【緋彩の瞳】 愛情表現 ①

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

愛情表現 ①


みちるが世界で一番愛している人は、喜怒哀楽を表現することが得意ではない。一応は微笑むし、ちょっと拗ねたりもするし、寂しそうな顔もするけれど、同じ年頃の女の子たちと比べたら、控えめというか、落ち着いてしまっていると言うか。
それとも、比べている周りの女の子たちというのが、特殊すぎるのかしら、と考えてもみる。
だから当然、レイからの愛情表現だなんて……とてもとても。
「いや、レイがものすっごいゲラゲラ笑ったら、怖くないか?」
「……どうしてそっちに話が行くのよ」
5人娘が学校からクラウンへと来るのを待っている間、対面の女子高生たちが大声で噂のアイドルについて熱く語り合い、笑い合い悲鳴を上げているのを見ていると、ふと、レイの感情があまり出ないことを、何となくはるかに話をした。
「みちるが言ってることは、そういうことだろ?僕はあの、“私はこの人たちとは違います”みたいなところは好きだけどな。あのお嬢様がゲラゲラ笑ってみろ?病気かと思うよ?」
「………はぁ…そういうことじゃないわよ」
もちろん、喜怒哀楽が控えめなところも含めて彼女のことを愛している。お団子と赤いリボンみたいに、テンションが分単位で変わるような子だったら、こんなにもレイにのめりこんだりはしなかっただろう。興味さえ湧かなかったかもしれない。鑑賞するだけで満足していたかも知れない。
「何だ?レイに愛しているなんて言われたいとか?」
「まぁ、多少はそういう気持ちもあるわよ」
「なんちゅーぜーたくな。あいつ、そんなことを口にするか?」
「しないわよ」
それでも、はるかには言わないけれど、2人きりになれば、頬を赤くしたり恥ずかしそうな素振りを見せたりもして、それがもう、とてもとてもかわいらしくて仕方がない。
みちるがレイのことを愛しすぎている。レイがみちるのことをどれくらい想っていてくれるのか、気にならないわけではないけれど、あの子がそれを口にするタイプじゃないことは、付き合う前からわかっている。
「だ~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!寒い!寒い寒い!!!」
外は雪が降っている。今朝からの寒波は東京を襲い、数センチの雪が積もっていた。だからと言って学校が休校になるほどでもない。
寒さで凍えようとも、お勉強から逃げることはできない。
「寒い寒い!」
うさぎと美奈子、亜美とまことが身体を震わせながら入ってきた。
「まったくさ!なんて寒さなの?!朝の温度マイナスになってたらしいわよ!」
美奈子がマフラーを外しながら、誰に怒っているのかわからないけれど、言わずにいられないクレームをつけている。
「足の小指がしもやけになっちゃうよね」
寒くても元気は変わらない様子のうさぎ。かわいいウサギの耳当て。ふわふわしている。
「だよな~~。寝てるときにモコモコした靴下穿いてるんだよ。あれ、あったかいよ」
「まこちゃんも寒いの嫌いだものね」
まことも亜美も、コートを脱ぎながら、外がどれくらい寒かったかという会話に参加している。
レイはまだ来ない。4人は暖かいココアを注文した。みちるの隣を意図的に開けて4人は座っている。レイが必ず座ると分かっているのだ。そうしてほしいとお願いしたことはないが、4人は4人なりに、気を遣っているみたい。そこのところ、みちるに気を遣っていると言うわけではなく、レイのためらしい。レイがそうしてくれと言ったわけじゃないことは知ってる。

薄曇りの空。少し風の音がする。

「今日はちょっと、風も荒れてるな」
はるかが窓の外を見て呟いた。これから、もっと気温が下がるかもしれない。4人はずっと、外の寒さと、この寒いのに暖房もない体育館で体育の授業があって寒いし辛いし大変だったことを熱く語っている。
4人のココアが半分以上減ったところで、レイが入ってきた。
「……もう、なんて寒そうな格好するのよ」
学校指定のスクールコートは分厚いダウンジャケットではない。短いスカートよりも少しだけ長い程度。靴下もひざ下からだ。レイはコートのボタンを留めず、マフラーもふんわり巻いているだけのようだ。傘の雪を払って傘立てに入れ、寒いという表情すらみせずに歩いてくる。
「お帰りなさい、レイ」
「ただいま」
「外は寒かった?」
「えぇ、少し」
凍えていた4人と違い、いつも通りに見えた。それでも鼻先が少し赤いのだから、やはり本当は寒いのではないか、と思う。そっと髪をつまむとひんやりしている。
コートを脱いで丁寧に折りたたむ。みちるはそれを預かり、空いた自分の反対側に置いた。
「レイちゃん聞いて聞いて!学校でさ、このくそ寒いのに体育でバレーがあってさ。もぅ、手が痛いのなんの!美奈Pなんて、顔にぶつけてくるんだよ!」
「それは、うさぎが下手だからじゃないの?」
「ぐっ……」
うさぎは、言われるのがわかっていてどうしてその話題を選ぶのかしら。みちるは宇奈月ちゃんを呼び止めて、レイの飲み物を聞いてあげてと伝えた。
「体育館って寒いの?暖房ないの?」
アールグレイを頼み、レイは続きを求める。
「寒いわよ、暖房ないもの」
「ふーん。うちは暖房あるから」
「お金持ちの女子校は暖房あるのか~!」
美奈子が心底羨ましいと叫んでいる。大げさなんだから。
「あるわよ。冷房もある。教室全部と講堂も冷暖房ついてる。っていうか、高い学費払ってるんだから、当たり前よ。廊下にもついてるわ」
「なんて羨ましい!」
「本当ね。きっと、お勉強しやすい環境なのね」
まことと亜美のうらやましい声。レイの表情に変化はない。相変わらず、そこがまた不思議な魅力なのだ。あまりじろじろと見つめていると、あとでムッとした顔で一瞥されるから、視線を膝に置かれた真っ白い手に向けた。
指先が寒さに震えている。みちるは自分の膝にかけていたストールをレイの膝にかけた。手を包み込むように、そっと握るととても冷たい。
「ちくしょ~。公立高校だって勉強を頑張る生徒のために、冷暖房があったっていいじゃない!」
「美奈は勉強しないでしょ?」
「言うと思った!絶対言うと思った!」
レイはみちるの手をぎゅっと握り返してきてくれた。そしてすぐに力を抜く。
心の中でかわいい子だわ、なんて思いながらそっと手を離した。
「……みちるはわかりやすいよな。全部顔に出るもんな」
はるかは5人組の会話とは違うコメントをして、コーヒーを飲み干した。


対面の女子学生たちは、相変わらずにぎやかに騒いでいる。こっちはこっちで、うさぎたちが来てから、似たような声のトーンになってきた。レイは基本的に冷静に突っ込みを入れる側で、美奈子たちと同じトーンにはならない。それでも、レイがタイプの違う仲間たちと会うことは好きだと知っている。強い絆で結ばれた、魂が求め合った仲間たちを、レイが深く愛していることも知っている。仲間のことを想っているレイもまた、みちるは好きだ。
「そういえばさっき、うちのクラスの男子が、雪の中で隣のクラスの子と相合傘してた。見せつけてくれてさ!」
「美奈子、おまえ、それくらいでイラついてどうするんだ」
「肩寄せ合って!何あれ?私に見せつけようとしたのよ!」
「美奈子の被害妄想じゃない?」
思わずみちるは苦笑いしてしまった。レイも横で小さく頷いている。
「何よ!2人だってイチャイチャするくせに!見てないとでも思ってるわけ?」
「してないわよ!まったくもって、してない!」
みちるが内心照れていると、明らかに腹を立てているレイの声がみちるの左耳を刺激した。美奈子はレイに言ったのではない。みちるに対していったのに。
「何~~ムキになっちゃって。照れてるんじゃないわよ」
「照れてなんていないわよ。事実じゃないと言ってるの」
ムキになるほど、美奈子を喜ばせる。レイはわかっていても、美奈子の言葉を取り消さなければ気が済まないのかしら。いつもみたいに、はいはいってあしらえば済むことなのに。
「ほ~!!さっき、何してたか再現してあげようか?」
「美奈が勝手に話を作るつもりでしょ?」
ストールをかけてあげたのが見えていただろう。そんなことをからかったりしないだろうから、たぶん、その中で手を握り合ったのが、よくなかった。
「レイ、もういいじゃない」
付き合っていることはみんなには伝えているけれど、レイは仲間がいるときは、今までと変わらないようにしている。隣同士に座るのは、仲間が勝手に気を遣っているわけで、本当はレイがそれを望んでいないことだって、あるかもしれない。
「ほーれ、おねーさまがレイちゃんにラブラブビーム送ってるわよ~」
「い~ない~な。うさぎもまもちゃんとイチャイチャしたいなぁ」
レイは美奈子の言葉を訂正させたいのだろう。みちるが止めたことに少しムッとした顔を見せてくる。怒りの矛先がみちるにも向けられたようだ。そもそも、手を握りしめてきたからでしょ、って言いたいらしい。
「美奈子、うさぎ、ゲーセン行くぞ~!レースしよう」
はるかがうさぎと美奈子の頭をパシパシ叩いた後、唇をとがらせている2人を連れて、その場を離れた。亜美とまことは視線を交わし合っている。みちるは目で、はるかたちのところに行ってもらうように伝えた。
「……ごめんなさい、レイ。私が余計なことをしなければよかったわね」
「別に……」
ため息ひとつ。亜美たちの背中を追いかける視線。傍にいてほしかったみたい。
「レイも下に降りる?」
「……音がうるさいし。これを飲んだら、帰るわ」
「うちに来ない?来てほしいの」
「わかった」
さっきのため息で、ある程度の怒りを吐き出してしまったのだろうか。爆発したり、みちるに苦言を呈することもしない。感情の薄い部分も含めて愛しているのは間違いないけれど、時々、レイは苦しくないだろうかと心配になることもある。それでも嫌なことは嫌だと言う子だ。興味のないことには手を出さない性格でもあるから、みちるに対して少しも愛情がなければ、レイはみちるの傍にも近づかないだろう。




「あの……さっきは、ごめんなさい」
夕食を作っていると、レイが背中に声をかけてきた。
「さっき?」
「……美奈の」
「あぁ。レイが謝るの?レイが怒っていたのに?」
「そうだけど……私が寒そうにしていたから、気を遣ってくれたのに」
振り返ってレイを見つめても、視線はわざとそらされている。
照れているのね。こういうところがかわいい。
「いえ、いいのよ。私は気にしていないわ。レイが嫌なら、みんなの前ではもう、レイの手を握ることはしないわ。美奈子ったら目ざといんだから」
「………嫌っていうわけじゃないわ」
恥ずかしい、って素直に言わない。
「そう?でも、一応気を付けるから」
「………そうね」
少し、残念そうに見えたのは気のせいかしら。



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Date:2014/12/22
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