもなかった。言わないで欲しかったという気持ちがないわけじゃない。嬉しいという気持ちがあったのは確かだ。
そして、心地が良いと思うことだって少しはある。
だけどそれは、ずっと傍にいたいと思えるものじゃない。
「ありがと、亜美ちゃん」
「死んでほしくないの。レイちゃんを助けられないなんて、何もしないで見ているだけなんて、それだけは嫌なの」
「……私、助からない…気がする」
罪が身体を染めるような真っ赤な左手。動かすことはできるけれど、今までの感覚がどんなものだったのかが分からない。
「馬鹿なこと言わないで」
亜美ちゃんはきつくレイを抱きしめてくれた。短い髪が頬に当たって、優しい吐息が肩にかかる。
「……私に触れて、呪いにかかるかも知れない」
「大丈夫よ」
根拠なんて何もないのに。
抱きしめ返してあげられないけれど、それでも亜美ちゃんに身体を預けることがレイの精いっぱい。
「朝、また情報を集めたら亜美ちゃんに伝えるから。美奈にさせるわ」
「うん。無理しないで。きっと方法はあるはずだわ。殺された3人の経歴や人間関係をもっと詳しく洗い直そうと思っているの。職業だけじゃなくて、何かもっと根の深いところに関係性があるかもしれないわ」
スズが呪い殺され、少なくとも3人は同じ呪いで殺されたと言うのに、レイが助かる方法はあるのだろうか。
死んだ3人とレイに共通する何かが分かれば、解く方法もわかると亜美ちゃんは考えているのだろう。レイと美奈がスズと純平さんから答えを導き出す道と、亜美ちゃんが亜美ちゃんなりに調べて答えを導き出す道が、同じ場所にあればいいのに。
美奈と亜美ちゃんの努力を無駄にしたくはない。



「いた!」
「……え?!」
朝の4時半に起こされた美奈は、待ち合わせの駅について早々、レイちゃんの声で気だるい身体が身震いした。
「スズ」
レイちゃんは誰もいない壁に向かって人1人分の距離を保って話しかけている。美奈子は目を細めて見たけれど、やっぱり何も見えない。
仕方がない。セーラーV時代の赤いゴーグルをかけて見た。おぼろげに白無垢の少女が見える。
「聞きたいことがある。純平さんのことで」
レイちゃんの声は聞こえても、スズの口元から発せられる声は聞こえたりしなかった。
「あなたにかかった呪いを解く方法を、純平さんに聞きたいの。純平さんも、あなたと同じように成仏せずに彷徨っているはずだわ。聞きだして、あなたを縛るものから解き放って、自由にしてあげるから」
それはレイちゃん自身の呪いを解くためだ。だけど、レイちゃんは自分が助かりたいなんて言わない。
「ちゃんとあなたを解放してあげる。それにあなたは純平さんのことを、たぶん誤解しているのよ。とにかく話を聞いて。その呪いを解かなければ、あなたは永遠に孤独にさらされた朝を繰り返すだけよ。そして、これからも犠牲者は増え続けていくわ」
一点を見つめるまなざしは険しく、霊力を使いながら幽霊を説得させている。その背中は痛々しい。
「あなたをずっと探していたわ。あなたの姿は朝にしか見つけられない。それは呪いのせいなの?」
スズの唇が動いている。大人しくレイちゃんの言うことを聞いて答えてくれているのだろう。
「純平さんの居場所…彼もあなたと同じように彷徨っていると思うの。私たちは純平さんに会って、あなたに降りかかっている呪いを解く方法を掛けた本人に聞きたいの。心あたりがあるのなら、教えてほしい」
白無垢の花嫁はレイちゃんを見上げて首を振った。レイちゃんの背中からやるせなさと苛立ちが見える。
「スズ、正彦さんとはどこで会っていたの?あなたが抱かれた場所は?そこを純平さんが知っていたということはない?」
レイちゃんは幾つもの質問をスズにぶつけて、そのたびにスズの唇は動いていた。それが否定なのか詳しい答えなのか、美奈子にはわからない。だけど、レイちゃんの背中からは期待できるような答えが得られたようにも見えないし、あるいは知らされたことがらに絶望しているようにさえ見る。
「わかったわ、ありがとうスズ。でも、本当にそれしか答えがないと言うのなら、どうして私に呪いがかかるの?私は誰も好きじゃないし、誰からも愛されていないわ。誰かを裏切ったこともない。やっぱり、直接純平さんに会わなきゃ。あなたにかけられた呪いもとかないといけない」
ゴーグルで見つめるレイちゃんの身体からは焔のエネルギーが放出されている。
「美奈、行くわよ。とりあえず指令室に」
「聞きたいことは聞けたのね?」
「大体はね」
レイちゃんは振り返ると、美奈子の腕を掴んで歩き始めた。人がほとんどいない駅前はとても静かで、少し寒くて、なんだかさみしい場所だ。
「スズがここにいるのは、ここに昔、宿があったからだそうよ。呉服屋さんに抱かれた場所で、今もその男を探しているんでしょうね。本人はただ、会いたいだけだと言っているけれど」
「………反省のない子なのね」
「純平さんの気持ちは、スズにはまだわからないのよ。たぶん、それが原因であの子にかけられた呪いが解けないのね」
レイちゃんはスズに助けてあげる、なんて言っていたけれど、本当にそんなことが出来るのだろうか。




And I don't know what is LOVE
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Date:2014/11/06
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