【緋彩の瞳】 傷跡 ⑫

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

傷跡 ⑫

「レイ、おはよう」
「おはよう、みちるさん」
12月も後半に入った。この家での生活も、リズムが生まれてきている。朝は手作りのマフィンやパウンドケーキ、パンケーキ、そう言ったものと果物を食べたあと、レイはソファーに腰を下ろす。みちるのCDを聞いた後にマッサージをする。そのあと、ランチを作り始めると、レイはそれをぼんやりと眺めている。そして少し寝て、起きたら散歩に行く。その間にみちるはヴァイオリンを練習して、帰ってきたレイに1曲聴かせてあげる。満足そうに笑うその顔を見た後に、お茶を飲んで、マッサージやストレッチをして、夕食の準備に取り掛かる。夕食を作っている間、部屋で休んでいることもあれば、ソファーでじっと座っていることもある。
お風呂に入れて10時過ぎには寝ている。みちるも何もすることがないので、11時過ぎには寝る。そして早く起きて、また、朝ごはんの準備をする。
「イチゴの匂い」
「えぇ。昨日スーパーで買ったでしょう?タルトを作ろうと思って」
「朝から?」
「朝作っておいて、冷蔵庫で冷やすの。お茶の時にね。朝はサンドウィッチにしたわ」
「楽しみ」
レイは、少しずつだけど笑うようになった。だからみちるは、楽しみだと思ってもらえることを色々と考えなければならない。手の込んだ料理を作って、美味しいと笑ってもらえるように。毎日聴かせるヴァイオリンで、喜んでもらえるように。そうやって、また、数時間後、明日の朝、明後日と、楽しいものが待っていると思ってもらいたい。
「そろそろ、クリスマスね」
「クリスマス……そう。カレンダーを見ていないから、今日が何月何日とか、わからなかった」
レイは本当に日にちのことを気にしていなかったらしい。部屋にカレンダーなんておいていないし、携帯電話を使わないからだろう。興味すらなかったのかも知れない。
「ブッシュ・ド・ノエルを作るつもりよ」
「そう」
「ほかにリクエストがあれば、言って。ターキーとか、ピザとか、ロブスターがいいとか」
「みちるさんが食べたいものでいいわ。2人で食べきれるものでいい」
「じゃぁ、雑誌を見て考えるわ」
クリスマス。レイと初めて手を繋いだイヴ。レイに好きだと告げた。レイと付き合った記念日。レイと初めてキスをした。2年前のことなのに、今でもよく覚えている。レイの選んだセリフ。みちるが口にしたセリフ。学校からどれくらいの距離の、どのあたりの場所だったのか。そのときにみちるが着ていた服も靴も。忘れられないでいる。

レイが忘れてしまっても、みちるは忘れたりしない。
どんなことがあっても、みちるという人生はレイが彩をつけてくれたと言うことを、忘れたくはない。たとえ二度と唇を重ねられなくても。それでも、その過去を忘れたくはない。身体に刻んでいたい。

「……急に人が来るなんてあったりしない?」
「え?えぇ。もちろん」
「よかった。その…、クリスマスだから、その、また、あの人たちが来たりしたらって」
そうすれば、また、やっと笑ってくれるようになったレイは、恐怖に身体を震わせてしまうだろう。
「ないわよ」
「………そう。あの人たち、悲しんだりするのかしら……」
みちるはバターを混ぜている手を止めて、レイの傍に近づいた。
「レイがちゃんと生きていることに、安心しているわ」
「……火野レイがすべてを思い出して、あの街に戻ってくるって、信じていられても……」
それは、全員が信じ続けているだろう。
信じ続けて、いつまででも待っているだろう。
仕方がないという気持ちを抱きながらも、それでも、きっといつか、と。
「レイの生きたいようにすればいいわ」
レイを愛している。だけど、美奈子たちの想いは痛いほどよくわかる。運命を分け合い生きてきた大切な仲間。彼女たちが信じることをあきらめきれなくても、その想いを消してくれと、望めないと言うこともわかっている。
そして、それをあきらめないからこそ、彼女たちなのかもしれない。
「…………死にたいと、思わなくなった」
「そう。いいことだわ」
少し伸びた前髪。頭を撫でて、指に髪を絡ませて梳いた。さらさらと流れるしなやかな髪。
「みちるさんの演奏、毎日聴きたい。ご飯も美味しい。だから、死にたいということは、考えることもしないようにしてるの」
レイはぼんやりとした瞳で、特にみちるに微笑むようなこともなかった。
その言葉には好きだという感情なんて、乗せられているわけでもない。

それでも、嬉しかった
嬉しくて

すごく
嬉しくて

「レイ」
どれほど広い会場でも、レイの眼差しはすぐに分かった。いつも、レイが来ているときは、奏でる音のすべてをレイだけに届けていた。
強く愛しているという想いをこめて。
どんなことがあっても、愛し続けると言う誓いをこめて。
そうやって、演奏をしている自分のことも好きだった。
レイを愛している。
そのことがたまらなくみちるを幸せにしてくれた。
「……みちるさん?」
指に絡めていた髪。
その身体を抱きしめて、髪の少なくなった頭皮が見える場所に口づけを落とす。この唇がレイに触れることはもう、永遠にないと思っていたのに、
「クリスマスは、レイだけのためのリサイタルをしないとね」
「本当?」
「えぇ。練習時間をちょっと増やすわ」
「じゃぁ、私は楽しみを与えられたのね」
「えぇ。クリスマスらしい曲の譜面を送ってもらわないと」
腕の中のレイは、みちるを抱きしめ返すようなことはしなかったが、それでもみちると言う存在を拒絶するオーラも出していない。
この距離でいられるのなら、愛しすぎず、失わずにいられるのなら。

ずっと、この距離で。このままで。





「あ!」
携帯電話が鳴って、ポケットから取り出して書かれてある番号は、海王みちると書かれてあった。そしてその横に(レイ)と。みちるがレイに持たせてある番号だ。
「レイからだ!」
はるかは思わず叫んだ。こたつを囲んでいた仲間が、一斉にはるかの手の中の黒い携帯電話に注目する。
「みんな、声を出しちゃダメよ!」
美奈子が人差し指を唇に押し当てて、四方に見せつけた。うさぎが自分の口を押さえる。
「レイ?」
『………はるかさん?』
「うん。元気にしてる?」
レイに番号は渡していたけれど、一度もかけてきたことはない。あれから数回会っているし、それ以上に何もないし、レイも何かを望んでいるようではない。だけど、会うたびに緊張感が和らいでいくのは見ていてわかるし、レイの中では、はるかという人物を少しだけ受け入れてもらっている。
『はい。あの、手も結構良くなりました』
「そうか」
『あの、はるかさん。今度、あの……、来ることありますか?』
「レイが会いたいって言ってくれたら、いつでもすっ飛んでくけど。どうかした?なんかCD聴きたいとか?」
みんな、耳を澄ませてレイの声を聞いている。レイの声を聞く、それだけでいい。そんな思いで。
『いえ、あの。CDは別にいいです』
最近は、みちるの演奏しているCDをよく聴いているってみちるがやけに嬉しそうに電話で言っていた。ずっと眠らせていたヴァイオリンを手にして、毎日少しずつ感覚を取り戻しているみたいだ。本格復帰をしたいという気持ちはないらしいけれど、それでも、毎日レイのために演奏をしているらしい。
「そう?帽子、もっとレパートリーを増やそうか?」
『え?あぁ……毛糸のやつとか?』
「うん。買っていくよ」
『あ、その、それもありがたいんですけれど……えっと、あの、お願いがあります』
「よしきた。何でも相談に乗ろう」
過去を忘れてしまったレイは、生きていく希望も未来もないと、一度、死を選んだ。はるかたちは、レイが生きてきた過去を知っていて、覚えていても、レイはすべてを忘れてしまっていて、さらに忘れていると言うことを認識できないでいる。
はるかたちと分かち合った時間のすべては、身に覚えのないことでしかない。他人のことだとしか思えないのだ。

だからレイが生きている。それだけでいい。

そのレイが、はるかにお願いがあると言ってきた。それはつまり、生きて何かをしたいという希望を持っている、ということと同じ意味で、仲間はみんな口を押さえながらも、嬉しそうにきらきらと輝く瞳ではるかを見つめている。
『明日、14時くらいにあの、この家の近くにひとつだけ、自動販売機があって、そこに来てもえらえたら、ありがたいです』
「あぁ、うん。場所はわかるよ」
『連れて行ってもらいたいんです。えっと、できればスーパーじゃなくて、どこか買い物できるような場所に』
「洋服とか?」
『……服というか、それは違うんですけれど』
「うーん、じゃ、ちょっと大きいところに行こうか」
『はい』
みちるからのお願いじゃないということは、みちるは知らないことなのだろう。待ち合わせ場所だって、指定されている。
何か、みちるのために買いたいものがある。あるいは、みちるに知られたくないものを買わなければいけない、そういう事情だろう。
「じゃぁ、明日、言われた時間に言われた場所にお迎えに参上するよ」
『はい。あ、あの…みちるさんには言わないでください』
「了解。じゃぁね」
電話を切ると、呼吸を止めていたみたいな大きなため息が一斉に漏れた。
「レイちゃん、ちゃんと元気に生きてるんだね」
「そうだな」
「よかった。本当によかった」
ここはレイの部屋だ。クラウンパーラーで集まっていた仲間は今、定期的にレイの部屋に集まり、レイのおじいちゃんが寂しくないように頻繁に様子を見に来る。みちるからもおじいちゃんに電話をしていて、レイの様子はみんなで分かち合えている。それでも、レイの声を聞くことができるのは、はるかだけだった。
「レイちゃん、いつか東京に帰りたいって思ってくれたりするかなぁ」
「それはどうだろうな。やっと今の生活に慣れてきているから。まだ、難しいかもな」
それでも仲間が揃えば、クリスマスには記憶が戻るかな、なんて話題になってしまう。みちるとレイはクリスマス・イヴに付き合い始めた。あれからもうすぐ2年になる。誰も、1年半で終わるだなんて想像もしていなかっただろう。きっと2人だって、レイだってどうすればいいのか、それが正しいことなのかなんて、分かっていなかったはずだ。
「今年のクリスマスは、みちるさんとレイちゃんのいないパーティだね」
うさぎは残念そうに、それでもレイがちゃんと生きているということを噛みしめるように瞳を輝かせている。
「………レイちゃんがさ、今のレイちゃんが過去を忘れてしまっていても、どこにいても、何をしていても、誰を想っていても、傍にいなくても……この現実を受け止めないとね」
それでも、その美奈子の言葉はまだ、仲間であることに変わらないという気持ちと戦っている。
「ずっと仲間で、ずっと運命を分かち合っている。そう思っているのは僕らだけだよ」
「…………でも、変えられない事実だわ。レイちゃんが、事故に遭う前のレイちゃんが、仲間の輪から外れることを望むなんてありえない。あの頃のレイちゃんの気持ちはどうなるの?ずっと、ずっと仲間でいる、同じ運命を共に生きていたレイちゃんの想いはどうなるの?」
誰もがみんな、レイを愛してた。
誰もがみんな、1人1人、かけがえのない仲間を愛しているし、愛されている。
「だけど、別れってあるんだ。みちるとレイだって、ずっと永遠に愛し合えると思っていたけれど、そうはならなかった。それと……それと同じだよ。どうしようもないことって、あるんだ。消えた過去を押し付けることは、今のレイの存在を認めないと言うことだ。僕は、今のレイも愛してる。たとえレイがずっと僕に他人行儀でも。僕たちと愛し合った過去をなくしてしまっても、今のレイだって、一生懸命……空っぽの過去を抱いて生きているんだから」
しめっぽい空気を嫌って、美奈子は畳に寝転がった。みちるとレイのいない6人の足を温めているこたつ。足のどこかが、誰かの足に触れている。
触れていることが安心をもたらす。

その、誰かがいて、過去を分かち合えている安心感は、今のレイにはない。

どれだけ苦しい想いを抱いているのだろうかと考えると、とっさに死にたくなった気持ちは、わからないわけでもない。

今を積み重ねて過去になり、その過去は未来という希望をもたらす。
一つの別れもやがて過去になり、また、いつか笑える日が来ればという、少しの想いを抱いた未来を希う。

それがどれほど幸せなことなのか、こんなことになるまで気づかされなかった。



「外に出てくる」
帽子をかぶったレイは、いつも通りみちるに声をかけた。
「寒いから、あんまりのんびりしすぎないでね」
いつも通りコートを着せてもらって、鞄を手に取る。
「うん」
遅くなるかもしれないって、言った方がいいのかどうか。悩んでみたけれど、言えずに外に出た。歩いて自動販売機のある道を進むと、前に乗せてもらった車がすでにある。
「レイ」
「はるかさん、こんにちは」
「こんにちは。さて、行こうか」
助手席のドアを開けてもらい、車はUターンをしてスピードに乗った。
「えっとね、少しだけ遠いんだ。30分くらい離れた場所じゃないと、買い物ができる場所がなくてね」
「そうですか。このあたりって、何もないですもんね」
「別荘地だしね」
往復だけで1時間。買い物にどれくらいの時間がかかるかはわからない。取りあえず、できるだけ早めに済ませて帰らなければ。
はるかさんの車の中では、ヴァイオリンの音色が響いていた。レイの知らないもの。だけど、みちるさんの演奏にとてもよく似ているような気がする。それしか知らないから、そう思うのかも知れない。
「この曲、みちるさんですか?」
「うん。一番新しいのだよ」
「そうなんですか」
クラシックばかり演奏する人だと思っていたけれど、海王みちるというヴァイオリニストは違うジャンルでも、そつなくこなせる人のようだ。
「いい曲だろ?」
「そうですね」
知らない道を走って、大きなショッピングモールに到着した。たくさん車があって、親子連れがゾロゾロと歩いている。
「さてと、何が欲しいんだ?」
「プレゼントを。あの、クリスマスのプレゼントを買いたいんです」
毎日豪華な食事を作って、演奏をしてくれて、何から何までレイの世話をしてくれているみちるさんに、クリスマスなのに何もしないと言うわけにはいかない。
そういう気持ちになった。みちるさんがどんな人で、どういう関係だったかもわからないし、思い出さないし、知りたいと言う気持ちも、あるのかないのか、今はわからない。
だけど、今のレイが何とか生きていることは、そのことは、悪いことじゃないと思える。
だからみちるさんに、何かクリスマス・プレゼントを渡したい。
「みちるに?」
「はい。あの、はるかさんは、みちるさんの好きなものはわかりますか?」
「うーん、まぁ、みちるだったら、レイから何をもらっても、泣いて喜びそうだけど。とりあえず、少し見て回るか?レイがプレゼントしたいって思ったものを買えばいいし」
はるかさんはレイの手を取って、ウインクを飛ばした。


もちろんこの場所に来るなんてレイは初めてで、はるかも初めてだ。少しおどおどしながら、レイは人ごみの中をみちるのために、プレゼントを探している。ここまで回復するとは思わなかった。ずっとずっと、家の中を、よくてもあの別荘地周辺からは出る意思もないだろうと思っていた。そうしたいという意思は、この1か月ほどで作られた毎日の積み重ねのおかげだ。みちると毎日を繰り返して、みちるのためにと、自分以外のことを考える気持ちが芽生えてくれた。それはかつて、深く愛し合ったあの愛ではないけれど、それでも、今のレイにはみちるがいると言うことが、生きていくために重要だと言うことには違いない。
「……はるかさん、参考までにあの…はるかさんなら、何をプレゼントしますか?」
「僕?」
クリスマスが近づいてきているから、どのお店も、“プレゼントに!”なんてたくさんポップが飾られている。レイは立ち止まってそれを眺めたり手に取ったりしながらも、どうもしっくりきていないようだ。
「僕ならねぇ……うーん。恋人だったらアクセサリーとかランジェリーとか身に着けるものをあげるだろうけれど、そうじゃないなら、手袋とかマフラーとか、寒い時に使うものかな」
「あぁ、なるほど」
アロマや化粧品を見ていてもしっくりきていなかったレイは、はるかの答えに靄が晴れたような笑顔になった。
「そういうのが売ってるところは2階だ」
はるかは手を取って、エレベーターを目指した。
「はるかさんは、恋人にランジェリーを送るんですか?」
「……え?うーん。恋人ならね。きっと誰でも1度くらいは送るんじゃないの?」
みちるは、確かレイに送ったって聞いたことがある。その時にはるかがランジェリーなんてどう?って言ったからだ。
「はるかさんは、女性とお付き合いする人ですか?」
何ともストレートに、今更ながらというか、普通に疑問としてレイは聞いてきた。恋人にランジェリーを送るという言葉が不思議だったのだろうか。はるかもそこまで考えて話をしていなかった。
レイは、今のレイは、女であるはるかが女と付き合うと言うことをどう感じているのだろうか。
「………うん。ま、見た感じでしっくり来るだろ?」
「よくわからないですけれど、女の人からはモテそうですね」
「そういうことにしておこう」
だからと言って、レイはそのことについて不快感を示すようなこともないし、さらに言えばそこまではるかの恋愛に興味もないようだ。それ以上の話題にはならなかった。

インポートの服を扱う店に入り、レイはストールを選んだ。深い緑系のチェック柄。
「おじいちゃんからお金もらっていて、よかった」
レイは自分でお金を払い、プレゼント包装された紙袋を大事そうに抱えた。流石にはるかがお金を出すことは、レイも嫌に違いないだろう。
「よかったな」
「はい。ありがとうございます」
「帰ろうか」
エレベーターを降りて駐車場に向かっていると、胸元の携帯電話がバイブ音を鳴らしていた。
「あ、ごめん」
歩きながら確認すると、みちるからだ。
「もしもし?」
『はるか……レイが帰ってこないの。携帯電話を鳴らしても、出てくれなくて。いつも歩いているコースを回ったんだけど……どこにもいなくて…』
明らかに動揺しているみちるの声。レイは散歩に行くと言って出てきたらしく、あれから1時間半くらいは経過をしている。寒いこんな時期に外にいるかもしれないとなると、流石にみちるも心配で仕方がなかったようだ。
「安心して。僕が拉致してるだけだ」
『……レイといるの?』
「うん。デートしたいって、電話がかかってきたから。みちるに秘密でデートしてたんだ」
レイは相手がみちるだと分かったらしく、眉をひそめて気まずそうな顔で見上げてきた。プレゼントのことを言わないで、という無言のアピールだ。
『レイは?レイはちゃんといるの?』
「いるよ」
『………そう。よかったわ』
「怒りたいなら、変わろうか?」
『いえ。怒りたい気持ちはあるけれど、………レイのしたいようにさせるべきなのでしょうから』
「そうか?心配してたって伝えておく。もう帰るよ」
『えぇ。ちゃんと連れて帰ってきて』
相当心配したんだろう。きっと、走り回って、名前を叫んだりしたんだろう。でも、みちるはそう言ってレイを責めることもせずに、ぐっとこらえているようだった。
保護者でも恋人でも、親友でもない。
ただ、勝手にみちるが進んでレイのお世話をしているだけの関係。
だからみちるは、レイがどういう自由な行動を取ろうとも、それを責めることができない。
そう思っているに違いないし、それは間違いでもない。
「レイ、みちるが心配してた」
「怒ってました?」
「いや。あちこち、探し回ったみたいだ。電話鳴ってても、きっと聞こえなかったのかな」
レイは携帯電話を取り出して、ずらりと並んだ履歴にびっくりしていた。
「全然気が付きませんでした」
「そういうこともある」
車に乗り込んで、行くときに聴いたCDをリピートさせる。レイは少しバツの悪い顔のままだけれど、きっとクリスマスにレイがプレゼントを渡したら、笑い話になるよと伝えた。

過去を思い懐かしむということが、どれだけ生きていくうえで必要なことか、嫌というほど思い知らされる。




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Date:2015/02/14
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