【緋彩の瞳】 我儘と愛と ⑥

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

我儘と愛と ⑥

「冷えちゃうから」
みちるさんが去っていく姿を扉越しに見ていた。美奈子はレイちゃんの鞄とコート、マフラーを手にして、お会計をはるかさんにウインク一つでおねだりして、立ち尽くす親友の傍によった。
「風邪引いて、日曜日行けなくなったら、みちるさんが悲しむんじゃない?」
震わせた唇は、何も綴ろうとはしない。うつむいたままの視線は、さっきまでそこにみちるさんがいたのだろう。コートを着せて、その手を引いた。
「みちるさんのこと、好きすぎるんだね」
階段を転げ落ちてしまわないか心配だったが、美奈子に寄り添うように、レイちゃんはなんとか歩いてくれている。2人の間に何があったのかは知らない。
2人ともきっと、自分が悪いって思ってるんだろうな。
「いったい何があったの?」
腕を取って神社まで連れて帰り、勝手に部屋のエアコンを入れた。とにかく寒い。こたつもスイッチを入れて、震えるレイちゃんを座らせた。
「………何もない」
「んなわけある?」
「…………だって、よくわからないんだもの」
美奈子より頭いい人なのに、みちるさんのことになると思考回廊はすぐにショートする。
今のレイちゃんは、冗談抜きでみちるさんがいないと、火野レイという存在を保てないらしい。
「よくわからないのか。…じゃぁ、きっとレイちゃんが悪いんだね」
「そうなんだと思う」
レイちゃんは、自分が完全に寝ているときに求められて、思い切り拒否の態度を取ったらしい。本人は自覚がない。その朝、朝食もお弁当も作ってもらえなかったが、最初はそれが報復だなんてまったく気づきもしなかった。その日はみちるさんがオフで、まっすぐレイちゃんが帰ってくるだろうと思っていたが、何か言葉の行き違いで、1人にした方がいいと思い、夕食直前に帰ってきて、みちるさんをさらにムッとさせたんだとか。まったくもって悪びれる様子のないレイちゃんに、みちるさんは苦言を呈したらしい。ほとんど身に覚えがないことで文句を言われても、どうすることもできないと反論したレイちゃんに、”自分はよくて、私はだめなの?“と言い返され、ごもっともだと反省したとか。美奈子としては、熟睡しているのに襲うとか、どういう風にするのか具体的に突っ込んでみたかったけれど、殺されそうなので、取りあえず聞き流すふりをした。今度、せつなさんに試してみようかな。きっと頭を叩かれるに違いない。
「……んで?1人反省したわけだ」
「まぁ、一応ね。でも、その報復で朝食とお弁当を作らなかったと言われても。自覚がないことでそんなことされたら、何が良くて何がダメなのか、私には判断付かないことだし、なんていうか、これから毎日機嫌を伺いながら、ご飯を作ってもらうっていうのもね。そもそもお願いしていることじゃないし。でも、次の日はお弁当を作ってくれたのよ。要らないって言ったら、身体が心配だからって言われたの。たぶん、パンとか食べるのがお気に召さないのかもしれない」
「優しいね、みちるさん」
喧嘩しても、ちゃんとお弁当を作ってくれるなんて。
絶対嫁にしたいタイプだろう。
レイちゃん、我儘絶好調すぎる。
「………優しいのは知ってる。けど、熟睡している私を起こそうとしたり、朝と昼を作らなかったけれど、でもやっぱり次の日は身体が心配だってお弁当作るっていうのが、……どうして欲しいのかわからない」
「え?レイちゃん………バカなの?」
このお嬢様、大真面目だ。きょとんとして美奈子を見つめ返してくる。
わからないって……むしろ、わからないのがわからないんだけど。
「レイちゃんが85%くらい悪い」
「わかってるわよ、私が悪いことくらい」
残り15%は、レイちゃんを好きになったみちるさんの自業自得だろう。こういう相手だって、みちるさんはわかっているはず。分かっているけど、みちるさんだってちょっとくらい我儘したかったんだと思う。
「うーん、つまりレイちゃんは、みちるさんの矛盾した行動に、どういう態度を取ればいいのかわからないっていうことなんだね」

愛とは矛盾する行動を取ってしまいたくなるものなんだな、結構。

「………だから、ご飯作ってもらわなくてもいい環境にいないと、落ち着かなくて。気を遣わせるっていうのが、嫌なのよ。それに、イチイチ気にしているのも、なんていうか……」
「別々に寝てれば、エッチもできないしね。つまりはレイちゃん、みちるさんの寝込みを襲えなくなったわけだ」
余計なことを言うんじゃなかったと、恥ずかしそうに視線を逸らしても、もはや手遅れ。
「…………私、人と付き合うっていうことが向いてないのよ」
「いや、それは知ってる。ついでに言わせてもらうと、それ、みちるさん自身もちゃんとわかってるわよ」
みちるさん、優しいし心が広いから、レイちゃんの無自覚の我儘を許せるんだろう。
普通の女の子なら、たぶん1か月も持たない。
「………だから、じゃぁ、結局はどうすればいいのよ?」
「今まで通りにしてたらいいでしょ」
「でもそれって、また、知らない間に機嫌を損ねてしまわない?」
「うーん、そうかもね」
みちるさんはすっかり、諦めるだろう。レイちゃんに“実家に帰らせていただきます”みたいな行動を取られるくらいなら、我儘姫で構わないから傍にいたいと思うだろう。
ただ、レイちゃんも少しはみちるさんの些細な我儘をちゃんと認識してあげるくらい、大人になった方がいい。大人というか、なんというか。
「………どうすればいいのよ」
「我儘を悔い改めたら、レイちゃんじゃなくなっちゃうしねぇ」
殴るぞ、みたいな顔でにらまれても。
眠たそうな顔して。きっと、みちるさんが傍にいないから眠れないっていうことだろう。
「矛盾する行動も愛の表現だから。別にみちるさん、レイちゃんを困らせたいんじゃないって。寝てるレイちゃんを欲しいと思うのも愛。腹を立ててご飯作ってなんてやらない、っていう気持ちも愛、でも一緒に過ごしたいって思うのも愛。結局、レイちゃんの健康面が心配で、お弁当を作ってしまうのも愛なのよ」
レイちゃんの不得意分野だろうな、愛なんて言葉。腕を組んでるくせに、しょんぼりしてる。
「………いや、そんなに難しいことじゃないから」
数式を覚えるより、簡単なことがどうしてできないのか不思議でならない。
これがきっと、みちるさんがレイちゃんを手放さない理由でもあるし、みちるさんを悩ませる種でもある。
「こればっかりは、口で説明してもわからないのかなぁ」
「美奈はみちるさんの気持ちがわかるの?」
「そりゃ、多少はね。だから、レイちゃんを選んだ時点でみちるさんが⒖%悪いのよ」
「何よそれ」
「愛とか恋とか、乙女心とか。レイちゃん、わかる?わかんないでしょ。わかんない人と付き合う覚悟をしてるんだから、いばらの道を選ぶ方だってバカなのよ」
でも、そのおかげでレイちゃんはすごく人間らしい顔をするようになった。みちるさんが呆れるくらい甘やかして、我儘を聞いているから、大好きな人の中で存在を許される安心感があるんだろう。大体、レイちゃんが人を好きになっている時点でそれはもう、奇跡。


みちるさんは神様の地位だ。


「だから、私が悪いことはわかってるんだってば」
「あ~、めんどくせ~やつ!愛してるって言って、チュッてしとけば問題解決じゃない」
なぜ?という視線をされても、受け入れずにポイ捨てた。
レイちゃんが悩んでいることは、正直、大したことじゃない。勝手に自分から複雑に糸を身体に絡みつけて、動けないでいる。
レイちゃんは、みちるさんがレイちゃんを深く愛しているということを、どこまで理解しているんだろうか。愛することに必死過ぎて、そのあたりの理解がちょっと追いついていないから、みちるさんの気持ちがわからないのだ。

まぁ、つまり、結局は我儘。

「仲直りしたいなら、エッチしなよ」
「……ばっ、な、何言ってんのよ!」
「何って。愛を確かめ合うためにエッチするのが、恋人同士のルールってなもんよ」
あ~ぁ、真っ赤。まったく、かわいいんだから。
美奈子はさっと携帯電話を取り出して、真っ赤な顔で固まっているレイちゃんの顔をパシャッとカメラに収めておいた。
「ちょっと、美奈!」
「ははは。素晴らしい人質をいただいたわ。帰ろうっと」
コートを手にして立ち上がり、慌てて追いかけようとするレイちゃんから、ひらりと逃げる。
「バカ美奈!!!消しなさい!!!」
「やだよ~~。見せびらかしてやる」
みちるさんに送っておかないと。
逃げ足はレイちゃんよりずっと速い美奈子は、猛ダッシュで坂を下った。






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Date:2015/01/28
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