【緋彩の瞳】 ある恋と愛の物語 27

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

ある恋と愛の物語 27

「あったかい。………生きてる………」
目を開けると、光が亜麻色の髪を照らしている。レイは美奈子の身体の上に重なったまま寝ていたらしい。
「……重いんだけどさ」
美奈はレイの頭を撫でてくれていたみたい。いつからそうしてくれていたのかはわからない。
でも、本当にぐっすり眠ってしまっていたのは確かだ。
「ん……ちゃんと生きてるんだからいいでしょ」
「まぁね。よっと…」
レイの身体をベッドにそっと下ろして、美奈は起き上がり伸びをする。それを見上げながら、素肌に腕を伸ばした。ひんやりとした腰には、レイが付けた赤い印がある。
「美奈、お腹空いたわ。あと…………ここはどこ?」
「どこって。見覚えあるでしょ?」
「見覚え……?」
天井しか見ていないのに。言おうと思ったが、レイはゆっくりと起き上って部屋を見渡した。
「みちるさんの別荘?」
「うん。とりあえず、シャワー浴びて、それから食べるものも何とかするから」
まさか、黙って使ったわけじゃないだろうに。ということは、みちるさんは美奈に貸してくれたらしい。
聞きたいことはたくさんあるような気もしたけれど、とりあえず温かい服を何も持っていないレイは、美奈に従うだけだ。

2人でお風呂に入って身体を温めていると、人が入ってくる気配がした。
「タオルとか着替えとか、連絡したら、すでにこっちに召使いは向かっているんだって」
「……あんたね」
「レイちゃんのことを本気で心配していたんだからさ。顔、見せてあげなよ」
身体中に刻みつけた愛の証は、生きていると言う証は、レイが誰を愛していて、誰から深く愛されているかということを見せつけるには十分だ。

いや、レイが生きていると言うだけで十分。

「………みちるさんに、何もかもをしゃべったのね」
「でも、おかげでレイちゃんがここにいるってわかったんだもの。あの人がいなければ、死んでたわ」
みちるさんの鏡を見て、あのビーチだとわかって飛んできてくれた。
死なせないという言葉の通り。
「そう」
「約束を破って怒ってるなんて、いまさら言わないでよね」
「言わないわよ」
脱衣所に出ると、みちるさんが仁王立ちをしていた。
素っ裸の美奈とレイは、眼をパチパチとさせて、何やら相当御立腹のみちるさんに思わず、もう一度バスルームへと逃げたくなり1歩後退する。
「のんきにお風呂に入るのは結構ですけれどね、生きているならその報告ぐらいすぐにしなさい!どれほど心配したと思っているのよ?!」
投げつけられた真っ白なタオル。美奈はその影で、“しまった“と呟いている。
「悪い悪い」
美奈が乾いた笑い声を出す。レイは笑えなかった。
本気で心配してくれていたのだと思うと、悪いことをしたと思うし、みちるさんは美奈に全てを託して、同時にレイがみちるさんを想っていたということも知らされたはずだ。美奈のことだから、みちるさんに助けてほしいと言ったに違いない。
何と言うか、複雑なのかどうなのか。どんな顔をして会えばいいのか。
「………はぁ、もういいわ。とりあえず、亜美に言われてレイの服は持ってきているから。早く東京に帰りましょう」
亜美ちゃんが渡してくれたというレイの私服。レイの部屋の箪笥の中から、取ってきてくれたのだろう。
「とりあえず、謝らないと。亜美ちゃんにも、ちゃんと生きてるって言わなきゃ」
「亜美ちゃんはレイちゃんが死んでいるなんて思ってないわよ。じゃないと、それをみちるさんに渡さないでしょ」
美奈はレイの着た服を指差しながら、自信たっぷりだった。
それでも、ちゃんと亜美ちゃんと会いたい。
会って、ありがとうって声に出したい。
もちろん、みちるさんにも。




亜美ちゃんがレイちゃんと美奈子にって、手作りのサンドウィッチをみちるさんに渡してくれていた。レイちゃんはそれを本当に嬉しそうに、泣きながら食べている。
「美奈子、嫉妬しなくていいの?」
「……何と言うか、嫉妬というか。敵わないなって思うけどね。亜美ちゃんは、レイちゃんのことが好きだからさ」
「美奈には亜美ちゃんの優しさが分からないのよ。あんたの分、食べないなら頂戴」
レイちゃんは鼻をすすりながら手を差し出してきた。美奈子は4つあるうちの1つをその手に乗せた。
「あげる。おなが空いてるみたいだし」
「この2週間くらい、無理に口に入れては嘔吐してばかりだったから……。おばさまとの食事は地獄だったわ」
「そっか。じゃぁ、帰ったらおいしいものをたくさん食べて、健康にならないとね」
みちるさんが淹れてくれた紅茶を味わいながら、少し甘い玉子サンドを口に入れる。
亜美ちゃんに会ったら、美奈子はどんなことを言われるだろう。何を言われても、反論できないだろうって想像してしまう。
亜美ちゃんはいつも正しい。ここに来ないでみちるさんに全てお願いしたことも、レイちゃんのことを想ってのことだろう。
「よかったわね、レイ」
「ありがとう、みちるさん」
レイちゃんはあの頃と同じような瞳でみちるさんを見つめて、そして微笑んだ。
「私は何もしてないわ。私や亜美じゃ、救えなかったんだもの。悔しいけれど」
「………ありがとう、みちるさん。本当に」
みちるさんがレイちゃんに淡い想いを抱いたことがあると、本人に言わないことも、レイちゃんがみちるさんを好きだと言うことも、2人はその気持ちを確認し合わなかった。
レイちゃんはたぶん、いつまでも、みちるさんに恋をしていたということを抱きしめたままでいるだろう。嫌いになる理由もない。それはそれで別にいい。
美奈子が口をはさむ理由がない。
ちゃんと大切に持っていたいのなら、そうしたらいい。
今までもこれからも、美奈子はずっとレイちゃんが愛しい。
レイちゃんがくれたものだけを信じていればいい。
レイちゃんが、もし、他に誰かを好きになっても。
美奈子がレイちゃんを愛し続けることに変わりはない。
何も言わず、嫉妬もせずに普通に2人を見ていると、みちるさんが眉をひそめて文句を言いたそうな顔をしてこっちを見てきた。
「美奈子、そんな風だから、レイに気づかれなかったのよ」
「………何のこと?」
「憎たらしいわ、まったく」
でこピンをくらっても、何が何だか分からない。レイちゃんはため息交じりに笑っている。
「何のことよ、もう」
みちるさんは1カ月ほど呪いで精神を追い詰められて痩せたレイちゃんを。優しく優しく抱きしめて、美奈子を足蹴にした。
レイちゃんは嬉しそうに笑いながらも、みちるさんを抱きしめ返したりはしなかった。



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Date:2014/11/20
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