【緋彩の瞳】 ある恋と愛の物語 ⑲

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

ある恋と愛の物語 ⑲

「あれ?携帯電話からだわ」
もし、レイちゃんが呪いにかかったままだとしたら、今晩が最後だ。美奈子は亜美ちゃんと指令室でレイちゃんからの電話を待っていた。本当はこんなことはしたくない。昨日の夜、レイちゃんは確かに別荘地にいて、そして美奈子が夜遅くに行ったことも気づいているようだった。
そのことに腹を立てているのかもしれない。心配するな、と言いたいのか、しつこい美奈子に怒っているのか。
それでも、ちゃんと時間通りに電話をくれる。
安心して欲しいということなのだろうか。
「レイちゃん、別荘じゃないの?」
『えぇ。おばさまと外に出ているのよ。別にあんたに電話するのも馬鹿馬鹿しいって思ったけど、しなかったら、変身して飛んできそうだし、正直迷惑だから。一応ね』
相変わらず、電話をかけてくるたびにメンドクサイと言いたげだ。
「ふーん。そうですか、はいはい」
『あんた、昨日覗いてなかった?』
「さぁね。でも、その減らず口さ、一応は心配している私に、それはないんじゃない?」
『やりすぎっていうのよ。プライバシーもあったもんじゃないわ。だいたい、どうやって別荘の場所を調べたのよ?この犯罪者』
それも、今日を乗り越えてしまえば安心できるんだから。
本当は、一秒たりとも目を離さずに傍にいたいという気持ちを殺している。
「まぁまぁ。これはさ、義務だと思ってよ」
『いいけど。どうせ今日までだし。私、明日から帯広の別荘地に行くのよ』
「……なんで?」
どうして?今更また遠いところに行くとはどういうことだろう。
何を考えているのだろう。
どうしてそんなところに行くのだろう。
何を隠しているのだろう。
『なんでって。おばさまとそう言う話になって。基本的にあちこち遊びに行くことが好きな人だから、それに付き合うの。パパの持っている別荘よ。陶芸の次はハイキングかしらね』
レイちゃんは年に一度、北海道に行く。帯広に別荘があることは知っている。お土産も毎年貰う。嘘を吐いていても、簡単に調べることはできる。
美奈子は携帯電話を左に持ちかえて、亜美ちゃんに視線を送った。メモ書きに、“北海道、航空チケット、10月10日”と書く。お得意のハッキングを命令すると、亜美ちゃんは静かにうなずいた。
「まったくさ、レイちゃん。こっちはこれでも心配しているのよ?一度は顔を見せに東京に帰ってきたらどうなのよ?」
『帰るわよ。来週あたりにね。でも、本当、美奈ってお節介よね。こっちは一応、死んでいる人間とはいえ、殺人犯を成敗したんだから、何も考えないで御褒美に遊ばせてくれてもいいじゃない』
「………確かにそうだけどね」
レイちゃんは、辛そうな顔をしながら純平を闇に葬り去った。
そして、誰にも言わずにスズも闇に葬ってしまった。

レイちゃんが1人で背負った罪

レイちゃんはいつもそうやって、孤独に痛みを背負う
誰にも助けを求めず
痛みをぶつけず

たった独りで

過去、レイちゃんは戦いが終わってから別荘地でのんびりするから、と、東京を離れたことが1度だけあった。でもあれは夏休みだった。あの時は何の違和感もなかったし、レイちゃんに何か災いが降り注いでいたこともない。
『馬鹿美奈、明日になってこの毎日の電話が無駄だったと思い知るがいいわ。東京に帰ったら、土下座してもらうからね』
「ふーんだ。いいもんいいもん!」
『何よ。あんただけお土産買ってきてやらないから』
隣で亜美ちゃんがカチカチとキーボードを叩いている。画面には航空会社のデータベースに侵入したという英語が並んでいる。

レイちゃんのおばにあたる人のクレジットカードで、羽田から帯広空港へ飛ぶチケットを確かに購入しているらしい。レイちゃんが持っているクレジットカードは、レイちゃんのお父さん名義だ。小細工をするために、おばさまのクレジットカードを盗んだりするだろうか。それとも、正々堂々と買ったのだろうか。購入履歴は別荘のインターネット経由だ。機械音痴がどうやって。やはり、おばさまが手配したのだろうか。

「いいもん。みんなに買って来たものをちょっとずつ没収してやるわ」
『みみっちいことするわね。まったく……とりあえず、また明日の朝にでも、連絡してあげるわよ。あんたが起きそうにない早朝にでもしてあげましょうか?』
「いや、7時過ぎとかで十分だから」
『5時に起こしてやるからね』
「意地悪いことするわね」
『当たり前でしょう?こんな電話を義務付けたんだから、少しは嫌な目にあえばいいわ。じゃぁね』

切られた電話。
美奈子は視線に気づいて、亜美ちゃんと目を合わせた。



「信じてあげる?」
亜美はため息交じりに呟いた。レイちゃんの声はとても元気いっぱいだ。あれほど気力を奪われて、立っていることさえままならなかったはずなのに、元気に歩きまわっているみたいだし、本当に事件のことを忘れたいのだろう。

亜美はそう思うしか術がないのだ。
嘘だと認めたくない。
自分では助けてあげられない事実しか残らない。

「亜美は、レイちゃんのことをどれくらい好き?」
美奈子ちゃんはやるせないように笑った。
「………レイちゃんが楽しそうにしていれば、それでいいわ」
好き。
とても好き。
清らかい気持ちで、好きだと思い続けたいたった一人の人。
「その程度なのね。だから、レイには伝わらなかったのよ。やっぱり、レイを救うのは亜美じゃないのは確かね」
「何のこと?」
「………別に。レイが純平とどんな会話をしたのか、私にはわからない。純平もスズも魂は金輪際この世に戻ってこない。どうしてそんなことをしたのかしら。レイは優しい人よ。死んだ人間でさえ、救いたいと思う子だわ。でも、スズでさえ葬り去った。救えないとわかったから、そうしたのよ」
それと、亜美がレイちゃんをどれくらい好きかというのはどういう関係があるのだろう。美奈子ちゃんは何を考えているのだろう。
美奈子ちゃんの愛は、レイちゃんを救えないのだろうか。
いや、そもそもレイちゃんは助けなければならない状況にいるのだろうか。
でも、美奈子ちゃんの表情は悲劇的にしか見えない。
絶対的な自信のない態度を取る美奈子ちゃんは、とても弱弱しい。
だけどまだ、愛の光が身体を包み込んでいる。
「私はレイちゃんが好きよ。とても好き。だから、声に出して伝えたわ。ありがとうって微笑んでくれて嬉しかった。それで想いは満たせたわ。だけど美奈子ちゃん、あなたは?あなたはレイちゃんをどれくらい好き?」
携帯電話をきつく握りしめ、美奈子ちゃんは視線を逸らさなかった。
「…………私はレイを死なせたりしない。どんなことがあっても。例え誰かを殺しても。レイを守るの。そのために生きている」

あぁ、ここにも愚か者がいる。

「愛しいと思っているのなら、声に出すべきだわ」
愛の女神はなぜ、レイちゃんに好きだと言わないのだろう。
この期に及んで。無様に振られることを恐れているわけでもないだろうに。
「レイがみちるさんを想っているのなら、私はその幸せを守るわ」
カッコいい言葉を並べれば、それでいいと思ってる。
「みちるさんと、本当に相思相愛になれると思う?」
「いつか、そうなるかもしれない。別に今日明日のことじゃなくてもいい。……いつか」


愚か者
やっぱり愛野美奈子は愚か者


「ごめんなさい。私はレイちゃんを信じたいから、もう帰りたいの」
「えぇ、いいわ」
「私が言えるのは………火野レイを救うのは、火野レイを深く愛している者だけだわ。これがレイちゃんの仕掛けた白々しいアリバイ工作だとして、それは誰を欺くためだと思う?誰を想っているからだと思う?レイちゃんは、本当の愛に気が付いていないだけかもしれないわ」

レイちゃんの行動が全て美奈子ちゃんをだますためだけだとしたら。
それはレイちゃんが美奈子ちゃんのことを深く想っている証拠だろう。

レイちゃんは呪いにかかったままに違いない

そして、それを救うのは愛し合う者だけだ








足を組んで、美奈子は純平を想い浮かべた。美奈子に聞こえた声はスズを助けてくれというものだ。

もし、あの時に美奈子がたてた仮説が本当だったとしたら。
他の女に呪いをかけて、その呪いを解くことでしか、スズが助からないとしたら。

レイちゃんは、自分ではスズを救えないと思ってしまうのではないだろうか。
だから、スズを葬り去ったのではないだろうか。

そして、レイちゃんの呪いは解かれていないとしたら。

毎日、それしか結論が出せなかった。それなのに、レイちゃんの嘘臭い毎日の報告を信じたいと願う気持ちがある。信じたいと思うのはどうしてなのだろうか。

美奈子ではレイちゃんを救えないと認めてしまうことが嫌なのだ。
みちるさんしか救えないと、認めてしまいたくない。

あれほど、レイちゃんの幸せを信じたいと願っているくせに。
海王みちるがふさわしいと思っていたくせに。
どうして無意味な情が邪魔をしてくるのだろう。





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Date:2014/11/13
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