【緋彩の瞳】 ある恋と愛の物語 END

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

ある恋と愛の物語 END

レイは1週間ほど学校を休んで身体を休めることにした。夜はまこちゃんがご飯を作ってくれて、朝昼はみちるさんやはるかさん、亜美ちゃんが神社にお弁当を作って持ってきてくれた。美奈は補習中に学校をさぼったために、さらに補習プラス追試を受けさせられていて、学校で白目を剥いているらしい。普段の行いが物を言うから、同情はしない。
レイが元気を取り戻して学校に行き始めた頃、補習と追試期間を終えた美奈と、とある場所で待ち合わせをしていた。
「もう終わったことなのに、何なの?」
5分遅れてきた美奈は、戦いよりも疲れた顔色。そんなに勉強が嫌だと言うのだろうか。レイは亜美ちゃんからもらった資料の束を美奈に投げた。
「これ、今までの資料の全部。燃やすなり捨てるなりしていいわ」
「……それで?真新しい資料があるのはどうして?」
「うん。なんていうか、純平さんがこの場所にこだわった理由を知りたくてね」
レイが美奈を呼び出した場所は、純平さんを御祓いした、スズと正彦という人との逢瀬の場所だ。
「本人が説明していたのに?」
「……うん、でも、原点っていうのなら、家のあった場所じゃないかしらって思えて。純平さんはスズが純潔をあげた男の人を、正彦さんという人のことを待っていたんじゃないかしら?」
スズが、死んだ後も正彦さんを待っていたように、純平さんは純平さんで正彦さんを探していたのではないか。ある男を待っていると言っていたのは、正彦さん以外にはいない。
レイにはわからなかった。正彦さんに会って、何を告げたいのだろう。それとも復讐をしたいのだろうか。だけど、純平さんは人を殺してでもスズを助けようとしていた。
だから、正彦さんと会えば、何かしらスズを救う術があったのだろう。

スズの呪いを解くにはひとつだけだった

真実の愛を持つ人に愛を捧げること

「正彦さんも、実は婚約者がいたのよ。スズより3歳上の女の子でね、スズが結婚してすぐに彼も結婚していたの。2人の間には4人の子供が生まれ、今も呉服屋は代々ちゃんと続いてる。スズは本気で恋をしていたかもしれないけれど、正彦さんはウブな少女の気持ちをそれほど重く受け止めずに、遊んでいたんじゃないかしら?」
レイが亜美ちゃんからもらった資料には、正彦さんの結婚した日と相手の名前が書かれている。婚約したのは、スズが純潔を捧げるよりもずっと前だった。
もてあそばれていたのか、ただの想い出づくりだったのか、正彦さんがどういう感情だったのかなんてわからない。
「……スズは片想いだったんだ。相手はおいしいものを食べた、くらいしか思ってないのかもね」
美奈は資料にさらっと目を通して鞄にしまった。たぶんゴミ箱に捨てられるだろう。
「純平さんは知っていたんだと想う。知っていて見過ごしたのは、悲しませたくなかったのか、裏切るとまでは思わなかったのか」
純平さんには、愛を知らない少女のスズを助けるチャンスは、いくらでもあった。目を覚ませと頬を叩き、本当のことを告げることさえできれば、スズも思いとどまったに違いない。
「それで、ここにい続けたのは、幸せな家庭を築いた正彦に、悪霊になってまとわりつくため?」
「答えなんてわからない。でも、もしかしたら、スズを助けてほしいと思ったんじゃないかしら。真実の愛を持つ人に愛を捧げることでしか呪いが解けないのなら、死んだスズがいつまでも正彦さんを待ちわびている限り、純平さんではどれほど愛を捧げても、想いは通じ合わない。でも、正彦さんだったら?死んだスズは被害妄想が大きかった分、幽霊になってしまった後は、正彦さんしか愛そうとしなかった。だったら正彦さんさえスズを愛してくれていたら、スズの呪いは解けると考えたりしたのかもしれない」
これは、レイの妄想だ。
そうあってほしいと想っている。
純平さんがここにい続けた理由。ある男を待っていたと。
そして、その男はここには来ないと知っていたと言うことも。
正彦さんがスズを愛していないと言うことを知りながら、それでも一縷の望みをかけて、彼がこの場所を訪れてくれないだろうかと、待ちわびていたのではないだろうか、と。
「………そんなロマンチックな考え方、ありえるの?だって、そもそも呪いは純平がかけたのでしょう?純平が自分だけを愛するように、自分と愛し合うために」
「そうよ。でもそれは、純平さんとスズがそう言っているだけで、本当にどういう呪いなのか、誰にもわからないの。純平さんが自分だけを愛するようにと呪いをかけたと言うのなら、そもそも、他人を鍵にして呪いを解くなんてできないはずだもの。だからこそ、“愛の存在証明“って言うものなのではないか、と思うの」


何の罪もなく殺された被害者の女性たちの中には、呪いの影響でスズや純平と会話ができた人もいる。その人たちが2人にどんなことを言われて、翻弄され、苦しみ、砂になったのか。
愛の証明だとか、愛し合うだとか、真実の愛を捧げてくれる人に愛を捧げるだとか。
詩集のような言葉を並べられ、戸惑っただろう。
だけど被害者たちは、みんな必死に助かろうとしていたはずだ。レイに縋ってくれた人もいた。ホテルで見つかった被害者も、きっと愛を求めたはずだ。
そして彼女たちの共通点は“本当は互いに愛し合うべき人がいる“のに、その愛を裏切り、他の人と身体の関係を持った、あるいは他の人を好きになった。


だけど、誰にも本当のことなんてわからない。
純平さんもスズも、永遠に何もない世界を彷徨うことすらもなく、魂は燃え尽きたのだから。


「そっか。でも、死んだ人間がどんなことを想っていたのかなんて、わからないもの。生きている人間の気持ちさえわからないんだし。真実なんて誰にもわからないわ。ただ、多くの女性たちが何の罪もないのに殺されたのは事実よ。砂になって消えた事件は、あの3人以前にも何人もいたらしいから。私たちは正義の名のもとに、人殺しの亡霊を葬り、ある花嫁の幽霊を御祓いしたの。事件は解決したわ。もう、何もない。もう、誰も傷つくこともないわ」
美奈はレイの頬を撫でてくれた。もう、これで終わりにしましょうと、無言で伝えてきている。
「純平さんは………私を選んで正解だったわね」
本当にレイが誰からも愛されていなければ、純平さんはレイに呪いをかけたりはしなかっただろう。藁をもすがる気持ちだった彼にとって、美奈という愛の光に包まれていたレイは、スズを救う最後の手段のように映っていたのかもしれない。

それだと言うのにレイはスズを葬った。すでに死んでいる魂のために、人を殺し続けた純平さんの想いを踏みにじった。
「レイ。もう、終わったわ」
冷えた頬を温めてくれる美奈の掌。レイは小さく頷いて、その手に自分の手を重ねた。
「私を裏切ったら、呪い殺すだけじゃ済まさないから」
美奈に鞄を預けて、その手を握りしめる。
もう身体からは痛みも苦しみもすべて消え去り、呪いの欠片もない。
「へぇ、どうする気?」
「そうね、亜美ちゃんと相談して考えるわ」
「………生きている人間の方が恐ろしい」
美奈は本当に嫌そうな顔をしている。ちなみに、亜美ちゃん主導で美奈に対するレイを苦しめた制裁はすでに終わっているらしい。もっと早く、告白しておけば呪いにかからなかったはずだと、仲間全員からボコボコにされたと言うのは聞いた。
「なら、気を付けることね」
「まぁ、そんなことは絶対にないから。安心してよね」
「そう?」

信じられる
この光に包まれてさえいれば

美奈が捧げてくれるこの温もりを愛だというのなら
レイは両手を広げて、その愛を身体に染み込ませていたい



「美奈……」
何度も高みに追いやられ浅い呼吸を繰り返しながら、それでもその抱きしめてくれる腕から離れたくないと願った。亜麻色の髪がカーテンのようにレイの身体に広がり、愛を注ぐ指の力は止まない。
「美奈……美奈…」
愛の存在証明は、セックスだけが全てだとは思わない。だけどレイには、美奈がくれるこの愛は強い繋がりだと思える。彼女が注いでくれる光は、今までもこれからも何も変わらないだろう。だけど今は、愛しているという言葉と、身体に降り注ぐ愛しい温度がある。
この身体は美奈だけを愛して、美奈だけに愛されて、美奈だけのものでありつづける。
互いに指輪を捧げあう関係にはなれなくても、今がずっと続けばいい。
何も要らない。他人が見てわかるような、2人が愛し合う証明はいらない。
「愛してる、レイちゃん」
「………知ってるわ。ずっと前からでしょ」



もう、愛を知らないと嘆くことなど、永遠にない







満月が消えた朝、携帯電話の着メールのメロディが流れた。
レイちゃんを抱きしめた腕を解いて、画面を見てみる。


『おはよう、馬鹿美奈。太陽が昇っても、私は生きています。心配御無用』



レイちゃんは美奈子の身体の上で気を失うように眠ってしまっている。
真っ白な素肌に今は、赤く染まった愛の花びらが点々と咲いている。
その頭を撫でながら、返信した。

『うん、知ってる。今、私の腕の中にいるじゃん』

レイちゃんからのメールを保存ボックスに入れて、美奈子は再び目を閉じた。



I know how much you love me

thank you. 2014.11.20
関連記事

*    *    *

Information

Date:2014/11/20
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/403-2e2d2e67
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)