【緋彩の瞳】 我儘と愛と ②

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

我儘と愛と ②

みちるさんのマンションは、レイの神社から自転車で8分ほどの距離。無限学園崩壊後、付き合い始めてから、みちるさんは麻布の高層マンションに住んでいる。さらにそこからレイの通う学校までは、バスに乗って15分ほど。学校指定のスクールコートと紺色のマフラーを巻いても、短いスカート丈と靴下では、暖かいなんて言えたものじゃない。
「……あ……お弁当持ってなかった」
何やら、朝から機嫌の悪そうなみちるさんのせいで、朝食を食べ損ねて、お弁当も持たせてもらえなかった。昨日、仕事で何か嫌なことでもあったのだろうか。朝なのか夜なのかよく覚えていないけれど、抱き付いてきたような、きていないような。夢だったかそうじゃなかったのか、曖昧だ。
神社にいるころは朝食抜きもよくあることで、ランチは学食のオムライスだの定食だの、それも食券なんかに並ぶのが面倒な時は、パンでもよかった。
最近はすっかり朝昼晩と栄養のバランスが取れたものを食べているおかげで、習慣づけられていて、朝にお腹が空くようになった。
「お腹空いたな…」
コンビニに寄ると言っても、マンションからバス停の間にはコンビニはない。取りあえずバスに乗ってから考えよう。そう思って駅に着く前に、見たことのある車がすぐそばで止まった。
「おはよう、レイ」
外車の運転席側の窓が開くと、よく知る顔。
「はるかさん」
「学校?」
「送ってくれる?」
「あぁ……乗りなよ」
これでコンビニ経由が確定する。幸運はやはり、引き寄せるべきものだ。とはいっても、はるかさんも近くに住んでいるから、わりとよく出くわすのだけれど。
「コンビニに寄ってほしい」
「いいよ。何、忘れ物か何か?」
「朝食」
「へぇ……あれ、みちるは地方?」
「寝てるわ」
「あ、そうなんだ。お前、自分で用意しろよな」
「いつも、それはみちるさんがやるんだもの。今日は寝ていたいんですって」
「へぇ~」
クラッチをゆっくり離しながら、車が進む。そこまで道が混んでいない静かな朝。人の少ないコンビニで、ホットコーヒー2本と栄養補助食品と書かれたお菓子を買った。
運転手に1本渡し、学校に着くまでに食べ終わった。
「みちる、今日は仕事?」
「さぁ。水曜日だから、お休みかもしれない」
確か、オフだと言っていたような気もする。
「そっか。レイはクラウンに来るのか?仕事が15時に終わるんだ」
「うーん、そうね。行けたらね」
「じゃ、あとで会えたらな」
「送ってくれてありがと」
みちるさんは休みだったか仕事だったか。毎週、毎日、ちょっとずつスケジュールが違うから、オフって言っても、午後からは仕事なのか、一日オフなのか、ちゃんと聞いていなかった。何やら不機嫌だったし、もしかしたらオフはそっとしておいてほしいのかもしれない。
「………さむ」
ぼんやり校門前でみちるさんのことを考えている場合じゃない。レイは小さく身体を震わせながら、急いで校舎へと向かった。


9時過ぎまで眠り、冷えた空気を嫌いながらもゆっくりと起き上った。レイが入ったお風呂をもう一度温めなおし、自分ひとりだけの遅い朝食の用意をする。と言っても、あまり空腹を覚えていないので、レイと食べようと思っていた貰い物の洋梨を一つ剥いて齧った。紅茶を飲んでお風呂に入り、時計は10時前。1人のオフだけど、明日の演奏のためにはヴァイオリンの練習は欠かせない。午前中はそれに費やして、お昼は外に出た。休みでも、レイにお弁当を作るから、結果的にみちるもそのお弁当と同じメニューを家で食べることが多いが、今日は何も作っていない。1人でもカフェに入るのは慣れている。サンドウィッチのセットを食べて、挽きたてのコーヒーを飲み、時計を見ると13時半。レイの学校が終わるのは15時過ぎ。今日は天気が良くても、風が冷たくて体感温度は真冬と同じらしい。みちるは遠出をしてのんびり買い物ということを早々に諦めて、麻布にある高級食材ばかりを取り揃えているお店で食材を買い、マンションに戻った。時間があるときくらいはゆっくりと手の込んだものを作りたい。作り置きを食べさせたり、仲間たちと食べてきてもらったり、レイと夕食を共にできるのは本当に休みの日、秋以降は週に1度になっている。朝のレイの態度にはがっかりしたし、まだ腹立たしい想いはあるけれど、朝食とお弁当を抜きにしたことで、その制裁とし、自分を納得させた。
レイのあの様子では、みちるが何を考えているかなんて、まったくわかってなどいないはずだ。それを言葉にしたところで、不思議そうな顔をされることくらい、目に見えている。惚れた弱みと言えばそれまでだし、レイがみちるを愛していないなんてことは考えていない。相当な我儘は、心を許している人にだけしか見せない。あれはレイの愛情表現の一つなのだから。
15時を知らせる部屋時計が鳴る。みちるは携帯電話を取り出して、恋人にわざとの着信履歴を残した。まだ学校内にいるはずだから、応答してくれない。掛けなおしてくるのを待っていればいい。
15時20分過ぎ、レイから電話がかかってきた。
「レイ」
『ん?』
「お昼ご飯は、パンでも買ったの?」
『食堂で、期間限定のカキグラタンを食べたわ』
夜はカキ鍋と5種類のお刺身。食材がかぶってしまった。お弁当を持たせるべきだったと、少しだけ反省してしまう。
「……そう」
『みちるさん、今日はお仕事ないの?』
「ないわ」
『家にるの?』
「いるわよ」
『クラウンに行こうかと思ってたんだけど、みちるさんは?』
みちるも来いと言いたいのだろうか。またこの寒いのに外に出たいと思わない。仲間たちの顔は最近見ていないけれど、週末のコンサートには全員来ると聞いているから、それまであと数日だ。
「いいわ、今日は久しぶりのお休みだから、一日ゆっくりしたいの」
『そうなの?そっか…。じゃぁ、19時前には帰るわね』
「………は?」
学校からバスで15分くらいなのに。19時に帰るって、それはつまり、レイはクラウンに行くということ。
「レイ、ねぇ…」
尋ねようとしたら切られてしまった。みちると過ごすよりもクラウンで仲間たちと戯れる方がずっといいということらしい。
「……何よ」
一応、レイのあれはみちるも誘っていたのだろうけれど、誘うというよりも、みちるが家にいると分かった時点で、どうしてクラウンに行かない選択肢を取らないのだろうか。ゆっくりしたいの意味は、レイと一緒にという意味なのに。

せっかく気持ちを切り替えたばかりだというのに、電話を真っ二つに折りたい気持ちに駆られてしまった。




おっす
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Date:2015/01/20
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