【緋彩の瞳】 take care END

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

take care END

眩しくて目を開けた。真っ白な世界で、額に何か置かれているものを取り除く。冷たいタオルだった。あれほどけだるかった身体も、ずいぶん軽く感じた。
「レイ?」
ベッドサイドでは、レイが毛布に包まって小さくなって寝ていた。
「風邪引くじゃない」
みちるはタオルを桶の中に入れると、そっと立ち上がって彼女の肩を揺らす。
「……ん」
不機嫌に眉を顰めるレイ。
「レイ、ベッドで寝て」
起き上がっても、頭痛はもう感じない。どうやら、レイのおかげで治ったらしい。
「レイ」
「ん……いたっ!」
背中を軽く擦ると、小さく悲鳴をあげた。
「痛い?」
目を擦って起き上がったレイの顔を覗きこむ。
「みちるさん……寝てなくていいの?」
「えぇ。昨日より楽になったわ」
「油断したらダメよ。寝たら?」
みちるが今問題にしたいのは、そんなことじゃない。
「寝るわ。寝るけれど、レイ。あなたどこか具合悪いの?」
「何?」
半分寝ぼけたままのレイは、きょとんとしている。
「“いたっ”って」
「そんなこと言ったかしら?」
立ち上がったレイは、毛布をズリながら部屋を出て行く。
慌ててみちるは追いかけた。
「どこいくの?」
「この部屋で寝たら、私に気を使うから。ソファーで寝るわ」
「寒いわよ」
「じゃぁ、床暖房の上で寝るわ」
暖房のスイッチを入れて床にクッションを置くと、彼女はカーペットの上に寝転がった。
「起こさないで」
「レイ」
「明け方やっと寝たんだから、起こさないで。ベッドに戻って、薬でも飲んで寝てなさい。クラッカー買ってあるから、それでも食べて」
目を閉じたまま眠たそうに告げるレイ。
みちるはテーブルの上においてあるクラッカーの箱を手に取ってみた。
果物などビタミンが多く含まれている、最近の健康食らしいそれを、とりあえずかじる。
言うことを聞かなければ、余計な気を使わせることになる。
とりあえず、まだおなかの辺りが少し痛いので、胃薬だけ飲むことにした。
薬の箱を探しに寝室へと戻る。二つの箱を手にして、胃薬を選んだ。
「あら?」
解熱剤のほうが、4つ穴が空いている。昨日2つ飲んだ。夜中に薬を飲まされていただろうか?胃薬のほうは、一回に3錠。3つしか穴が空いていない。ということは、いつの間にか解熱剤だけ2つなくなったことになる。
「レイ」
ここにいたのはみちるとレイ。
みちるが飲んでいないのなら、後2つはレイが使ったことになる。
どこか具合が悪いのだろうか。
「レイ」
うずくまってうとうとしているレイの背中を擦ると、また、小さく“いたっ”とうめく。
「お願いだから起こさないで……」
「ねぇ、レイ。どこか具合悪いの?」
「それはそっちでしょう?」
毛布の中に頭を入れたレイは、話しに応じてくれない。
「薬が減っているのよ。あなた飲んだ?」
「さぁね」
「さぁねって。ねぇ、心配するじゃない。レイ、気になって眠れないから教えて」
レイは無視を決め込んでいるのか、答えてくれない。
何度も名前を呼んでみたが、結局応じてくれそうにない。
みちるは諦めることが出来なくて、彼女の足元から毛布を剥ぎ取った。
「ん……みちるさん!」
眠そうな目をした彼女が、抗議の声をあげる。
「気になるから仕方ないでしょう?教えなさい」
「帰るわ。そんなに元気なら、もういいわね」

まずい。
怒らせてしまった。
不機嫌だった顔が本気の顔に変わる。

「あ、待って」
起き上がったレイが取った行動はとても素早い。コートを片手に出て行こうとする。
何とか、腕を取ることが出来た。
「っ?!」
引っ張ると、間違いなく痛いところだったらしく、へなへなとうずくまってしまった。
もしかしたら、解熱剤を鎮痛剤代わりに使ったのだろうか。
「レイ?!」
「……変な方向に引っ張らないでよ」
腕のあたりを擦りながらきつく睨まれる。
「だって、あなたに何があったのか知らないもの」
「関係のないこと。だから、悪いけれど帰っていい?あとは自分で出来るでしょう?」
立ち上がったレイはまた何事もなかったような振りをしている。
「レイ。私のこと……嫌い?」
「まさか」
「でも、そんな風に見えるわ」
「まさか。でも、そういう風に確認されることは好きじゃないわ。じゃぁね」
完璧に怒らせてしまったようだ。
せっかく来てくれたのに、お礼も言わせてもらえずに、彼女は出て行った。




「へぇ」
「感心してないで、何とかしてよ」
「何とかって言われても。な、せつな」
はるかは隣に座っているせつなに同意を求めた。
「そうね」
「あなたたち、どっちの味方?」
すっかり体調もよくなったみちるは丸1日経ってもレイに会うタイミングがなくて、はるかとせつなを呼び出して愚痴っている。
「どっちかって言うと、僕はレイ」
「じゃぁ、私もレイ」
「なぜよ?!」
テーブルを拳で叩いて迫ってくるみちるに、はるかは思わずのけぞる。
「世話をさせておいて、追い出すみちるが悪いのよ」
せつながズバッと言い放つ。
「追い出してないわよ」
「具合が悪いってレイを呼び出して、世話をさせておいて。あの子の性格をわかっていながら機嫌を損ねるようなことをするからでしょう?」
「あの子が具合悪いことを言わないから」
あぁ言えばこういう。
レイとは対照的なみちるに、はるかはよく続いていると感心する。
「具合が悪いって言うより、あいつ怪我したんだよ。夜に敵が現れて。怪我して頭も軽く打って、脳震盪起こしていたから、しばらくうちで様子見ていたんだけどさ。起き上がったら、みちるが具合悪いから帰るってさっさと帰った」
「……な?!聞いてないわよ!」
「普通、具合悪い人間を世話している立場の人が、実は自分も具合が悪いなんて言わないわよ」
せつなは紅茶を一口飲んで、冷静に正論を伝えた。
「レイ、大丈夫なのかしら?」
「さぁ?でも、結構酷かったよ。な?せつな」
「えぇ。まぁ、1週間もしたら腫れも引いて、跡形もなく治るわ」
みちるはいそいそと帰る支度をして、あっという間に店を出た。
「誰がみちるのコーヒー代を払うのかしらね、はるか?」
「……300円ずつ割り勘しようか、せつな」


「レイ」
学校帰りだったレイは名前を呼ばれて顔をあげた。いつも俯いて歩く癖がある。いつごろからか記憶がない。
「何?」
目の前にいたのはみちるだった。
「身体、大丈夫?」
「それ、私のセリフだと思うけれど?」
「ねぇ、大丈夫?」
レイの手から鞄を奪い、頬を撫でる。
「やめてよ、誰が見ているのか分からないのに」
振り払われたけれど、みちるはそのままレイの手を取った。
「言い忘れていたことがあったの」
「何?」
「あなたが優しくしてくれたから、すぐに熱も下がったわ。ありがとう、レイ」
「………おかげで踏んだり蹴ったりだったわ。いえ、踏んだり蹴られたりしたのよ」
彼女は俯いたあと、ぷいっとそっぽ向いた。心なしか顔が赤い。
「冷たい手。暖めてあげるわ。うちへいらっしゃい」
問答無用で引っ張るみちるに、レイは抵抗できなかった。


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Date:2014/12/17
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