【緋彩の瞳】 ある恋と愛の物語 ⑱

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

ある恋と愛の物語 ⑱

木曜日になって、レイはここから場所を変えることにしている。おばさまは東京に戻り、レイは別の場所へ行くことにしている。携帯電話が繋がる場所にいられるから、美奈には携帯からかけるつもりだ。その後、携帯電話は東京のパパの実家に送ることにしている。

ハイヤーで東京に戻り、そこから電車に乗り換えて、死に場所も決めてある。

砂浜のある、海辺が良い。砂になった身体を波と風がさらってくれて、砂にまぎれて分かりもしないだろう。誰もレイの死体を見つけられやしない。
人が近寄らない海辺をレイは知っている。
みちるさんがみんなを誘って連れて行ってくれたことのある、プライベートビーチだ。幸い、この時期は人がおらず、入ろうと思えば簡単に入ることはできる。あのあたりの別荘の所有者のみが出入りしているらしいが、この秋の時期だとほとんど人もいないだろうし、簡単には見つかりはしないだろう。
みんなで遊んで、くじ引きでみちるさんと同じ部屋になって、夜通しいろんな話をした。みちるさんが小さかったころの話、留学先のイタリアのこと、両親のこと、戦ってきた過去のこと、将来の夢。どんな人が好きか、なんてそういう恋の話を避けながら、レイはそれでもみちるさんの話す全てを今でも、鮮明に思い出すことができる。
あの頃は、好きだと言う感情をはっきりと持てていなかった。
ただ、みちるさんが微笑む顔を見ていられたら、ホッとした。

レイが最期にあのビーチにいたということは、誰にも知られないように気を付けなければ。

木曜日の朝、レイは鏡を見ながら、あの被害者の女性と重なり過ぎて、ため息をつきながら笑った。昨日の夜、外に車が止まっている姿が窓から見えた。美奈はやっぱり心配をしてくれているのだろう。美奈のことだから、水曜日の夜あたりに見に来るだろうと思っていたが、それもレイが考えている通りの行動をしてくれている。大丈夫、レイはまだ、ここにいる。無言で電気を付けて、5分ほど待ってから消した。車はゆっくりと走り去っていった。


ごめん、美奈

お互いに裏をかいてやろうと心理合戦みたいなことをしても、何も楽しくなんてない。
美奈が考えていることが分かるから、彼女が真実に辿りついてしまうことになったら、それはとても悲しいことだ。美奈の方が勝つ可能性の方が高いことだけれど、何をしてもレイは次の朝には生きていられないのだ。



呪いで死んだと断定できない可能性を残しておいてあげなければ、彼女に少しの希望を残してあげなければ、これからを生きていけなくなってしまうだろう。

美奈にはいつも、強くいてほしい。ちゃんと前を向いて。
亜美ちゃんがいてくれるから、亜美ちゃんは呪いで死んだと言い切れないと、言うに違いない。そう言うことにしておきましょうと、美奈を励ましてくれるに違いない。
亜美ちゃんのその優しさにかけたい。


立っていることが不思議だと思える。死を迎える朝、レイはストールを首に巻いて、最後の気力を振り絞り、にこやかにおばさまと車に乗り込んだ。東京駅でおばさまと別れて、駅中で服を買い、持っていた私物をある程度捨てた。元々それらから火野レイという人間を特定するものは何もなかったが、念には念を入れておいた。今着ている服も下着も、最終的には捨てることにしている。切符を買い、自由席に乗り込み、髪を掻きあげて一つにまとめる。マスクと黒いストール。度の入っていないメガネ。変装する理由はないが、赤い痣が見えないようにするのと、レイを知っている人間と万が一すれ違っても、わからないようにしておきたかった。東京を抜けるまでは、誰がいるかわからない。


昼過ぎに目的地にたどり着いた。タクシーではなくバスを使って近くまで行き、のんびりと街を歩いた。空腹のはずだけど、身体は何も欲していない。ポツポツとある食堂や、さびれたお土産屋さん。このあたりでじっとして、美奈への最後の電話をして、携帯電話を郵送しなければならない。しっかりと充電しているから、2~3日は大丈夫だ。
もっとも、こんな小細工しかできないレイと、向こうは亜美ちゃんというブレーンを味方に付けた美奈なのだ。
だまし合い、裏を読み合い、どっちが先に負けてしまうだろうか。
美奈は自ら苦しい場所に飛び込む馬鹿だ
だけど、レイがどうしてこんなことをしているのか、わかってくれて、想いを汲み取ってくれる優しさもある。

結局、どちらにしてもレイがうまくやり過ごせば、レイの望む結末になる。

もう少し

あと少しだけ




17時59分
美奈への、最後の電話をかけた

さようならとは絶対に言わない

明日、北海道に遊びに行くって元気に言うことにしている。
帯広に火野家の別荘があることは、美奈も知っている。
調べられても困らないように、羽田からの航空チケットを自分の名前とおばさまの名前で買っている。美奈は絶対に亜美ちゃんに調べさせるだろう。レイは実際、おばさま名義のカードを借りて、友達と旅行に行くのでチケットを買ってほしいとおねだりをしているのだ。チケットはおじいちゃんのお友達夫婦に予約番号をプレゼント済みだ。搭乗履歴には人は乗ったということになる。もっとも、そのことを調べている段階で、レイはこの世にいない。
そして、帯広にいるお手伝いさんの家には、明日行くと伝えてある。美奈はそこにも裏を取るに違いない。それも一応、夜遅くに電話をして、代わりに老夫婦が行くからと言えばいい。美奈は人が起きている時間帯にしか、電話をしないだろうから。その後で変更を伝えればいいことだ。

それでも、美奈はレイが裏をかこうとしているその上を行こうとする。
怪しまれさえしなければ、取り越し苦労で終わる。

そう、だから精いっぱいいつも通りにしなければ。



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Date:2014/11/12
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