【緋彩の瞳】 あなたのためにできること ①

緋彩の瞳

マリみて、舞乙、ワンピ

あなたのためにできること ①

ロビン
ロビン
ロビン
ロビン

何度も名前を呼ばれている。
泣き叫ぶ声がする。
遠くではない。
身体は何も感じない、何も見えない。
それでも、人の声がする。
ロビンと叫ぶ声は、とても強くてそれに応えなければと思わせる。

「ロビン!!」
水音とともに、何かが身体を強く押してくる。
いえ、押してくるのではない。抱き締めてくる。
「…………」

航海士さん。

そう口に出したいのに、唇が震えているのか凍っているのか何も紡ごうとしない。
「ロビン!ロビン!ロビン!」
「ナミ、まだダメだ。次はお湯にしてゆっくり温めるんだ」
「チョッパー!ロビン、今ちょっと動いた。ロビン!わかる?!」
声だけを頼りに、自分に何が起こったのかをゆっくりと思いだそうとした。
前のように海に落ちたわけではない。
島で“青雉”に出くわしたのだ。
穏やかで、やっと心が許せるかもしれないと思った、優しい人たちの集まるこの海賊の中にいるロビンを見つけ出して、追いかけて来たのだ。
「ロビン!ロビン!」
航海士さんの泣き叫ぶ声。
心配してくれる感情が、痛く心にしみてくる。
こんな生きていても価値がないと言われ続けた人間のために。
生まれてきたことが罪だと言われた人間のために。
オハラを一人で飛び出して、初めてロビンは人に守ってもらえた。
青雉に差し出すことも、置いて逃げることもせず。
「ロビン!大丈夫?!冷たいよね?すぐに温めてあげるからね!」
こんなロビンのために、必死な声を張り上げて。
「ナミ、しっかり抱えていてくれよ」
このまま、死ねたらいいのに。
ロビンがここにいると海軍にばれてしまった以上、いずれまた、近いうちに彼らを巻き込むだろう。
彼らを傷つけるくらいなら。
彼らがロビンのせいで海軍や世界政府に追いかけられるくらいなら、ロビンができることは死ぬか、あるいはこの一味を離れること。
「ロビン!ロビン!ロビン!」
また、航海士さんが必死に名前を呼んでくる。

ありがとう
ごめんなさい

それすら言えない。
目も開けない。
ただ、抱き締めてくれるその優しさが温かくて、離れないでだなんて矛盾した気持ちも抱いてしまう。




「ロビン、ロビン、ロビン、ロビン」
水でゆっくり溶けてゆく氷から、少しずつロビンは解凍されてゆく。ナミはウソップと交代して何度も何度も水をかけた。
「ロビン!」
全身を包んだ氷が消えて、いてもたってもいられなくてバスタブの中に飛び込んでロビンを抱きしめる。驚くほど冷たい水の中、初めてこんなに強く抱きしめたのに、ロビンは死んだように身体には体温がなかった。
「ナミ、まだダメだ。次はお湯にしてゆっくり温めるんだ」
完全に氷がなくなっているのを確認したチョッパーは、バスタブの栓を外して水を抜くと、今度は沸かしておいたお湯に切り替える。腕の中のロビンがかすかに動いたように感じた。
「チョッパー!ロビン、今ちょっと動いた。ロビン!わかる?!」
かすかに動いた唇。それでも閉じた瞳は開かれる気配はない。
でも生きている。
ロビンは生きている。
温かいシャワーをかけても、冷えた身体を伝う温もりはすぐに消えてゆく。冷たくなっているジャケットを脱がせてきつく抱きよせた。
がくっとナミの肩に落ちる頭は意識がないことを物語っている。
「ロビン!ロビン!ロビン!ロビン!」

こんなにも名前を呼んでいるのよ、ロビン。
心じゃなくて声に出して叫んでいるのよ、ロビン。
こういうときはちゃんと返事をしないといけないんだよ、ロビン。


目を開ける気配はないけれど、チョッパーが聴診器を当てて安堵のため息を漏らしている。それを見て、ナミはいまだひんやりしているロビンの手を握りしめたまま、同じようにため息をついた。
「息もしているし、とりあえず大丈夫だ」
「本当?」
「あぁ、そのうち目を覚ますだろうから。でも油断は禁物だ」
ひとまず、ずぶ濡れの服を脱がせて乾かしてあげないと。
人間の女には興味がないというチョッパーを信じて、ナミはできる限り素肌が見えないようにタオルでその細い身体を隠しながら、チョッパーと一緒に服を着せた。濡れた髪をしっかりタオルドライして、ラウンジにベッドマットを置いて寝かせる。青白い肌をこんなに撫でても閉じた瞼は開かない。
「オレはルフィを診てくるから、ロビンを頼む」
「うん。わかった」
ロビンと同じように凍らされたルフィを代わりにバスルームへ運ぶと言って、チョッパーもいなくなる。あわただしく船内はずっとドタバタと音がするけれど、ラウンジだけは静まり返っていた。
「………ロビン」
海軍の大将という肩書を持つ人間が、わざわざロビンを追いかけてきた。
たった一人の女のためだけに。
そりゃ、確かにロビンはクロコダイルと手を組んでいたわけだし、20年間世界政府から逃げ回っている賞金首だけれど、何も大将が出てこなければいけないほどの金額ではない。

“ロビンが関わった組織はすべて壊滅している”

20年間、ひとりぼっち。
友達も身内もいない。頼れる人だっていない。
正義を名乗る大人から追いかけ回されて生きてきた。
ロビンはクロコダイルをはじめ、たぶんろくな海賊に出会わずに生きて来たのだろう。
それが生きる唯一の術だったんだと思う。
善良な市民なら、賞金首の子供が来たらすぐに政府に知らせるだろうから。

でも
本当に、すべてロビンが壊滅させたのだろうか。
少なくともクロコダイルは壊滅させるべきだろうし、どうせそのほかの海賊だって海軍は壊滅してくれた方がよかったはず。
身を隠さなければならないロビンが、自らの手で壊滅させるなんて思わない。
たとえば今日みたいな襲撃があったのなら、ロビンを売り渡してしまおうとする海賊だって絶対にいただろう。
だから本人の口から説明されるまで、あの大将の話なんて一切信じないんだから。
「……ロビン、ロビン、ロビン、ロビン」
氷のように冷たい頬にそっと触れる。凍傷なのか、耳たぶや鼻先が赤くなっている。
「…………ロビンは私が守る」
どう考えても、ナミがこの一味で一番弱いけれど。
ロビンのことは誰よりも好きだから、ある意味一番強いはず。
ひんやりした頬を両手で包んで、少しでも体温を分けてあげよう。
「…………ロビン、ロビン、ロビン、……ロビン」

冷たい鼻先を指先で触れてみる。自分の唇に触れた後の指で。
許可なくキスは出来ないし勇気もないから、これはその、早く目を覚ましてほしいおまじない。




ロビン
ロビン
ロビン
ロビン



「………ロビン?」
ロビンが目を覚ましたのは、それから4日経った後だった。青雉もいなくなり、ひとまずロビンとルフィのために島に停泊をして、朝が来たら気温は夏日。
「ロビン、大丈夫?ロビン」
握った手を弱弱しく握り返してきて、ロビンはナミをうっすらと見つめて無理した作り笑顔を見せてきた。
「よかった。何か温かいものでも飲む?」
その笑顔が辛そうで、苦しそうで。
言いたいことがきっといろいろあるけれど、言えないんだろうなって伝わってくる。
それがひどく寂しい。でも、それがロビンの優しさなんだっていうのがわかる。
「ごめんなさい……航海士さん」
「何を謝る必要がある?私たちは仲間なんだから、困った時はお互いさまよ」
元気づけようと思って、痛いくらいにロビンの手を握り締めて精一杯笑って見せた。
「……ありがとう…………本当、…ごめんなさい」
それでも、無理している笑顔を崩したりしない。
一層、辛そうに思えた。
「サンジ君に頼んで、温かいものを作ってもらうから」
本当は傍にいたいはずなのに。
抱きしめて、大丈夫って言ってあげたいのに。
ナミはその苦しそうなロビンの表情を見ていられなくて、逃げるようにラウンジから飛び出していった。
助けてあげたいと思えば思うほど、ロビンを追い詰めることにならないだろうか。
何もなかったようにあっけらかんと笑っていればいいのだろうか。


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Date:2015/02/01
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