【緋彩の瞳】 傷跡 22

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

傷跡 22

手にしていた携帯電話の不在着信を見てみた。聞き覚えのあるような無いような名前と、時々愛野美奈子や、天王はるかという名前。みちるさんの着信は記録されている間にはない。
未読のメールの中にもみちるさんの名前はない。そして、仲間という区分の中には、海王みちるという名前が1通も見当たらなかった。その他や、家族というところにも見当たらない。
とても仲が良かったと周りが言っていながらも、海王みちるという名前のメールが1通もない。意図的に消去したのだろう。
不在着信の履歴は、レイが初めて電源を入れたときに出てきた。だから、それまでは誰も触っていないだろうから、過去のレイが消してしまったと考えてもいい。


みちるさんとレイが何もそういう関係ではなかったという、絶対的な証拠が出てこない。彼氏がいたような痕跡も、男の人とのメールのやり取りも残っていなかった。




「レイさん、お友達がお見えですよ」
携帯電話を握りしめてじっと考えていると、お手伝いさんの声と、それからそっと襖を開く音がした。
「レイちゃん」
「…………こんにちは、美奈子さん」
「ごめんね、うちの猫たちが迷惑かけて」
「いえ。何日も一緒に寝ました。暖かかったです」
「こいつら、レイちゃんのこと大好きでさ。いつもいつも、帰るって言ってるのに泊まっていくって言って」
置いて帰ったのはみちるさんだけど、美奈子さんは部屋に入ろうとせずに、ルナとアルテミスの名前を呼んだ。レイに寄り添っていた二匹は鳴きもせずに美奈子さんに近づいて、両肩に乗ってしまう。
「猫でも、言うこと聞くのですね」
「まぁね。特別」
「お揃いの三日月ハゲ。カップルですか?」
「うん」
「そっか。お揃い、ですものね」
部屋の中から出てこなかったネックレス。振られた時に捨ててしまったのだろう。
メールをすべて消したように。カードを捨てられなかったのは、愛してるという言葉が書いてあったからなのだろうか。
「……………うん。お揃い、だよ」
何か言いたそうに、だけど美奈子さんは引きつった顔で笑っている。
「来月、東京を離れます。今まで、どうもありがとうございます」
おじいちゃんの言う通り、ちゃんとお礼を言わなければ。そう思って、レイは軽く頭を下げた。驚かれたりしないのは、みちるさんから聞いているからだろう。
「………うん。ずっと、ずっと、レイちゃんが幸せでいられるように、みんなで祈ってる」
もし、みちるさんとの間に何かがあったせいで、結果的にレイが仲間も含めた過去を失ったのだとしたら、すべてレイだけが悪い。
想ってくれている気持を拒絶して傷つけて、それでも仲間だと言ってくれる。
とても心の清らかな人たち。
「私のことは、忘れてしまってください」
「それは無理」
悩む仕草を見せずに、きらきらした瞳がじっとレイを見つめてくる。
「……でも、何も……私は」
「いいよ、そんなに辛い顔しないで。笑っていたらいいからさ」
あの沢山の写真の中の火野レイみたいに笑ってあげられたら、楽になれるのに。
おじいちゃんが言うみたいに、忘れちゃったって、笑えたら。

笑ってあげられたら。

「笑うって、難しいです」
「そうかな?そうなのかもね。考えたことなかったわ」

写真の中では、ずっと笑っていたはずなのに。
笑い方まで忘れてしまったなんて。

「嬉しいとか、楽しいとか、幸せだって思ったら、きっと笑えるよ。今はまだ、レイちゃんは辛いことが多いんだろうけれど、でもいつか、きっと笑えるような日は来るよ」
「そうだと…そうだといいですね」
「うん。だって私、レイちゃんの笑顔を知ってるもの。幸せそうな顔も知ってる。人を愛することができることも知ってる」

愛すること
火野レイは人を、誰かを愛していた

「…………火野レイは、いえ、私は誰を愛していたのですか?」


まったく聞いたことのないような名前の人だったらいいのに。

そう願いながらも

あの人だろうと想像しているこの想いは、一体何と呼べばいいのだろう。


「……何も、知りたくないんじゃないの?」
「…………そうですね。……知るべきじゃないことですね」
美奈子さんは小さなため息をついて、レイから視線を逃した。
「勘の鋭さは変わらないよね」
勘というよりは、みちるさんのあの言葉がなければ、たぶん疑うことさえしなかっただろうし、携帯電話や机の中や、アルバムを見ようともしなかっただろう。
だけど、それを説明できない。
「……誰をって言うなら、私たちを愛していたかな。私たちがレイちゃんを愛しているのと同じくらい、レイちゃんは、私たちを愛してた」
はぐらかされているのは、みちるさんを守りたいのだと言うのがよくわかる。この人がみちるさんを大切に想っていることも、今ならとてもよくわかる。
「………私……いえ……そうですか。みなさんのことを、ちゃんと愛していたんですね」
「うん。今だって、レイちゃんは私たちのことを愛してるって、私にはわかる。傷つけたくないって思ってるから、離れちゃうんだってことも」

知ってしまったって、きっと、何も変わらない。
今と何も変わらないに違いない。

レイは何を声に出せばいいのかわからなくなって、口を閉ざした。美奈子さんは、帰るねと言って襖を閉めて、足音を遠くへと響かせていってしまう。



人を愛した過去も
人に愛された過去も
何もわからないのなら

これから先、ずっと誰も愛せずに、誰からも愛されずに生きなければいけないのだろう。
そして、望むことすらできないだろう。



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Date:2015/02/20
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