【緋彩の瞳】 ある恋と愛の物語 ⑯

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

ある恋と愛の物語 ⑯

心地いい音色を魂が忘れないように、レイは目を閉じて静かに耳を傾けた。
この想いは恋であり、愛ではない。純平さんに言ったように口に出して伝えればいい、なんていう想いなのだろうか。他人のことならわかるのに、自分のことは何も分からない。
優しい人だから、みちるさんは驚きながらも微笑んでくれるだろう。レイはそれだけで満足してしまいそうだ。みちるさんを想う気持ちは、みちるさんに抱かれたいだとか、みちるさんの素肌に触れたいなどと願う気持ちではない。
レイはまだ、子供なのだ。
恋すらまともに操ることが出来ない、愛も知らない子供なのだ。
亜美ちゃんが、まっすぐに見つめてレイに好きだと告げてくれた、強くて優しい想い。みちるさんと出会う前だったと言うのに、誰も想う人がいないのに、レイは亜美ちゃんの気持ちと同じものを持つことが出来なかった。受け入れることが愛だと思えなかった。それも見誤っていたのだろうか。

この呪いは、真実の愛を持つ者に愛されている者だけにかかる

純平さんの言葉通りなら、それはやっぱり亜美ちゃんなのだろうか。それとも他にいるのだろうか。レイの身近な人間で、レイを想ってくれている人は、亜美ちゃんしかいない。
でも、レイは亜美ちゃんを愛していない。
友達として、前世からの仲間として愛しい存在だけど、それは素肌に触れたい言うものではないのは確かだ。そして亜美ちゃんがそれを願っているだなんて、思えない。

知らぬ間に、レイが誰かを裏切っているとでも言うのだろうか。
愛している人だなんて、本当にいないというのに。

レイがみちるさんを想っているこの気持を
本当は“愛”だと言うのだろうか
レイに性的欲求がないだけで、恋と愛を混同させてしまっているだけなのだろうか。



レイもまた、スズと同じように、愛も恋も何も分からないまま死を迎えるのだ。
スズは純平さんから深く愛されて死んでいったが、レイは誰からも愛されることなく、誰にも知られず死んでいく。

いずれ、必ず気づかれる時も来るだろう。
でもその時は、レイがどういった経緯で死んだのかが分からなければ、誰も自分を責めたりはしないはずだ。

そのために考えた計画を実行すればいいだけだ。

誰も悲しませずに済む、一番いいお別れの方法を。



みちるさんの奏でる旋律が酷く優しすぎて、痛む身体にじんわりと響く
ふいに涙がこぼれ落ちた
そっと目を開ける
ぽたりとこぼれた雫は、膝の上に置いていた左手に巻かれた包帯に落ちて、じわりと広がる。


好きだという気持ちが痛いけれど
何かが胸を満たしてくれる

だからもう



死んでもいい






「駅まで送ろうか?」
「ううん。お迎えが来るから。おばさまの家から、車が来ているはず」
「へぇ。お金持ちね」
「まぁそうかもね。明日からは学校お休みして、別荘に遊びに行くの。おばさまが陶芸をなさっていて、山籠りに付き合おうと思って。自分で窯を作っちゃっているみたい」
「ふーん。金持ちの趣味って、お金かかるわね」
目を少し赤く腫らしたレイちゃんは、何事もなかったようにふるまっている。会場を出ると、高そうな車がレイちゃんを待っていて、運転手さんがドアを開けてくれていた。
「荷物は?」
「全部、別荘に送ったわ。お土産買うようなところもそんなにないし、陶芸でお皿でも作ってあげるわよ」
何をのんきなことを言って。そういうの、あんまり得意そうにも見えないけれど、美奈子よりは手先は器用なはずだから。
ものすごくシンプルなのっぺりとしたお皿が出来そうな気がする。
「そっか。んじゃまぁ、とりあえず気を付けて行ってきて。ちゃんと、毎日18時に私に電話しなさいよ」
「はいはい。まったく、なんでそんなメンドクサイことを。あんたも人にそんな命令するくらいなら、自分でレポート書いたら?亜美ちゃんの貴重な勉強時間を奪うのは悪いわ」
演奏後のみちるさんに会うこともなく、レイちゃんは車に乗り込んでしまった。
「みちるさんに挨拶しなくていいのね?」
「うん。よろしく言っておいて。こっちからも連絡はするし、みんなにも。おばさまは1カ月くらいのんびりしたいって言っていて、学校への許可も一応1カ月は取っているけど、どこまでおばさまの機嫌に付き合うかもわからないし。こっちはこっちでのんびりするから、美奈もしっかり休んで、補習を受けて」
美奈子は頬を膨らませて、どうして自分だけがと不満を見せた。レイちゃんはおとがめなしの上に1カ月休んでもOKで、美奈子が補習。私立と公立の差というか、何と言うか。休んでいる分の課題はあるとか言っているけれど、その程度でいいのなら、美奈子だってそっちが良い。
「じゃぁね、美奈」
「うん。明日、電話してね」
「うん。携帯通じないから、固定電話からすると思う」
レイちゃんは、固定電話の番号の書かれた紙を美奈子に見せてくれた。
メンドクサイと言う割には、ちゃんと気を使ってくれている。

怖いくらいに。

手を振って、レイちゃんを見送った。これが永遠の別れでもないのに、胸騒ぎがするのはどうしてだろう。
あの呪いは、本当に解けているのだろうか。
美奈子はどうして、レイちゃんを縛りあげてでも、傍においておこうとしないのだろうか。


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Date:2014/11/11
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