【緋彩の瞳】 我儘と愛と ①

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

我儘と愛と ①

………寒い

身体が本能的に小さく震えて、みちるは意識を緩やかに取り戻した。
目を開けると、世界は薄暗い。真夜中ということではなさそうだ。それでも目を覚ますにはまだまだ早い時間ではあるだろう。
ここ数日で急激に空気が冷たくなり、冬らしくなってきた。夜になれば、駅前のいたるところでイルミネーションが綺麗に飾られて、クリスマスムードも高まってきている。
デパ地下に入れば、クリスマスらしさのお惣菜が並ぶ横で、おせち料理の予約受付なんかもやっていて、せわしない感じが漂っている。
このシーズンは平日も週末も関係なくコンサートがあり、イベントやゲスト出演などの短時間の演奏なんかも合わせて、1日中あちこちへと走り回っていることが多い。だから、みちるの休みと言えば平日のど真ん中だったりするのは、当然のこと。
そして今、間もなく水曜日の朝を迎えようとしている。

寒いと感じたのは、みちるの片腕が羽毛布団から飛び出しているせいだった。首筋もひんやりとしている。クイーンサイズのベッドだが、掛布団はそれよりも大き目サイズで暖かいもののはず。でも、隣の芋虫がみちるの分を結構引っ張って包まっているようだ。みちるの身体を包む布団は、本当に残り少なくなってきている。
「………レイ」
掛布団を引っ張っても背中を向けて熟睡しているレイは、頑なに固持しているようだ。
レイの華奢な身体に抱き付いた。みちるの冷えた身体とは正反対に、しっかりと暖められている。暑がりで寒がりのレイは、急に冷えたここ数日はこうやって子供みたいな体制で冷たい空気に触れないようにしている。
薄暗闇の中、ちらりと見える鎖骨。
昨日の夜、帰ってきたらもう1時を回っていた。学校のあるレイは先にお風呂に入っていて、すでに芋虫の体制だった。みちるがお布団の中に入った時は、眠そうな声でお帰りとおやすみなさいという声は聞いた。頬に唇を寄せただけで、疲れた身体はすぐに眠りに落ちた。
レイは眠りの浅い体質ではあるが、冬の蒲団引きこもり病の時は、起きていても動こうとしない。今、レイは起きているのか熟睡なのかも、よくわからない。
わからなくても、別にかまわない。
みちるはレイの鎖骨に唇を這わせ、そっと舌で愛撫した。
「……ん……」
逃げるようにもっと小さくなろうとする。かわいい。まだ、瞳は閉じたままだ。レイは眠りの世界にいるみたい。
ここ2か月ほどは仕事で夜も遅く、休みも合わず、レイも何かとバタバタしていた。
夜遅くに帰ってきて、2時を回って蒲団に入って、当たり前のように求めてくるレイの相手をしたのが先週末。土曜日の朝からイベントの梯子だからと、やんわりと断ってみたけれど、問答無用というような雰囲気で、致し方なく抱かれた。レイがみちるを断ることは時々あるけれど、みちるがレイを受け入れないということは、一度もなかった。とにかく気まぐれな子で、たっぷり時間があるときに、そのスイッチが入るというわけじゃないから、みちるは振り回されている方。それでも、レイがみちるを求めてくれるということだけで、生きているって思えるから、仕事中に疲れが押し寄せてきても、自業自得だと言い聞かせるしかない。
「……ん……や…」
嫌がるように暖かい蒲団の中にもぐり、みちるは顔を手のひらで押し返されてしまう。
「レイ」
触らせないとでもいうかのように、うつ伏せに寝返りを打ってしまう。長い髪を一つにゆるく束ねている、それをそっと払って、首筋を露わにさせた。
「…………や」
うなじに唇を寄せると枕に押し付けられ、籠った声が抗議してくる。
「レイ」
「…………いや」
みちるがどれだけ疲れていても、眠たくても、レイを拒むことはない。レイだって早朝やら真夜中、みちるが熟睡しているときに求めてきたことがある、それも1度や2度じゃ済まない。何度もある。だから、1度くらいはレイが付き合ってくれてもいいのに。
「レイ」
枕の下に頭を隠してしまわれた。それじゃぁ、寝たくても眠れないはずなのに。
急に目が覚めて、眠気が吹き飛んだ理由はみちる自身もよくわからないけれど、レイの身体を愛した記憶は1か月以上前。素肌が見える隙間も見えないくらい、ブロックされる。
そこまでしなくてもいいのに。
みちるはシャツの隙間から、両手を入れて背中をなぞった。
「………やめて」
いつもいつも、寒い早朝に抱き付いてきて、問答無用でみちるのシャツの中に両手を突っ込んでくるのはレイ。それなのにみちるが同じことをすると抗議。
「レイ」
背中に抱き付いて、求めてみても反応はしない。無視を決め込むつもりらしい。
「レイ」

……
………

それから5回呼んでも、返事はこない。
何だか寂しいし、それ以上に腹立たしくなってきて、みちるはレイから離れ背中を向けて、きつく目を閉じた。
いつも平日はレイのために朝ごはんを作り、お弁当を作り、お風呂を沸かし、玄関まで見送るようにしている。雨の日は車で学校まで送ることだってある。よほど早朝からの仕事ではない限り、それを怠ったりしない。レイはしっかりしているけれど、面倒臭いからと朝食を抜いたり、ランチにパンを一つだけ持っていこうとしたり、栄養のバランスを無視したチョイスをすることが多い。付き合い始めてから知った意外な一面でもあったが、すべて完璧にできる子だったらみちるが必要ないので、それはそれで世話を焼いていることは、幸せだと思っている。
だけど、今日の朝は何もしてあげないことにした。

少しまたウトウトし始めたころ、レイの近くにある目覚まし時計がジリジリと鳴りだす。
「………ん……」
20秒ほど鳴り続けた後、渋々と言った様子でようやくベルを止めてくれた。
「………さむ……」
いつもこのベルで起きるのはみちるで、レイが二度寝に突入している間にお風呂を沸かし、朝食とお弁当にとりかかるのだ。
だけど、起きてやらない。みちるは休みなのだから。

……
………

二度寝の体制かしら、と背中越しに様子をうかがっていると、みちるの腰に暖かいものがふれてきた。
「………ご飯……できた…?」
当然のように呟きながら、その右手がシャツの中に侵入してくる。
「今日、私はオフなのよ。寝かせて欲しいの」
「……ん……」
止めるつもりはないようだ。少しひんやりしているその手が乳房を求めようとしているから、がっちりとブロックした。
「レイ。起きて、自分で用意して食べて、学校に行きなさい」
「………いい、いらない……。お風呂…」
「ボタン押せば、お湯が出てくるわ。栓をしてからボタンを押すのよ。自分でやって」
「………ん、わかった……」
侵入を阻止されたことで諦めがついたのか、みちるのお腹を撫でた手は抜かれて、モゾモゾと起き始める。
「さむ……」
呟きながらみちるの身体を乗り越えて行こうとする。抗議しようとしたが、重みはすぐに消え、ガチャリと部屋を出て行った。
あれでは、朝食を食べる時間もないだろうし、お弁当なんて自分で作る気もなさそうだ。お風呂で身体を温めたら、すぐにでも出ないと間に合わない。
みちるはレイの残した温もりのある場所に寝なおして、眼を閉じた。今は6時。ベッドに入ってから4時間ほど。途中で一度起きてしまったから、眠たいことは確かだ。

ペタペタと素足で廊下を歩く音が何度も往復している。そのあと、玄関の扉が開いて、閉められたあと、静けさが訪れた。
みちるの顔を覗きに来るとか、機嫌をうかがうとか、キスを一つしてくれるとか。
そういうことは、待てども待てども来なかった。


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Date:2015/01/18
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