【緋彩の瞳】 ある恋と愛の物語 ⑭

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

ある恋と愛の物語 ⑭

『私に言った言葉を君にも言おう。愛していると声に出せばいい、と。そして呪いを解いてくれたまえ。スズを………スズを助けてやってほしい』

スズなんてどうでもいい。かろうじてその言葉を言わないように、口に手を当てて言葉を飲み込んだ。怒りと絶望は底のない砂地獄にレイを押しやろうとしている。
頭を押さえつけて砂の中に身体をうずめて、消し去ろうとしている。

「………あの人に……」


みちるさんを巻き込みたくはない。レイの一方的な想いに巻き込んで、命乞いをして、抱いてくださいと懇願するくらいなら、死んだ方が良いに決まっている。

『それが、スズを救う唯一の術であり、君を救う術だ』
「………本当にそれしかないのね?」
『それだけだ』

一つだけの瞳がレイに嘆きを浴びせてくる。
もう、同情する理由などない。


「じゃぁ、私が正常に立っていられるうちに、あなたを御祓いしておかないとね」
少し後ろでゴーグルをしたまま、腕を組んで立っていた美奈へと視線を流した。
「美奈。純平さんを始末するわ」
これは殺された女性たちと、レイを死に至らしめたことに対する制裁だ。
「純平が今までの殺人事件の犯人なのね?」
「えぇ。本人も認めている。私の身体にかけたのも、この人よ。愛だの純潔だの、綺麗ごとを並べているけれど、この道を通った女性たちの中から勝手に自分の物差しだけで愛を裏切った罪を持つ人を選んで、死に至らしめた。何の罪もない人達を」
「始末して、レイの呪いは解けるの?」
「大丈夫よ」
美奈はレイの傍に来て、純平さんをきつく睨みつけた。

美奈に声は届かない。
今までの会話は聞かれてなどいない。
レイが死にゆく結末をまだ、美奈は知らない。

『スズはやめてくれ』
「考えておくわ」
『私は構わない。スズだけは、君が真実の愛の証明を果たしてくれるだろう』
「悪いけど、ありえない。永遠に彷徨い続けるよりは、意志もない世界に行く方が幸せだということもあるわ」
『君でも……純潔の少女でも、できないと言うのか。あぁ、スズ。スズ…』
純平さんは、スズの名を何度も呼びながら、嘆きの雫をレイに浴びせた。
レイはもうその想いに同情などできなかった。
死んだ者同士のために、関係のない人を殺したのだ。


生きているときに、たった一言言えばよかっただけのことなのに。




「レイ、彼は泣いているけれど……いいのね?」
「いい。連続殺人犯に同情するなんて、無駄なことはしなくていい。第一、同情の余地はない」

純平はスズの名を呼び続ける。

スズを助けてくれ
スズを助けてくれ
彼女の呪いを解いてくれ
彼女を葬らないでくれ

自分がそうさせたというのに。
愛していると声に出さなかった、その過ちは純平さんだけにあるというのに。

「美奈、やるわよ」
レイはお札を取り出し、念を込めた。
「わかった。責任は私が持つ。魂の欠片も残さずに始末しなさい」
美奈の命令の言葉を聞き、持っている力のすべてを込め、お札を彼の額に貼りつけた。
眼帯の彼は、スズの名前を叫び続けながら、ゆっくりと赤い光に包まれ、そして声も細く途絶えていった。

魂が朽ち果てても、こびり付いた罪は消えやしないだろう。
人の命と引き換えに、死んだ妻を縛り付ける呪いを解こうとするだなんて。
自らがかけた呪いだと言うのに。


「レイ」
死にそうな横顔。頬を伝う涙が赤く見えたのは、お札が放っていた光のせいだろうか。
「大丈夫?レイ」
「…………美奈…」
腰が抜けたようにしゃがみ込んだレイちゃんは、顔を手で覆い、小刻みに身体を震わせていた。
「レイ」
「………美奈、警察には今までの事件は事故として処理するように言っておいて。それにもう、被害者は出ないから」
「うん。レイは?」
「大丈夫」
「本当?」
「………えぇ」
嘘を吐いている。
だけど今はそれをきつく問い詰められそうにない。意識はあるが、立つこともままならないレイちゃんは、純平に何を言われたのだろう。レイちゃんの声だけでは、予想しかできない。
レイちゃんは助かる方法を聞かされて、何か絶望をしたのだろうか。それとも助からないと言われたのだろうか。みちるさんに抱かれろとでも、言われたのだろうか。

愛しているとスズに言わないからだ、なんてレイちゃんは声に出していた。

どういう流れでそうなったのだろう。




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Date:2014/11/10
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