【緋彩の瞳】 ひとりじゃない夜

緋彩の瞳

マリみて、舞乙、ワンピ

ひとりじゃない夜

夕食の後、ナミは一番おいしそうなみかんをもぎ取ってロビンを探していた。いったいどこへ行ったのだろう。これでも割と目で追いかけていたのに。
「ロビンは?」
「さぁ?見張り台じゃないか?さっき、サンジにコーヒーを淹れてもらっていたから、女部屋にいなければ、あそこだろ」
ロビン、高いところがお好きなのかしら。心の手帳にメモしておこう。
ウソップに言われたとおり、女部屋にいなかったからあとは見張り台しかいない。
「ロ~~~~ビ~~ン!!」
下から大声で叫んでみると、柱から手がニョキっと現れて、親指がグーって指してきた。これ、たぶん“上にいるわよ”みたいな合図って言うことかしら。
「そっちいってもいい~~~~?!!」

……
………
返事無し?

来るなって言われるかもしれないことを考えて、“そっちに行くから”って返事の必要がない聞き方をすればよかった。
「ん?」
せっかくのみかん。もう一度呼んでみようかなと息を吸っていると、今度はロビンのハナの手が来い来いって何本も出てきた。
「何よ、声出して返事してくれてもいいのに」
まぁ、ロビンがそんな大声出すわけもないかな。
上に行けば、もしかして2人きりじゃない?
そんな事を考えて、何か鼻息が荒くなってきてしまう。
慌ててその自分の身体の反応をふるい落とすように頭を振った。
煩悩退散!
ただ、約束のみかんを食べてもらいたいだけなんだってば!
梯子をギシギシいわせながら2人ではちょっと狭い見張り台へ到着。
「ロビン」
「航海士さん、どうしたの?」
ロビンはランプと本、ブランケットにコーヒーを淹れたポットを持ってきていたみたい。
しばらく居座る準備万端、っていう感じ。
1人でいたかったのかな。
やっぱ、その方がいいのかな。
でも、出て行けと言われるまで居座るつもりだけど。
「どうしたのって、約束したみかん。一番おいしそうなものを摘んできたって言うのにさ、ロビンはこんなところにいるんだもん。追いかけて来たの」
おいしいものは、おいしいうちに食べてもらわないと。
もっともらしい言い訳でダメ押し。ここに居させてもらわないと。
チョッパーだっていないんだし。
「そう。ありがとう」
「待って、むいてあげる」
薄暗いけれど、ランプ一つでも十分。あんまり明る過ぎてロビンがよく見えると、それはそれで心臓に悪いような。あぁ、でも薄暗闇に2人っていうのもまた、心臓に悪いような。

いや
だから、別にイヤらしいことは考えてませんから!
仲間だし、女同士の友情ってやつよ
……って誰に言い訳をしているんだろう。

「あなたはいいの?」
綺麗に皮をむいて渡してあげたら、半分に割ったものが返ってきた。これは、“半分こ”しましょうっていう気づかいみたいだけど、ナミとしてはもちろん全部ロビンに食べてもらいたい。
「いいの。ロビンが食べないとダメなの」
「そう?じゃぁ、頂くわね」
どこを見るでもない風な視線はナミを決して見つめてはくれなかったけれど、みかんを噛んで飲み込む音がナミの心に響いてくる。
なんだか、こんなことで嬉しく思っちゃうなんて中学生以下かも。

あぁ、やっぱダメ。
これは医学辞書で引いて調べたところの“初恋”であり、現代医学では治すことができる薬はない。だが、人間は一生に1度必ず掛かる病気なのだ。
そして、相手は“ニコ・ロビン”で間違いない。

「おいしい。こんなにおいしいみかん、初めて食べたわ」
教科書ですか、っていうくらいの褒め言葉。まぁ、ルフィみたいに“すんげ~”とか“バリウマ!”なんて言われたら、恋が覚めるかもしれないから、ある意味これでいいんだけれど。
「でしょ?特別にロビンは、欲しくなったらいつでもあげていいわよ。私に言ってくれたらね」
10でも20でも、爪擦り減ってでも皮を剥いてあげるつもり。
「ふふ…。ありがとう。でもいいの?船医さんが食べたがっていたけれど」
「いいの、いいの」
あいつは、今後一切みかんを食べることも、木に触ることも許さん。ロビンと間接キスしたやつに優しくする馬鹿じゃないんだから。
「ロビン、どうしてここに?本、読んでいたの?」
「えぇ。と言っても、ごめんなさい。これはあなたの本棚にあったものを勝手に持ってきちゃったのよ」
ロビンは読みかけていた本のタイトルを見せてくれた。たしかにナミが持ってきていた本だった。
おとぎ話の長編の2巻目。すでに1冊読み終えていたみたい。
「気にせず読んでもいいわ。そういうの、興味あるんだ」
「こういう本の知識って意外な時に役に立ったりするかもしれないでしょ?」
本当、知識ってもう入りませんって満タンにならないものなのね、ロビンって。
えらいな。
すごいな。
「でも、こんなところで?こんなランプじゃなくて、女部屋で読めばいいのに」
まぁ、星はもうめちゃくちゃ綺麗に輝いていて、魔法かもっていうくらいに流れ星が頻繁に宙を泳いでいるのだから、1人でロマンチックに眺めつつ、本を読むっていうのも悪くないけれど。
「でも、部屋にいたら航海士さんの邪魔になると思って」

気を使ってる
それとも、さりげなく遠まわしに“邪魔だよ”って言ってるの?

「でも、流石にブランケット1枚じゃ寒いよ、ロビン」
「そうでもないわ。ブランケットにくるまって眠れるだけで、十分よ」
「って、いや……ここで寝るつもりだったの?部屋のベッドで寝ようよ」
思えば、仲間になってから一応女部屋は2人で使うって言うことにしたけれど、1つしかないベッドでロビンが寝たことはないかもしれない。いつも夜になると、調べたいことがあるとか、読みたい本があるとか、不寝番だとか、何かと部屋にいない。
それに、この肌寒い気温でもブランケット1枚で十分って。いったいどんな環境を生き延びたんだろう、ロビンは。案外バロック・ワークスの副社長の時の方が恵まれていたんじゃないかな、なんて思っちゃう。
そんなのダメよ。
この船が最高に心地のいい場所だって思ってもらわないと。
「私はベッドじゃないところで寝るのは慣れているし、ひとつしかないベッドだもの。あなたが使うべきよ」

それじゃ、一緒に寝よう。

そう口にしようと思ったのに、何かとんでもない愛の告白みたいに思えてすぐに言えなかった。
いや、別に一緒のベッドで寝たからと言って、何かあるわけじゃないけれど。
少なくともナミの下心と小学生のような興奮は抑えられないだろうな、とは思う。
ビビなんて当たり前のように一緒に寝ていたのに。

「気にしない、から……その、一緒に、ね、寝たらいいよ」
一世一代の告白のような気持ちで提案してみた。何か、声が震えている。
いや、別にそんなことで緊張してどうするんだろう。
「大丈夫。私はどこでも眠れるし、もともと眠りは浅いから」
見事にさらりと笑ってかわされてしまった。
想像以上にショックを受けて、泣きそうになってしまう。
ここで泣いてどうするっていうのよ。
別に告白して振られたわけでもあるまいし。
「えっと……あの~…うー…」
ない知恵を絞って、なんとかベッドで寝るように仕向けないと。
「綺麗ね」
「……は?」
何をいきなり褒めてくるのよ。心臓に悪いじゃない。
「星。振ってくるから、なんだか捕まえてみたくなるわ」
「………なんだ、そっちか」
「そっち?」
「ううん、こっちの話です」
ロビンは全然ナミを見る様子もない。じっと星降る夜の空を眺めて柔らかいため息をついて。
ナミと一緒に寝るのが嫌って言うわけでもないだろうな、というのは理解できる。
1人になりたくて、ここで寝ようとしているわけでもないだろうし。
これがロビンのリズムなのだろうし。
でも、ちょっと入り込みたいなと思ってしまう。
それが初恋を発症した場合の病状なわけだし。
「ロビン、私もここで一緒に見ていてもいい?」
「どうぞ」
自然とロビンに寄り添って、傍にいられる理由が見つかった。ロビンに出て行けと言われたら、ロビンが一緒に温かいベッドで寝てくれないのなら、自分もそうすると言ってみよう。
「そっち…行ってもいい?」
「どうぞ」
ブランケットの半分を与えてくれるように広げてくれたから、ナミは身体をロビンにぴたっと沿わせて、ロビンと1枚のブランケットにくるまった。
「ロビン……いい香り」
なんだか緊張しているはずなのに、ロビンの体温はホッとする。嬉しくて、もう、どうしよう。
「さっきのみかんの匂いじゃない?」
ナミがぴったりくっついてきているのに、全然気にしていませんと言った感じ。
まぁ、片思いなんてこんなものね。
「……ロマンチックじゃないなぁ、ロビンは」
「そう?」
「うん。せっかくこんなロマンチックなんだからさ」
みかんを言い訳にここまで登って来た時点で、全然ロマンなんてないけれど。
「ロビン、ここはまだそんなに寒くない海だからいいけれど、気温はすぐに変化するんだから、ちゃんと女部屋で寝るようにしてよね。これは、航海士の命令なんだから」
「航海士の命令?それは言うことを聞かないとね」
こっちを見て、ニコッと微笑んでくる。
やばい、死んでしまうわ!
「………仲間なんだから、心配なのよ」
顔、赤くなってないかしら。
心配しながら、とりあえず熱い頬を隠すように膝に顔をうずめてみた。
「ありがとう、航海士さん」
ポンポン。
ナミの頭を軽く触ってくるのは、間違いなく“ハナ”の方のロビンの手。
でもまぁ、全部ロビンの手だからいいけれど。
「まったく、世話の焼ける大人なんだから」
「ふふっ」
やっぱり好きみたい、ロビンのこと。
どうしよう。
触れている右の腕が、自分の腕なのに羨ましい。
身体ごと全部預けて、ぎゅって抱きついてみたい。
まぁ、きっとそれは無理だけど。
そう言う状況が訪れるのを待つしかないかな。
船が大きく揺れるとか、海王類が現れるとか。
待っても来ないなら、状況を作るしかないのかな。

………思いつかない。

仕方がない。
ずっと一緒にいられる仲間なんだから、じっくり恋を実らせていこうかな。
みかん育てるより、大変そうだけど。
「ロビン」
「ん?」
「……あまりに静かだから、なんとなく呼んでみた」
静かな海。小さな波が船を時々キシキシ鳴らすだけの海。
「そう?」
「……うん」
ロマンチックだなんて思っているのはナミだけだってわかっているけれど
なんだか幸せすぎる。

いいかな、こういうのも。

こうやって、ゆっくりとロビンに近づいて行こう。


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Date:2015/02/01
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