【緋彩の瞳】 ある恋と愛の物語 ⑬

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

ある恋と愛の物語 ⑬

「……純平さん」
見つけた。黒い服に身をまとった眼帯を付けた男の人が、まっすぐにレイを見つめている。その人はスズのように薄くほのかに見えるのではなく、はっきりとその姿かたちを確認することができた。レイと会った被害者が占い師に会ったと言っていたが、彼なのだろう。そして、霊感がなくても、呪いを受けたものは彼をはっきりと見ることができるのかもしれない。
『純潔の少女……君を待っていた』
「あなたが、この呪いを私にかけたのね?」
『もう、何度繰り返しただろう。誰も真実の愛を求めようとはしない。死を目の前にしてもなお、愛を受け入れることも捧げることも……。スズを助けてはくれないのだ』
スズを助ける。純平はスズを助けるために、無関係の女の人達を巻き込んだのだろうか。美奈から送られてきた資料では、3人にはそれなりに共通点があると言っていた。それぞれがいろんな事情で、心から愛してくれる人と添い遂げることが出来なかったのは、仕方がないことだ。どれほど愛されていても、受け入れられないことだってあるし、どれほど捧げても受け入れてもらえないことだってある。想い合っていても、永遠に一緒にいられないことだってあるだろうし、別れてしまうこともある。

世界は愛し合う人間だけで構成されてはいないし、人は愛だけではお腹は満たされない。

「……この呪いは、スズを助けるために私にかけたのね?」
『純潔の呪いを解く方法はひとつだけだ。いや、解くのではない。呪いというものを消滅させる方法はひとつだけしかない。スズが永遠にこの呪いから逃れられないのなら、他の者が同じ呪いにかかり、消滅させるしかないのだ』
枝分かれのように、無数の女の人に注がれた呪い。1人でもその呪いを解くことができたら、スズの呪いも消滅すると言うことだろう。
スズは死んでいると言うのに。
「呪いをかけたあなたを、私が御祓いしたらどうなるの?」
『……君が最後の1人になり、スズは永遠に呪縛から逃れられない。スズの魂を救わなければ、私は死んでも死にきれない。私が消えてスズが助かるのなら、初めからそうしていただろう』
御祓いをしてもレイの呪いは消えることはない。純平さんが嘘を吐いているようには見えない。
「つい最近、死んだスズに会ったわ。彼女は……あなたがどれほどにスズを愛しているか、わかっていないのよ?心の中に愛しい存在としてのあなたはいないの」
『あぁ、そんなことはわかっている。構わないのだ。私はもう、愛してくれなどと願っているわけではない。だが、かけた純潔の呪いは愛というものの存在証明なのだ。真実の愛を持つ人に愛を捧げるという呪いの解き方は、とても簡単でいて、ひどく困難なものだ。だからこそ、裏切るという行動を抑制させるものであった。………砂になっていった女たちは、誰も私の訴えなど、真剣に聞きはしなかった。愛を持つ男の元へ帰れと言う忠告を、ことごとく無視していった。スズとは違って、本当は愛が何なのかを知っているはずの女たちを選んだと言うのに、誰もが目を背けている』
彼はまるで被害に遭った方が悪いと言わんばかりだ。彼女たちの命を奪ったことなど、悪いだなんて露ほどにも思っていないのだろう。そういう人だから、自分の妻に呪いをかけることができるのだ。それがたとえ、どれほどに清らかな想いであったとしても、人を殺していい理由になどならない。まして、死んでいる人間の魂の解放のためという、すでに命のない存在のために。
「あなたには幸せな形で成仏して欲しいと思っていたけれど、あなたは……人を殺したの。人殺しに同情をするほど、私は優しくないわ」
もし、どうしようもなくなくなったら、レイで打ち止めにするしかない。
次の満月の夜までに、純平を御祓いして、そして可愛そうだけれど、スズも御祓いしてしまおう。
そしてレイが死んで、数十年に渡った呪いは全てが消滅することになる。
純平もスズも、願いが消化されることなく魂も輪廻転生することもない。

だけど、その方が良い。
互いに犯した罪を償える日は永遠にやってこないのだ。
そして、償えたからと言って、殺された人たちは返ってこない。

『あぁ……100人殺しても、スズを助けられないだろう。もう、この世界の愛は枯渇してしまったのだ。それでも私はここで、スズを助けてくれる人を探し続けることを止められない』
生まれ変わることになんて興味もないだろう。ただ、スズを助けたい。そのためにここにい続けている。
「どうして、この場所に?スズは絶対にここに現れないわ」
『スズに会いたいのではない。彼女も私に会いたいなど願っていないだろう。ただ、私は私が過ちを犯した原点であるここにいたい』
「………逢瀬を見てしまったのね」
『いっそ、両目を失っておればよかったと、今も悔やんでいる。本当は、ここである男を待っていたが、彼は永遠に来ることはないのだ。初めからわかっていたこと。仕方のないことだ』
「……男…?」
呉服屋の息子に、文句でも言いたいのだろうか。おそらく成仏しているから、それは永遠に無理な話だ。
法の裁きを受けられない相手なのだから、レイが御祓いしてもいいだろう。
彼は逃げることも隠れることもしない。
「………スズに、愛しているって言ったことある?」
『そのようなこと、男が口にするべきことなのだろうか』
古臭い。レイは自分も言ったことないくせに心の中で思った。
「まだ16歳なのでしょう?スズが恋した正彦さんとあなたの違いは、その一言があるかないか、じゃないのかしら。恋も愛もわからないスズは、好きだと言われた正彦さんに恋をした。子供の恋なんて、そんなものよ。あなたがちゃんと、愛しいとスズに伝えていれば、呪いをかけるまでもなかったはずだわ」
眼帯の彼は、右目から感情を流すように雫をこぼした。ただ、愛していると言う想いだけでここにとどまり、人を殺し続けた彼は、愛がどういうものなのかを知っていても、伝える術を持てなかったのだ。

レイだってわからない。
だからこれは、勝手なレイの都合のいい想像でしかない。

『純潔の少女、君ならば呪いを解いてくれるだろう。真実の愛を持つ人に愛を捧げることだけが、命を救うたった一つの方法だ。この言葉を君は理解しているであろう』
それは、スズがレイに伝えてくれた方法とは、似ているようで違うものだった。
スズの解釈とは、やはり違ったのだ。
愛してくれる人に愛を捧げるということと、真実の愛を持つ人に愛を捧げるということは、何かが違う。愛してくれる人が真実の愛を持つ人とは限らないのではないだろうか。
だけど、どっちにしろレイにはそんな人はいない。
「…………それが誰なのか、私にはわからないの。今まであなたが選んだ人は、愛してくれる人や愛するべき人がいたのでしょうけれど、私は誰かに身体を捧げたこともなければ、愛したこともないわ」

偶然レイを選んだのだろうか。意図的にレイを選んだのだろうか。
だが、満月を迎える夕暮れ、あの被害者の女性と会うちょっと前に、レイはこの道を通ったことを思い出した。怪我をしたクラスメイトのお見舞いのため、初めてこの道を歩いた。

何も感じたりはしなかった。
本当にただの偶然に過ぎないのだろうか。

『この呪いは、真実の愛を持つ人に想われている者にだけかかる呪い。君が知らないだけだ』
「………だったら、意味がないわ」
『君は愛しているはずだ。気づかないだけじゃないのか。その人に純潔を捧げさえすれば』




レイの脳裏に浮かんだのは、柔らかいウェーヴ
優しいヴァイオリンの音色




みちるさん

「……………み……………」


みちるさん



みちるさん



純平さんが右の瞳から涙を流すのと同じように、涙があふれてくる。
左手に巻いている包帯で涙を拭きながら、深く息を吐き捨てた。

好きだと思わないようにしていたのに。
どうして今、みちるさんの顔を思い浮かべてしまったのだろう。
好きだと言ってくれた亜美ちゃんじゃない。レイが想ったのはみちるさんだ。

あぁ、もぅ、レイは死ぬしか道が残っていない。




みちるさんはレイを愛してなどいない



純平さんは、何かを見誤ってしまったのだ



never say I love you
関連記事

*    *    *

Information

Date:2014/11/09
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/388-e02d4e70
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)