【緋彩の瞳】 ある恋と愛の物語 22

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

ある恋と愛の物語 22


みちるさんの鏡で聞いた波音を左耳で感じながら、美奈子はみちるさんの姿で、砂に音を鳴らし歩いた。記憶では、100メートルの幅もない、小さなプライベートビーチのはずだ。ペンライトだけでは足りず、腕の通信機を光らせて歩く。


「…………レイ………」
ライトが白いシャツのようなものを照らした。横たわる人の姿が見えて、駆け寄ってその身体を抱きあげた。
「レイ…レイ!レイ!!」
暗闇の中で、美奈子が愛する人は顔の半分は白く、もう半分は薄黒くなっている。痩せこけた頬を叩いても、ひんやりとして血の気がない。涼しい秋の夜、愛する人は孤独を抱きしめて、死を待ちわびている。
「レイ」
心臓が動いているのを確認して、レイちゃんが目を閉じているのを確認すると、ジャケットを着せた。みちるさんとの想い出の中に意識を飛ばしているのだろうか。リサイタルのときの曲を想いだしているのだろうか。
だらりと動かない腕を首に巻きつかせ背負った。月が完全に消え去るまでにはあと数時間ある。
せめて、愛するみちるさんが助けに来たという意識だけは、持っていてもらわなければ。
階段を上ると車はなかった。美奈子はレイちゃんを背負ったままみちるさんの別荘を目指した。道の先にひとつだけ明かりのついた家がある。

助けてあげるからね

ちゃんと、助けてあげるからね

レイちゃんの好きなみちるさんが、ちゃんとレイちゃんを愛してあげる
だからレイちゃん、みちるさんのことを強く想って

愛してるって、ちゃんと想って





Do you know how much I love you?





白かった月が光を放ち始めたころ、レイはメンズの白いシャツとデニムを穿いて、サラサラとした砂浜に寝そべった。

『ちょっと、レイちゃん。そんな高いビキニ着ておきながら、海に入らないの?』
『あんた、知ってて聞くわけ?』
『泳げないもんね』
『ちょっと!ばらさないでよ!』
『あら、レイ。泳げないの?教えて差し上げましょうか?』
『……泳げなくても生きていけるもの』
『教えてもらったら?漬物石みたいに、まっすぐに落ちていくなんてさ、よくないと思うよ』
『この、馬鹿美奈!!!!!』

パラソルの中から出ようとしないレイを美奈はからかって遊んで、みちるさんも浮輪を手にして誘ってきて。レイは腰までは海水に入ったけれど、そのまま美奈に水を掛けられて、びっくりしたせいでバランスを崩し、波に身体を持って行かれ、本当に溺れた。助けてくれた亜美ちゃんに、美奈はこっぴどく怒られていたのを覚えている。
バーベキューも、花火で遊んだことも、みちるさんと一緒の部屋で寝たことも。
何もかもが楽しかった。
仲間たちが、レイに幸せをくれていた。
その幸せを守るために、みんな戦っていた。
美奈はその全てを仕切って、幸せへと導いてくれた。
美奈について行けば、そこには幸せがあると信じられた。
美奈には感謝をしてもしつくせない。
レイが死んだ後、一番の心配ごとは美奈だ。仲間は1人も死なせない。それが生きがいのような美奈なのだから、レイが消えて、死んだと言う結論を導き出した時、きっと酷く悲しい想いをさせるだろう。うさぎたちがしっかりと支えてくれたらいい。亜美ちゃんは1%でも呪いで死んでいない可能性を導いてくれて、美奈に優しい嘘を吐いて励ましてくれるだろう。
責任を感じで、罪を背負わないようにと願うばかりだ。

明日も生きていると思わせるため、時間設定をしてメールが入るようにしてある。機械音痴のレイが新しいもの好きのおばさまからやり方を教わったのだ。早朝5時に届くようにしている。

「…………馬鹿美奈」

簡単に死なせてくれない仲間のせいで、こんな場所まで来なければならなかった。お陰でみちるさんたちとの、幸せだった日々を想い返す時間が出来てしまった。
レイが純潔の呪いを受ける最後の人間。
これでもう、誰も愛などという形のないものに苦しむこともなくなるだろう。

愛した人を裏切った、そんな存在もしない罪に惑わされ、
誰でもいいからといろんな人に抱かれる。そうやって罪を重ねて砂になった、レイに助けを求めた人。
もしかしたら、必死に愛してくれる人を探した人もいたかもしれない。
だけど、愛は常に傍らにあるとも限らないだろう。
時が過ぎ、環境が代わり、愛が消えることもある。愛し合っていても、互いを選べないこともある。純平さんもスズもそういうことを経験せずに死んだから、今を生きる女性たちの環境なんて理解できやしない。


レイもまた、何の経験もせずに死んでいく


愛されたり
愛したり
愛を育てたり
愛を失ったり
愛を信じたり
愛を乞うたり


そういうこと全て



スズは恋した男に抱かれたが
それは本当に間違いだったのだろうか

そんなことはわからないし、愛がなかったと吐き捨てることは他人がするべきことでもない

被害者のスズの魂を救ってあげたかった
あんなやり方でしか、救ってあげられなかった



レイは誰からも愛されていないし、真実の愛がわからない

みちるさんを想う気持ちを愛と呼ぶのかもわからない

愛とは何だろう

純平さんはレイが気づいていないだけだと言っていた

みちるさんを想う気持ちを本当は愛というのだろうか
だけど、みちるさんはレイを愛してくれているのだろうか
どうして言い切れないのだろう

だから

それが答えということ



薄い赤い空が遠くの方へと消えて行く
白かった月が次第にはっきりと姿を現す

かつて
あの場所で生きていたというのに

満月がレイをこの世界から消そうとしている

なんて皮肉なことだろう


ヴィーナスが守ろうとした星だと言うのに
あの子が愛した王国だと言うのに


あの光
痛いほど眩しい光

月よりも輝きが美しい瞳
金星の愛の女神






「……………あぁ……………そっか………なんだ…………そういうこと」





血が巡るように、全身に染み行く赤い罪たち

暗闇が始まったのか、それともレイが目を閉じたのか
それすらもわからない
だけど雫が頬を伝っていることだけはわかった

もう
何の意味もないことだというのに
人は生まれ落ちた時に泣き叫び
涙を流しながら愛する人を想い描き死んでいく



闇だけが広がる世界に身をゆだね、レイは何か満たされたような気がした


レイが死んでも、幸せでいて
いつか、そんな人もいたわねって、みんなで笑える日が来るから

だから、ちゃんと生きて、幸せでいてほしい
幽霊になったら、幸せを傍で守ってあげるから







「……………………………美奈………………」









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Date:2014/11/16
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