【緋彩の瞳】 ある恋と愛の物語 ⑫

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

ある恋と愛の物語 ⑫

『当時の街灯の数、スズの待ち合わせ可能な時間帯と、人通りの少ない時間帯、道幅、誰にもわからない場所、全て考えて今の地図と重ねてみると、考えられる場所はひとつあるの』
気を失っているレイちゃんは、しばらく目を覚ましそうになかった。美奈子は休み時間を狙って亜美ちゃんに調査を急かし、星印を付けられた地図を送り返してもらった。
「ありがとう。夜になって行ってみるわ」
『夜とは限らないわ。スズの学校が終わった放課後の時間帯なんてどうかしら?15時~18時までの間とか』
「なるほどね、そうか。そうしてみるわ」
レイちゃんは夜だと言っていたが、逢瀬の場所にこだわって純平が現れるとするならば、確かに学生だったスズが逢瀬の可能な時間帯かもしれない。美奈子だけでは、純平と言葉を交わすことはできない。だが、やみくもに探すよりは、ゴーグルでいるかいないか、それだけでも調べることはできる。みちるさんをすぐにでも呼び出したいところだが、今はまだ我慢だろう。レイちゃんが変な癇癪を起して、ややこしいことになっても困る。
『レイちゃんは?』
「身体がきついみたい」
『……そう』
「何か思い違いがあるみたいで、亜美ちゃんに抱かれたらいいのかな、なんて寝ぼけたこと言ってたわよ」
レイちゃんが思いつく愛されている人は、亜美ちゃんしかいないらしい。
そしてそれは、愛ではない。
『でも、残念ながら私じゃないわね、それは』
「………相思相愛じゃなければね」
『みちるさんに言うの?』
「どうしても、それしか方法がないのなら」
『“相思相愛”よ?』
「………そうよね」
美奈子も亜美ちゃんもみちるさんも。
誰もレイちゃんを救ってあげられないのだろうか。
望みがあるのなら、唯一レイちゃんが想いを馳せている人だけではないだろうか。




「………純平」
気を失ったまま起きる気配のないレイちゃんを置いて、美奈子は亜美ちゃんが教えてくれた場所へと向かった。当時の地図では人目につかない裏道の行き止まりだったが、今は道が開けていて、それなりに人もパラパラ歩いている。抜け道、と言ったところだろう。
そこには、黒い服を着た占い師と間違えても仕方がない容姿の、痩せこけた男が立ち尽くしていた。
当時の新聞記事に載っていた火傷痕と眼帯は、黒いフードをかぶっていても、全てを隠せてはいない。亜美ちゃんとレイちゃんの読みは当たっていたのだ。時間は16時半。
『スズを……スズを助けてくれ……』
「何?」
『スズを…』
ゴーグル越しに視線が合った。純平がまっすぐに美奈子を見つめて、霊感もなく聞こえないはずの声が心の中に染み込んできたような錯覚を覚えた。
「スズを?助けてほしいの?」
だが、純平の声はそれ以上聞こえたりしない。これほどまでに近くにいても、やはり美奈子には会話を成立させる能力はないのだ。
「……スズを助ける?どうしてここでスズを待っているの……」
スズがここで逢瀬を繰り返していたことを知っていても、抱かれた宿の場所を知ることはなかったのだろう。そして死んだスズがここに来るかもしれないと、本気で思っているとしたら、なんてお人好しで大バカ者なのだろう。

愛する人が自分を愛さないことをわかっておきながら
呪いをかけて殺したくせに
裏切られてもなお、それを許しているのだろうか
死んだスズはなお、純潔を捧げた男を想っているのだ
純平がそれでも、そんなスズを愛しいと思っていても、永遠に伝わらないのに

「スズ自身が呪いをとけないから、呪いそのものを消滅させるために、他の女を使ってとかせようとしているなんてこと……あるのかしら」
あの幽霊になったスズは、自力では自らに降りかかった呪いをとくことはできないだろう。
他人が説得したところで、感情を変えることはできない。

純平の愛は一度もスズには届かないで、焼き尽くされた。
それでも、目の前の純平はスズを助けてくれと美奈子に伝えたような気がする。

この人が成仏できないのは、いや、“しない”のは、自らが犯した呪いという罪を償うためではないだろうか。
人を殺すという手段を持って。




レイちゃんは一日中、目を覚まさなかった。亜美ちゃんが様子を見に行ったらしく、ずっとベッドで夜遅くまで眠っていたので、そのまま起こさずにいたという。夜その連絡をもらい、朝、様子を覗きに行ったが、美奈子が寝かせたままの服で、レイちゃんは気を失うように深く眠っていた。
起きたら連絡をするようにとメモを残して指令室へ向かうと、呼び出していた亜美ちゃんが待っていてくれた。
「はい、これ。殺された3人の被害者のデータ」
「ありがと」
亜美ちゃんは、満月の夜に殺された3人の経歴をできるだけ細かく調べてくれたらしい。
「離婚歴と中絶か」
レイちゃんと会ったという被害者には、2度の離婚歴と3度の中絶という痛々しい過去がある。
「2人目は婚約破棄をされたみたい。クスリをやっているということがばれて、婚約者が警察に通報していたの。3人目は、結婚や婚約はないけれど、結婚詐欺に近いことを繰り返していたみたいね。お相手が大きな会社の役員ばかりで、警察沙汰にはしなかったみたいだけど、それ以外に本命の彼氏がいたみたい。名乗り出ない通報者がおそらくそうね」
「…………レイちゃんと共通することなんて、ますます遠のいたんじゃない?」
「でも、殺された3人とスズの共通点はあるわ」
「愛を裏切る行為?」
「純平さんは、制裁したかったのかしら?」
亜美ちゃんは、純平が“スズを助けて”と言ったと言う情報を知らない。
確かに制裁と捉えるべきだろう。これは、この被害者たちとスズを重ね合わせて、愛を裏切る行為をした被害者たちに罰という呪いを与え、真実の愛だけがその呪いを解くのだと伝え、彼女たちに真実の愛とはどういうものか、ということを知らしめるという自己の満足なのだろうか。
そんな単純な、鬱憤を晴らすものだろうか。
レイちゃんは何も罪を犯してなどいない。
「制裁とは限らないわ」
純平はどうしたいのだろう。


たとえば、美奈子が純平だとしたら。
スズを助けたいと思う気持ちはわかる。

そして、そのために人を殺してもいいという考え方はわからないわけでもない。
愛する人を自らの過ちで殺してしまった。
せめて、彷徨える魂を助けてあげたいと思った時、
美奈子ならどうするだろう。

その呪いを解く方法は本当にひとつだけしかないのだろうか。




「気分は?」
「………寝すぎたわ」
「顔色、あんまりよくないわよ」
正直、今日が何月何日で今が何時なのか、携帯電話で確認して驚いた。
24時間以上寝ていたことになる。でも、レイには寝ていたと言う感覚よりも、本当に気を失っていたという言葉通りだったと思う。
身体が自分の思っている通りに反応しない。歩きたいと思っても、引きずっているように感じるし、腕をあげているけれど、本当に腕をあげているのかがわからない。
美奈との待ち合わせ場所はTA女学院の裏門だったが、そこまでたどり着くのに、いつもよりも時間がかかってしまい、10分前に着くはずが、10分オーバーになっていた。
「レイを助けるためにレイを利用するなんて、悪いことをしているとは思ってる」
「別に。自分のことだもの」
美奈はいつもの瞳よりも険しい。このひどい有様を見て、心苦しいと顔に書いている。
「昨日、場所はもう見つけたの。たぶん、そこに純平はいると思う」
「こんな夕方なのに?」
「亜美がね、逢瀬の場所にいるのなら逢瀬の時間に合わせたらどうかって。だから、学校が終わる時間帯に的を絞って、昨日行ってみたのよ。ゴーグル越しに純平を見つけたわ」
「そう。やっぱり亜美ちゃんは凄いわね」
美奈はレイの腕を取って、引っ張るように歩いている。そうして欲しいとお願いをしたわけじゃないが、フラフラと歩くよりはずっと楽だ。
「美奈、明日空いてる?」
「空いてるわよ」
「言い忘れていたんだけど、リサイタル。みちるさんがチケット2枚くれているの。美奈、一緒に行く?」
「あぁ…うん。じゃぁ、神社まで迎えに行くわ」
「そうね。長袖のジャケットを出しておかないと……」
腕や胸元の開いた服ではもう、血のように染められた腕や胸が良く見えてしまう。美奈は引っ張っていた力を抜いて、無言でレイの左の袖を勝手にめくった。鮮血のようなそれを、初めて美奈に見られた。あまりに唐突過ぎて、止めてという声さえ出せない。
「あと2週間近くあるわ。必ず解く方法を見つけ出してあげる」
「……美奈は、どうしてそんなに必死になるの?」
「当たり前でしょう?もう二度と、誰ひとり死なせたりしないわ。それが私の存在意義なのだから」
「敵じゃないのに」
「どんなことでも同じよ」
美奈や亜美ちゃんが学校をさぼったり、睡眠時間を削ったりしてくれても、レイは自分が助かる未来が見えていなくて、申し訳ないと言う想いしかない。
ただ、満月まで死ねないだけ。静かに死を待ち続ける苦しみを見せつけているようで、悪い気にもなる。
「………私……」
“もう、未来が見えない”
言葉を紡ごうとしたけれど、それを言わせない強い眼差しがまっすぐにレイを捕らえた。
「絶対に死なせない。勝手に死ぬ気にならないで」
「………………わかった」
頬をそっと包む掌の温もり。まだ、人の温度を感じられる。レイが死んだら、美奈も亜美ちゃんもきっと自分を責めてしまうだろう。
死ぬことも簡単にはできないのだろうか。




You are here alone again in your sweet insanity
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Date:2014/11/08
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