【緋彩の瞳】 傷に染みる 

緋彩の瞳

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マリみて、舞乙、ワンピ

傷に染みる 

ワンピース
ナミロビです




右肩がひどく痛んだ。
呼吸をするリズムに合わせて、ズキンズキンと訴えかけてくる。

あぁ、残念ながら生きている。
立ち上がる気力もない、誰かに助けを求めるつもりもさらさらない。
人に助けてほしいと思うことは、弱いふりをして近づくための戦術でしかないはず。
それなのに呼吸を繰り返して、心の中で痛いと思っている自分に、なぜだか笑いがこみあげてきた。

ここで終わらせようと思ったのに。


「……痛いわね」
口の中は、砂に混じった自分の血の味。小さい頃、気持悪がられて人から殴られたり怪我を負わされたりしたことは何度もあったけれど、そこそこいい年になってこんな仕打ちを受けるとは思わなかった。そうならないために、ありとあらゆる人の間をうまく泳いで来た。
でも結局、裏切りや裏切られることなんて当たり前の世界で生きて来たのだと、思い知らされるだけでしかない。クロコダイルが憎いだなんて思わない。そもそも信頼関係すらない、都合のいい相手でしかなかったのだから。
人が、人として正しく清く生きられる世界なんて、本の世界以外では見たことも聞いたこともない。
存在するとすれば、欲しくなる。
だから望まない方がいい。

「…っ……」
ドク・ドク・ドク……
右肩を染めている血は、半分以上乾いている。血は止まっていて数時間以上はしている様子だった。“麦わら”がロビンの制止を無視して助け出したはいいけれど、どこかわからない場所に放置されたようだ。
まぁ、敵なのだから当然のことかもしれないけれど、置いて行けという言葉を無視した割に、放っておくと言うのもなかなかみじめな仕打ち。
これが、与えられた罰だというのだろう。

あのまま死ねたらどれだけ楽だったか。
想いながら、今さら自分で死ぬことは難しいと思った。

もう、何もかもないのに。

それでも、何かに巻き込まれて死ぬのならいいけれど、自分で自分の手首を切り落とすことはできない。お母さんとサウロがそれを許さないだろうと思えた。いや、思いたいのかもしれない。
今さら、自分を置き去りにして独りぼっちにさせた人たちのことを想っても、何にもならないはずなのに。
だけど、唯一ロビンの中にある“人の優しさ”のすべてだった。死んでいようが、生きていようが、お母さんとサウロの言葉だけがロビンを生かしているのだ。

だから、自分で死ぬことだけは……今は避けたい。


想うとおりに死なせてくれなかった“麦わら”にとりあえず、責任を取ってもらわなければ。
この町の静けさは、すべての戦いが終わったのだと告げている。彼はたぶん生きているだろう。遠くの方から聞こえる宴の歌。
それを背に、とにかく痛む肩を押さえて、どこかにあるだろう彼らの船を探すことにした。

もし、どうしても乗船を許されないのなら、どこかの島で下してもらってもいい。
あるいは、彼らを殺してでも。
傷が癒えるまで。
お母さんとサウロの言葉を、また信じられる気力が沸くまで。



可愛らしい船だった。
前にも思ったけれどとても海賊船とは思えない、観光船のような、人の夢や希望を乗せるようなイメージを持たせる船。気力で船に乗り込む途中、傷が疼いて血がポタリポタリと床の木目に色を足してゆく。心の中で申し訳なさが、同じようにポタリポタリとしみを作った。
この船はすごく大切にされている。丁寧に掃除がなされ、かわいらしいミカンの木まであり、何度も修繕されている。今までに乗り込んだどの船よりも、愛されているようだ。
居心地がいい。
血と痛みでまた遠のきそうな意識を何とか振るいだたせて、船の中を物色した。
あの、一身の中にいた女の子の服を勝手に借りて、とにかくシャワーを浴びて傷をどうにかして。
ロビンは動いて開いた傷口から、いくつもの血を滴らせながら船の中をゆらゆらと歩いた。

その血痕を見て、“まるで、この船に生きている印を刻んでいるようだった”と、しばらくたってから航海士さんから文句を言われたのだけれど。


仲間にして欲しいとまでは思っていなかったのに、どうしてなのか口が仲間に入れてと勝手に動いた。ルフィ以外から感じる殺気はなかなか威勢が良かったけれど、完全に治っていない傷を負うこの身体では、流石に相手をしても勝ち目は薄い。
焦りはなかったけれど、あっけらかんと仲間になることを許可したルフィにロビンはほっとした。
なぜ、ほっとしたのだろう。それを自分で説明はできないけれど。
「妙なマネしたら、私が叩きだすからね!」
そういう航海士さんがもっとも常識的に思えた。これくらい人を疑っておいた方がいい。疑われているくらいの方が、かえって居心地良く思える。
また、新しい“仲間”ができた。この船の行きつく先がどこであろうとも、ただついて行くだけ。
妙なことをしたら叩きだすという条件付き。その条件を飲んで、ロビンは持ってきていた宝石を彼女に渡した。お金代りに持ち歩いていたものが、コートの中にゴロゴロと入っていたのだ。お金を払って乗せてもらうことにしたら、幾分とお互いに気負いせずに済むだろうし。
やたらと喜ばれたけれど。


「ちょっと、あんた」
確か、唯一の女の子の年齢は18歳のはず。あんたと呼ばれて振り返ると、腕を組んだ航海士さんが敵意むき出しでこっちを睨んでいた。
「何かしら?」
「甲板、私の部屋、その他諸々の床の血痕はあんたの?」
宝石を手にしたときの顔色とは違い、幼いながらも海賊らしい顔つき。
大切な船を汚した“船員”を早速注意しにきたのかもしれない。
「あぁ……そうね」
「怪我してるんじゃないの?」
「していたけれど。血は止まってるわ。あとで床、掃除させてもらうから」
雑用なんて可愛い仕事だから、なんてことはないけれど。航海士さんが片方の眉毛を器用にあげて、そして顎をくいっと出してひとつの扉を指示している。
「あの部屋に入って」
「……かまわないけれど」
男だらけの組織や海賊たちばかりを相手にして、あるいは部下に女の子を持つこともして来たけれど、この手のタイプは未経験。
今のところ妙なことはしないという条件を飲んだのだから、と、ロビンは言われたとおりの扉の中に入った。

「連れて来たのか?」
トナカイの。…たしか船医さんだ。医者のいる部屋に入ったロビンは、いったい何?と航海士さんに振りかえって無言で理由を求めた。
「一応、あんたはこの海賊の仲間になったんだから。仲間が怪我しているのに放っておくなんていくらあんたでも、私の気持ちが落ち着かないの」
清々しいほどの一瞥と、“頼んだわよ”と船医さんに言い残して乾いた音をたてて部屋を後にする彼女。ロビンはよくわからなくて、ただ首をかしげているだけ。

“仲間になったんだから”

……

もうないと思っていた肩の痛みが、今さらながら疼き出した。

「おい、おまえ、怪我しているんだろ?ナミが言っていたぞ。あちこち血痕があるって。おまえのだろう?」
小さなトナカイの船医さんは、ロビンを警戒しつつそれでも医者らしく傷を見せろと言ってくる。人に傷を手当てしてもらうなんて、ほとんど初めてのこと。
「平気よ。もうほとんど治ってる」
「それは医者が判断することだ。自分で決めることじゃない」
それが正しいのかどうかはわからないけれど、あまりに真剣なまなざしに、思わずため息が漏れた。拒否をする理由を思いつかなかった。
航海士さんから勝手に借りたシャツを脱いで傷を見せると、船医さんは“これはひどい”と呟いて、ロビンをとりあえずベッドに寝かせた。
人に助けてほしいなんて求めたことがないはずなのに、なぜか強制的に痛みを癒してもらうなんて。
「おまえ、こんな傷を放っておくようなことばかりしていたら、今に命を落とすぞ」
「そうかしら?」
別に、そうなったらそれでも構わないけれど。口には出さない。
「そうだ。ルフィが仲間にするって言ったんだ。おまえ、これから何かあったらちゃんと俺の治療を受けないとダメなんだぞ」
仲間ってそう言うものかしらと思いながら、不思議と胸のあたりがむず痒くて。
それがきちんと自分の中でどういう感情にあたるのか、思い当たらない。
「航海士さんもあなたも、ルフィの言うことをちゃんと聞いているのね」
逆らえないのではなく、自分たちで考えた上でルフィに付いて行っている。
「あ、あたりまえだ!ルフィは船長なんだ。船長が仲間だと認めた以上、おまえは仲間だ、ろ、ろ、ロビン!」
ミス・オールサンデーでも副社長でもなく、久しぶりに呼ばれた名前。口調はロビンをまだ恐れている様子なのに、丁寧に治療をしてくれる船医さん。
「わかったわ。あなたの言うとおり、何かあったら助けてもらうわね。優秀な船医さん」
ありがとうとお礼を言うと、照れているのかよくわからないような口調で“バカ野郎”と言われた。これはきっと、嬉しいのだろう。

不思議にも、“仲間”という言葉が傷を癒す力になるように思えた。航海士さんも船医さんも警戒しながらも傷の心配をしてくれるとは。人に心配されるむず痒さに、慣れそうにない。心配させたお詫びに、まずは床の血痕を掃除して、お役に立てることがあれば何かしてみよう。

もし、許されるのならばしばらくここにいたい。
見返りを求めたり、利用したり、殺したりしない、“仲間”。

サウロ、いつか出会えるって言っていた仲間ってこの人たちのことかしら。
どうせ、行くあても、帰る場所もないのだから、この船にいてその答えを自分の中に見つけ出そうと思う。


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Date:2015/02/01
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