【緋彩の瞳】 我儘と愛と ③

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

我儘と愛と ③

「あれ、みちるは?」
「ん、誘っても来ないっていうし、一日ゆっくりしたいっていうから。帰ろうかと思ったんだけど、1人でオフを過ごしたいのかもしれないって思ってね。夕食には帰るつもり」
夕食も外で食べて、なんて言われたりするだろうか。ついでなら聞いておけばよかった。みちるさんは、作れないときは作り置きか、前もって連絡をくれる。作りたくないのなら、必ず言うだろう。朝とお弁当も作らないとちゃんと言ってくれたから。だから、夜は久しぶりに2人で食べられるはず。それまでは、ゆっくりのんびりとしてくれたらいい。ここに呼んでうるさい人たちの相手をするのも、それなりに疲れるだろうから。
「レイちゃん~。はるかさん」
美奈たちがゾロゾロと入ってくる。パーラーの店内はクリスマス仕様になっていて、BGMもクリスマスソングがかかっている。
「寒いね」
「寒い寒い」
いつもと変わらぬ仲間たちは、マフラーで顔を半分隠したままだ。ひんやりした美奈の髪が手に当たり、外の寒さが伝わってくる。
こんなに寒いのだから、みちるさんは家でのんびりしている方が正解なのだろう。暖かい紅茶を飲み、クリスマスの予定なんかを確認しあう仲間たちに、きっとクリスマスコンサートがあるから、それを観に行くんだろうなと考える。相変わらず忙しい人ね、とため息を吐いた。当たり前のように朝もお弁当も用意してもらっているのは、もしかしたら、我儘が行き過ぎているのかもしれない。
朝も機嫌がよろしくなかった。そういえば、みちるさんがレイの身体にまとわりついたような気がしたのは、あれは結局、夢だったのだろうか。
「どした?考え事?」
「ん?いや、別に何も」
「みちるさんは?」
「オフだから、家でのんびりしたいって」
うさぎは寒いと言いながらも、パフェを食べている。どうしてそれを選ぶのだろうか不思議。
「うさぎ、お腹壊すわよ?」
「いいのいいの。甘いもの食べるとさぁ、疲れ飛ぶの」
「疲れるほど勉強してないでしょ」
レイが呟くと、亜美ちゃんが大きくうなずいた。抗議しようとしたうさぎも、亜美ちゃんの態度に悔しそうな表情を見せている。
甘いものでも買って帰ろうかな、って思った。みちるさんはお仕事が忙しくないときは、よくタルトやクッキーを作ってくれる。甘いものは普通に好きなはずだから。はるかさんに送ってもらうついでに、ケーキ屋に寄ってもらわないと。


イライラしながらも、夕食の準備は結局しておいた。レイとゆっくりお茶でもと思っていたけれど、レッスン室に引きこもり、ひたすら音に集中することにした。明日の演奏は小さいころから散々弾いた曲ばかりで構成しているけれど、それでも何度でも演奏しても飽きたりしないし、みちる自身が好きだから何度も演奏会で弾くものばかりだ。
みちるだって、レイの我儘の10分の1くらいを恋人にぶつけたいと思うことだってある。
つま弾く弦は、繊細な音とは程遠い。こんなんじゃ練習しない方がいいに決まっているけれど、みちるは他に発散方法を思いつかない。
今頃、仲間とたわいないおしゃべりをしているに違いない。
みちるがレイを想っていることなんて、まったくどうでもいいに違いない。




麻布で一番おいしいというケーキ屋さんは、夕方になっても人はそれなりにいて、イチゴタルトとマンゴータルトを買って、合いかぎを使って部屋に入ったのは、19時10分ごろ。
「ただいま。遅くなってごめん」
玄関で靴をそろえて、廊下を突き進む。リビングにはお鍋のセットが用意されていた。寒いから、身体が温まるメニューにしてくれたみたいだ。
「みちるさん?」
キッチンからは物音がしない。レイはとりあえずケーキを冷蔵庫にしまった。冷蔵庫の中にはお刺身とカキ、その他の食材がスタンバイされている。見ただけでお腹が空いてきた。
「みちるさん?」
ベッドルームにもいないということは、レッスン室だろう。どうしようかと悩む。レイはみちるさんがレッスン室に籠っている間は、よほどのことがない限り声をかけたりしないようにしている。とりあえず服を着替えて、それからすぐに食べられるようにと冷蔵庫から食材を取り出して、グラスに冷たい烏龍茶を注いだ。
「……19時半過ぎか」
レイはみちるさんに19時前に帰ると言った。座って待っていても来ない。レッスン室の前に行って、耳を澄ませてみる。音は聞こえてくる。
「………どうしよう…」
声をかけてもいいだろうか。悩んだけれど、生ものをいつまでも、放置して待っているわけにもいかない。先に食べてと言われるかもしれないし。
「みちるさん!」
レイはノックをして名前を呼んで、数秒してからドアをそっと開けた。ヴァイオリニストがピタリと音を止めた。
「みちるさん、ただいま」
「………お帰りなさい」
「邪魔してごめんね。レッスン、まだ続ける?もう19時半だわ」
みちるさんは眉間にしわを寄せて、溜息をついている。せっかくの集中が途切れてしまったのだろうか。
「………あぁ、ご飯ね」
「うん。カキ鍋でしょ?嬉しい。暖かいものが食べたかった」
「レイはお昼にカキを食べたのでしょ?いいの?」
名器を丁寧にケースにしまいながら、笑いもしない。みちるさんは何かちょっと機嫌が悪い感じ。
「そんなの気にしないわよ」
「そう。すぐに用意するわ」
「火をつけたらすぐ食べられるところまでは、やっておいたわ」
さらわぬ神にじゃないけれど、音楽のセンスは正直ほとんどないレイにとって、みちるさんを励ましてあげるような言葉とか、センスあるアドヴァイスなんて出来やしないのだから、取りあえずはお腹いっぱいご飯を食べて、それから甘いものを食べて、少しでも気が紛れたらいい。自分で作っていないということを棚に上げながら、思った。
みちるさんは淡々と出汁の効いているお鍋に具材を入れていく。
「………あの、何かあった?」
「何かって?」
「お仕事で。話し聞くだけしかできないけど……何かあったなら話してくれていいから」
「仕事は今のところ順調よ。明日は朝から3回演奏があるけれど、そのうち一つはホテルの中だから、そこでスタッフさんたちと夕食を取るわ」
「そうなの。どこのホテル?」
みちるさんは、とても有名なホテルの名前を挙げた。きっとおいしいものが食べられるだろう。演奏に悩んでいるとか、仕事の多さとか、そういうことじゃなさそう。夕方前に始まるその演奏会に、聴きに来てほしかったとか。でも、そんな誘いなんてなかったし、そこに制服姿で登場するわけにもいかない。そろそろテストが始まる頃だから、サボってまで行くことじゃないし、みちるさんはそういうことまでして聴きに来てほしいとは思わないはず。
「いただきます」
みちるさんも人間だから、虫の居所が悪い日もあるかも。思いながら、レイは熱々でぷりぷりのカキを口の中いっぱいに入れた。
「レイ、朝食は抜いたの?」
「缶コーヒーと、クッキーみたいな栄養補助食品って書いてあるものを買ったわ」
「学校で?」
「はるかさんと出くわして、コンビニに寄ってもらったの」
「はるか?」
眉間にしわを寄せられても、お腹が空いていたし、悪いことをしたわけじゃない。
「朝は学校まで送ってくれて、さっきも送ってもらったわ」
「……そう」
「みちるさんは?今日はのんびりできた?久しぶりのオフだったから、ゆっくり過ごせた?」
レイに合わせて起きることも、わざわざお弁当を作る手間もなかったし、クラウンにも出てこなかったから、少しはゆっくりできたのならいい。レッスンで何か思いつめたりしていなければ、だけど。
「別に何もないわ。お昼は外に出たけれど、それ以外はほとんどレッスン室にいたから」
よほど、明日は大事なお仕事らしい。流石に一流のホテルでやるんだから、それもそうよね、なんて自分に言い聞かせる。何かイライラというかピリピリというか、みちるさんだって、仕事内容によっては、そういうこともあるかもしれない。
「明日、誰か知り合いが聴きに来るの?」
嫌な人に会う予定があったりするのだろうか。
「ホテル?」
「うん」
「別に」
お刺身を食べながら、みちるさんはまったく微笑みもしない。
美味しいものも、おいしくなくなるような気もする。
「えっとじゃぁ………昨日、何かあった?」
明日の仕事のことではないのなら、過去のことだろうか。レイは昨日、1人先にベッドに入っていた。みちるさんが何時ごろに帰ってきたのか時計を見ていないけれど、レイが12時にベッドに入ったのだから、そのあとに帰ってきてお風呂に入ってなんてしていたら、たぶん、2時とかそのあたりかも知れない。何か辛い仕事だったのだろうか。
「昨日?」
「違うの?」
「朝方のこと?」
「………朝方?遅かったの?何かあったの?……」
もしかして、夜中ではなく、みちるさんは早朝に帰ってきたのだろうか。そのあたり、レイは時間を正確に把握できていない。
何かみちるさんが抱き付いてきたのは、あれは帰ってきたときだったのだろうか。
記憶があいまい過ぎる。ということは、夢じゃなかったということだろうか。
みちるさんは大きなため息を吐いた。
「レイが覚えてないのなら、話がかみ合わないわね」
レイが今の今まで、仕事で何かあったのだろうと心配していたことは、どうやらレイ自身が原因で、みちるさんの機嫌を損ねているようだ。
まさか自分だとは思わなかった。
「え?……何、私なの?」
身に覚えはない、はず。
何か、普段と違うことをしただろうか。
いつもと何も変わらないような気がする。
朝、何かあっただろうか。夢じゃなくて、みちるさんが抱き付いてきたのが現実だとして、寝ぼけていたレイは、何か余計なことを言ったのだろうか。
寒いと文句を言ったような気がしないでもない……そんなことで怒ったりするだろうか。
「………別にいいわよ。レイの我儘を許さない私が悪いのでしょうから」
「あの、私、何か悪いことしたの?」
「ほらね」
ほらね、と言われても。
みちるさんは、レイにはとても優しい人。もったいないくらい、優しい人。レイのためにいつもご飯を作ってくれるし、レイの我儘を許してくれるし、レイの拙くて幼い愛を受け取ってくれる世界でただ一人だけの、レイの大切な人。
みちるさんがレイに何か怒ったりするときは、取りあえずレイが悪い。付き合い始めたころに、朝食は別にいらないと言ったら怒られたし、お弁当なんて持っていかないし、パンでも買うからって言ったら怒られたし、夜の3時まで起きてみちるさんを待っていたら、寝てなさいと怒られたし。風邪引いたのを黙っていたり怪我をしたことを黙っていたりして、怒られたこともある。
とにかく、心配をかけないでほしいと念を押されては、何かと世話を焼いてもらっている。

今回は、いったい何をしたのだろう。
みちるさんはその都度、レイにちゃんとダメなことを教えてくれる。
ほらね、と言われるだけじゃ、レイにはわからないのだ。
とはいっても、怒られっぱなしだったのは付き合い始めたころで、今は言われたことはちゃんと守っているはず。もちろん、ここ数日にイレギュラーなことなんて起こっていない。
「………私が何をしたの?」
ほらね、の次のセリフが出てきそうにない。レイはお箸をおいて、視線を合わせようとしないみちるさんを見つめた。
「…………あなたは寝ぼけていただけよ」
やっぱり、夢の中の出来事じゃなかったということなのかしら。拒否したことを怒っているとしたら、夜か朝かわからないけれど、少なくともレイは熟睡していたのだから、そんなときに求められても、みちるさんの期待する反応なんてできるわけもないのに。
「私は寝ていただけでしょう?」
「記憶にもない?」
「あまりはっきりと覚えてないけれど……嫌だって言ったのは、そんなに怒ることなの?」
朝ごはんの用意がなかったのもお弁当を作ってもらえなかったのも、レイのその態度がそうさせたということなのだろうか。いや、そうなのだろう。みちるさんは朝方に帰ってきたとしても、寝ずに先にそれらの準備をしてしまう人なのだ。いらないのに、と言ったこともあったけれど、作りたいからと言われたから、あまりしつこく言わないようにしている。
「……レイは私が熟睡していようが、お構いなしでしょう?早朝からの仕事があるって言っても、夜遅くても」
はっきりとした拒絶の態度を取られたことは、確かに記憶にはない。
だから、レイを求めてきたみちるさんに応えてあげなかったことが、みちるさんには不満であり、腹立たしいことなのだろう。
残念ながら、寝起きの悪さの加減で言うと、こんな寒い日に熟睡しているレイが、まともに対応できるなんて……自分でいうのもあれだけど、まったく思えない。
「ごめんなさい、きっと熟睡していたから邪魔されて、私、ひどいことでも言ったのね」
「顔を押し返されるし、断固拒否だったわ。私は無理やり起こされたとしても、ちゃんと応えているわ」
何か、レイを求めなければ気持ちが落ち着かないような、嫌なことがあったのだろうか。レイが過去に何度かみちるさんを無理やり起こしたのは、多くが夢のせいだった。隣にみちるさんがいるというのに、別の世界に消えてしまって、1人で取り残され死んでしまうという妄想に駆られて、起こさなければ気持ちが落ち着かなかった。それをうまく言葉で説明できなくて、みちるさんの身体を求めた。もちろん、眠れぬ夜や、早くに目が覚めてしまったときに、隣で眠るきれいな横顔に、じっとしていられなかったことも、ないわけではない。静かで孤独な暗闇はあまり好きではない。愛する人と繋がっていたい気持ちになる。2人でいても独りでいるような想いに駆られると、無性にみちるさんが欲しくなる。
「でも、……みちるさん、私が寝ているのを妨げるのは好きじゃないでしょ?」
みちるさんは、眠りの浅いレイをよく心配している。だから、仕事があっても先に寝るようにと言われているし、眠れないときは眠れるまで背中を摩ったりしてくれる。レイが気持ちよく寝ていたのに、らしくないことをして、無意識のレイの拒絶に文句を言われても、ちょっと困る。
「そうね。だからもう、私が熟睡しているときは起こさないでもらえると助かるわ。これでフェアでしょ?」
レイがみちるさんを無理やり起こしてでも求める事情と、違うんじゃないか。
口に出そうとしてやめた。
それはフェアじゃない。みちるさんの言っていることは、間違っていないと思う。
みちるさんにだって、みちるさんの事情はあるのだから。
「……朝はごめんなさい。応えてあげられなくて」
「私にも、レイが欲しいと思うことだってあるの。せめて、抱きしめるくらいさせてほしかったわ」
それまで拒否した記憶はないけれど、きっと蒲団でブロックでもしたのだろう。
寒いっていう理由だけで。
「……ごめんなさい、何か嫌な思い…させて」
理不尽だという気持ちもどこかにあるし、自分の我儘だけが許されるなんてそんな都合のいいことも確かにおかしいと、自分に説得させてもみる。
朝、すぐに言ってくれたらよかったのに。思いながら、お箸を持ち直す気持ちが滅入っていった。だけど、腹立たしと思いながらも用意をしてくれたのだから、レイを嫌いになったわけではないだろう。
みちるさんはレイのためにご飯を作ったり、身体の心配をしてくれたり、とにかく世話を焼いてくれている。レイはせいぜいご機嫌伺いにケーキを買うくらいだ。お金を稼ぐわけでもないし、みちるさんの求めも気温や天気次第では断ったりする。みちるさんのことは、仕事の都合なんていうことを考えないで求めている。でも、1年以上付き合っている間、ずっとそれは許されてきた。もっと早く言えばいいのに、なんて心のどこかでちょっと思ってもみる。
「それに、せっかくのお休みだから、レイはすぐに帰ってくるだろうと思っていたら、みんなとクラウンに行く方を選ぶし……。この2か月、顔を合わせるのはほとんど朝晩しかなかったのよ?レイは、すぐに帰ってこようって思わなかったの?頻繁に会う仲間たちの方がいいの?」
「だから、どうするかって聞いたわ」
「私が行かないと言った時点で、どうして帰ってきてくれないの?」
「オフだから家でゆっくりしたいって言ったでしょ?」
あのみちるさんの反応は、クラウンには行きたくない、1人でのんびりしたいという意思表示ではなかったのか。帰ってきてほしいなら、どうして帰ってきてと言ってくれないのだろう。
「えぇ、そうね。レイと一緒にゆっくり過ごしたかったわ。レイはそうじゃなかったのね」
「じゃぁ何?私がクラウンにみちるさんを呼ぼうとした、すでにそのこと自体がお気に召さなかったというの?」
最近、忙しいみちるさんは仲間と全然会えていない。ゆっくりお茶する暇なんて取れていなかったから、せっかくだから会わせてあげたい気持ちも少なからずあった。みちるさんだって、仲間と会いたいと言うだろうと思っていた。一緒に過ごしたいと言ってくれたのなら、もちろん喜んで飛んで帰った。
「レイが2人で過ごしたいと思ってくれないということが、情けないのよ」
「……情けないって何なの?はっきり、一緒に過ごしたいって言わなかったのはみちるさんだわ」
「そうね。自惚れが過ぎていたわ」
レイだって、みちるさんと2人きりで過ごすことの方が大事だ。
「……空気を読まない、我儘な私がすべて悪いんでしょう。寝ぼけて拒否したことも、学校から真っ先に帰らなかったのも、みちるさんの気持ちを推し量ることができない私が悪いんでしょ?」
みちるさんは視線を合わせるつもりがないらしい。美奈やうさぎにガミガミと口うるさいことを言うのは慣れているけれど、みちるさんに対して、強い口調で話をするなんて、記憶にはない。みちるさんに対しての不満なんて一つもない。でも、みちるさんはそうじゃないらしい。
確かにレイのような人間を相手にするのだから、みちるさんの思い通りなんていうのは、無理なことだろう。レイだってレイなりにみちるさんを愛していても、人を愛するということはみちるさんが初めてだから、模範的行動なんていうものがわかっていない。
「そういうことを言いたいわけじゃないわ」
「私は自分勝手で、みちるさんの気持ちを考えていないと言いたいのでしょう」
グツグツと煮えたぎってくるお鍋。正直、今すぐにでも立ち上がって、この場から逃げ出したい。でも、作ってもらっておいて、そんなことをしたら火に油を注ぐだけのような気もする。深く深呼吸をして、目の前のものを口の中に押し込んでしまえと心に決めた。
「………無理に食べてもらわなくてもいいわ」
「朝と昼が味気なかったから、美味しいものを食べたいの」
お刺身だって脂がのって、高いものを選んだんだろうし、カキだって一つ一つが大きい。
手間をかけて出汁を取ったことだって、味でわかる。
「つまらないことで腹を立てて、朝食もお弁当も作らないなんて、って思ってるの?」
「そういうつもりで言ったわけじゃないわ。作ってくれないことを責めてないわよ。いつも、作ってもらってありがたいって思ってる」
「じゃぁ、どういうつもり?」
寝ぼけていたのは申し訳ないけれど、どうしても欲しいと思ったのなら、叩き起こして、欲しい理由を言ってくれたら、レイだって応えられた。一緒に過ごしたいって思ってくれていたのなら、朝にそう言っておいてくれたら、まっすぐに喜んで帰ってきただろう。レイの態度だけが100%悪いとは思えない。
「……別に」
「言いたいことがあるのなら、言えばいいでしょう?」
「別に何も。相手をしなかったことに腹を立てたのなら、ご飯もお弁当も作ってくれなくても当然だったのでしょうし、それに対してのクレームなんてつけようなんて思わない。フェアでいたいのなら、その約束は守るから。腹立たしいことばかりなのに夕食を作ってもらって、申し訳ないし、感謝してる」
みちるさんは大きなため息を吐いた。無言で箸を動かす様子は、レイと同じで美味しいとか、楽しいとかそういうことが望めないと諦めた態度だ。レイと同じで、立ち上がってどこかへ逃げるということを我慢しているのだろう。
お刺身も、カキも、何を口の中に入れても、味はよくわからなくなってしまっていた。




催促↓
関連記事

*    *    *

Information

Date:2015/01/22
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/416-b5ebd58e
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)