【緋彩の瞳】 ある恋と愛の物語 ⑳

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

ある恋と愛の物語 ⑳

陽が落ちて、外は暗闇になる。
このままではレイちゃんを見殺しにしてしまう気がしてならない。
握りしめた携帯電話で、着信履歴から電話をかけてみた。音は鳴っているが何度も機械音が繰り返されている。
レイちゃんは携帯電話を手放している。あの電話を最後にして、携帯電話を誰かに預けるか捨てるかして、どこかに消えたのではないか。
美奈子が裏をかいてどこまででも追跡しようとしていることくらい、レイちゃんは考えるだろう。そして、何もかも美奈子が取る行動を見越したうえで、動いているのではないか。

美奈子では救えない

美奈子では救ってあげられない

だけどあの人なら

みちるさんなら




通信機が鳴った。
どういうわけかみちるだけだ。はるかやせつなの持つ通信機は鳴っていない。
「美奈子?」
『今、どこ?』
「家よ。どうしたの?」
切羽詰まった美奈子の声がする。何かあったのだ。
そして、それはレイのことだろう。美奈子がこんな声を出すということは、普通じゃない。
『指令室に車で来て。早く』
「わかったわ」
食事の準備をしていたみちるは、エプロンを外してすぐに外に出た。さっき、亜美から電話があったことと関係しているのだろう。美奈子から何か連絡があるかもしれない、と。力になってほしいと。2人は一緒じゃないらしい。
「みちる?」
「ごめんなさい、車を借りるわ」
「どうしたんだ?美奈子だろ?何があった」
「わからないわ。車で来いって言われたから」
「……レイに何かあったのか?」
はるかも、美奈子が誰を想っているのか知っているのだろう。休みの日に美奈子とドライブに行ったらしいけれど、たぶんレイ絡みだ。何も教えてくれなかったらしが、レイをちらりと見てすぐに帰って来たという。
「かもしれないわね」
「そうか……気を付けて」
「えぇ」
「美奈子を頼む」
はるかに見送られて、みちるはフェラーリに乗り込んだ。クラッチを踏んで、ゆっくりと発進させる。



「今、火野レイがどこにいるのかを調べてほしい」
亜美ちゃんを呼び戻して、全てのデータを調べ上げるよりも、確実にレイちゃんを見つける方法はある。たったひとつだけ。レイちゃんとの約束を破る術で。美奈子自身がずっと避けていた方法で。
「……わかったわ」
到着したみちるさんは、美奈子に理由を求めることもせずに鏡を取り出した。
「今のレイの居場所ね?」
「えぇ。そして、その場所がどこなのかも特定して。すぐに行くわ」
みちるさんは両手に鏡を持って、目を閉じる。

真っ暗闇が映し出された。音が聞こえてくる。

波の音

繰り返される波の音

「ここはどこなの?」
「街灯のないところにレイはいるのよ。だから、映せないの。波の音が聞こえる。どこかの海辺ね」
「場所を特定するにはどうしたらいい?」
「レイの行動をさかのぼるわ。明るい時間帯にいた場所から、特定しましょう」

時計は7時を指した。美奈子はゆっくりと時間をさかのぼる、レイちゃんの足音をじっと聞いている。

海辺だなんて

死ぬ気があってそこにたどり着いたとしか思えない

砂になる身体を波がさらっていくことを考えて、そんな場所に






「………ここ…」
「みちるさん、知っているの?」
「えぇ。あなたも知っているはずよ。この道は夏にみんなで遊びに行った、別荘のある場所だわ」
みちるは美奈子の指示を受けて、鏡にレイを映し出し、そして時間をさかのぼっていった。レイが歩いているのは、みちるが見慣れた海岸で、そして俯いて佇んでいるのは、街に1つだけあるコンビニだ。そこで誰かと電話をしている様子も映し出された。
レイはこんな場所で何をしているのだろう。

真っ暗闇の海辺で何をしているのだろう
どうして、こんな場所にいるのだろう

「車を出して。急いで」
美奈子は血相を変えて、運転するみちるより先に出ていった。何か、大変なことが起こっているのだろう。レイの身に何かが起こっている。


「みちるは安全運転だからさ、無謀なことをするならプロの方がいいと思って」
運転席には、はるかがスタンバイしていた。
「はるか」
「長野まで2度もドライブさせたんだ。美奈子、別に何も聞かないから運転させろよ」
「……飛ばしなさいよ」
美奈子はリアシートに乗り込んだ。みちるは助手席に乗り込んで、シートベルトをする。
エンジンをふかして、フェラーリは勢い良く発進した。
「みちるさん、9月27日のレイの行動を鏡に映してほしい。彼女は殺人犯と会話をしていたはずだから」
「わかったわ」
「できる?」
「できるだけは……」
そこにはゴーグルを付けた美奈子とレイ、そして人とは思えない黒い服を着た眼帯の男が映し出された。
レイと男が会話をしているのをじっと聞いている美奈子は、頭を抱えてうずくまっている。
この会話、美奈子は見えていたが聞こえてはいなかったのだろう。相手は人ではない。

レイが呪いにかけられているということ
そして、それを解くには真実の愛を持つ人に愛を捧げる
それが“スズ”という人を救い、レイも助かる

レイは、自分は誰にも愛されていないと言うようなことを言って、誰も愛していないから、助からないと絶望していた。自分の力ではこの男も“スズ”という子も救えないと、レイは目の前の男を闇に葬り去ってしまった。


「………これは、この呪いは……まさか、あの砂にされた事件と同じものなの?」
レイが左腕に巻いていた包帯は、呪いのせいだった。
ひた隠して、具合が悪そうな顔をしながら、美奈子たちと今までずっと、犯人と呪いを解く方法を探し続けていたのだろう。

そして

真実の愛を持つ人に愛を捧げるということでしか、呪いは解けないと知った。


「あの馬鹿……レイの馬鹿!!!」
美奈子は握りしめている携帯電話で自分の膝を叩きながら、悔しそうに叫んでいた。
「美奈子、落ち着きなさい。呪いは今日がリミットなのね?」
「……満月の夜までよ」
「レイは砂になる身体を隠すために、海辺を選んだということ?」
「それだけじゃない。みちるさんを想っているから、想い出のある場所を選んだのよ」
「……………レイが……」
呼吸の仕方を一瞬忘れてしまった。レイが絶望した姿は、あれは、まさかみちるを思い描いたとでも言うのだろうか。
“あの人に”と呟いた、思い描いた人がみちるだとでも言うのだろうか。
「火野レイはあなたが好きなのよ。恋焦がれている。ずっと、あなたが好きだった」
「…………………そう、ね」
知っていた。気づいていたけれど、気持ちに応えるものをみちるは持っていない。
抱きしめてあげたい想いは愛じゃないと、ずいぶん前にわかっていたことだ。
「まだ方法はある。方法は、たった一つだけどあるのよ。助けなきゃ……独りで死なせない……」

愛の証明

純平という幽霊は、レイに愛されていることも、愛していることも気づいていないだけだと言っていた。

レイを本気で愛している人をみちるは知っている。
レイは……本当にみちるだけが好きなのだろうか。
好きと愛は違う。恋と愛が違うことと同じだ。

ほのかな想いだけで心を満たす恋ではなく、もっと生きていくために必要な愛。

レイは嘘に嘘を重ねて、2週間近く美奈子を欺こうとしていた。ひっそりと死ねるように。たぶん、美奈子が嘆き悲しむことを心配したのだろう。自分自身を責める美奈子を、少しでもいたわりたいと思っていたに違いない。
それは、美奈子のことを愛しているからではないだろうか。
美奈子を想う気持ちを、レイは愛だと知らないだけだ。
レイはいつも美奈子の傍にいた。みちると2人きりで食事に行くたびに、みちるを楽しそうに見つめてくれながらも、よく美奈子の話を聞かせてくれた。つまらない日々の出来事を楽しく聞かせてくれていた。
レイは確かに、みちるに恋をしていただろう。今も恋しいと思ってくれているかもしれない。

だけど、レイの心にはもうずっと前から、美奈子という安心できる存在がいたのではないだろうか。
恋心よりもあまりに深い愛を注がれていたせいで、ドキドキする胸の高鳴りなんていうものを感じることなく、安らかな愛を手にしてしまっていたのではないか。

みちるはできる限りこの事件のあらましを美奈子から聞いた。レイのいる場所まで2時間ほどはかかる。事件を知るには十分な時間だ。1カ月ほど前に殺された被害者がどうやって死んでいったのか。その呪いを解くために被害者がレイに縋ったことや、レイが呪いで苦しみながら、美奈子を悲しませないために、何事もなく過ごしていたであろうことも。
美奈子はレイの仕掛けたアリバイを疑いながら毎日思い悩み、苦しみ、蹲る日々を過ごしながら、解決策を取れずにもがいていたことは、手に取るようにわかる。



だいたいの全貌はわかった。
そして、みちるがどれだけレイを想っても、レイを救うことが出来ない。




Do you know how much I love you?
関連記事

*    *    *

Information

Date:2014/11/14
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/395-f52c2985
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)