【緋彩の瞳】 傷跡 25

緋彩の瞳

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ポイ捨て小説

傷跡 25

身体の震えで目が覚めた。
激しい頭痛と吐き気、めまい、いろんなものが身体を襲い、部屋に這うようにして戻ってきて、それからこの体制で倒れこんでいた。
酷く寒気を覚えて、腕を伸ばす。目を開けているのにあたりは暗い。夕方になる前に戻ってきたはずだけれど、すっかり夜になっている。止まらない腕の震えを摩り、テーブルに手をついて何とか立ち上がり、明かりをつけた。眩しさを瞬間に覚えて、それでもすぐに暖房を入れる。冷たすぎる身体のせいで、コートはまだ脱げそうにない。
時計を見上げると、10時を回っている。かなり長い時間倒れこんでいたようだ。こたつのスイッチを入れて、テーブルに置かれたままのアルバムを手に取った。

かじかみながら、ページを捲る。
1枚目に飛び込む満面の笑みたち。
昨日まで眺めていた気持ちとは違う、暖かい愛が心に染みこんでくる。
「………ごめん……みんな……」
うさぎの誕生日、亜美ちゃんの誕生日、美奈やせつなさんの誕生日、夏の旅行、スキー。バーベキュー。一枚一枚、名前も顔も、どんな声だったのかもすべて思い出せる。

なぜ、忘れていたのだろう


どうして、今になって思い出してしまったのだろう


海王みちるというヴァイオリニストの演奏さえ聴きに行かなければ
わからない、思い出せないままで東京からいなくなれたのに


「……馬鹿、レイ。あの人があんな風に演奏する姿を見て、何もかも思い出すなんて」
知りたくないって思っていたくせに
結局は、思い出したいって願っていたということだろう
忘れたままでここを去るなんて、してはいけないって


わかっていたのでしょう


「………明日まで待ってくれてもいいのに」

神様はとても無慈悲だ
今すぐにでも、会いたいと願ってしまう

愛する人に
愛していた人に

そして、ひどく傷つけていた仲間たちに

会って
ごめん、全部思い出したって


だけど、またみんな心配そうな顔をして
レイのために一生懸命になってくれるだろう

何も返してあげるものなどない

だから、このまま黙って東京を去っていくことが一番だと思えてくる

美奈は泣きながらも、記憶のないレイを受け入れていた
愛していると
ずっと、仲間だと

せめて、あの子にだけは

だけど


「………みちるさん」
思い出せない間ずっと、ずっと、みちるさんはレイの傍にいてくれた。あれだけ傷つけたレイだというのに、惜しみなく愛情をくれていた。愛してくれていた。みちるさんがレイを愛してくれなかったことなんて、一秒もなかったんだってずっと知っていた。
思い出してと願うこともせず、じっと、レイの傍にいた。
レイの傍にいられるのなら、記憶が戻ることなんて望んでいない。
きっとそう思いながら、お世話を、いや、愛してくれていたのだろう。
ずっと振り回すだけ振り回して、ここを去る。

みちるさんに別れを切り出したのは、確かにレイだった。
ヴァイオリニストの海王みちるを恋人として愛しきれない、信じることが不安で仕方なくて、別れを切り出した。

その結果、みちるさんは夏から今日までの間、ずっと人前で演奏をするということができなくなっていたのだ。


何もかも、レイのせい
レイが傍にいたから
レイが記憶を失ってしまったから



何もかもを忘れたいと、なかったことにしたいと
一瞬でも思ったに違いない

だから、神様は罰を与えたのだ


愛する人を心から消すという罰を

みちるさんを
美奈たちを
おじいちゃんを
ママやパパを
この街で出会った何もかもを



生暖かい風が、冷えた部屋を必死になって温めようとする。
それと同じように記憶が、強い風になってレイの身体に降り注いでくる。

不思議と優しい思い出ばかり。
別れた日の涙で胸が痛くなるよりも、みちるさんを愛していた幸せな時間が次々と映像になって身体に沁みてきて、すっかりなくなっていたはずの傷跡を優しくそっと撫でてくれる。
美奈やうさぎも、はるかさんも、みんなレイを愛してくれていた。
みちるさんを愛しているレイを、レイのことを愛してくれているみちるさんを、仲間たちはすべて受け入れて、愛してくれていた。

どうすることが一番いい方法なのだろう

だけど、レイの中ではすでに答えを出していたことだ

ここを、この街を離れるって



遅かれ早かれ、あの状況だったなら、いずれレイはみちるさんの名前を聞かなくても済む、遠いどこかに行っていただろう。仲間の優しさに応えようと必死になっていたけれど、それからも逃げだしたに違いない。

だから、記憶喪失はレイが選んだ罰なのだ。


そして、何もかもを思い出したのならば、これ以上みちるさんの感情を振り回すようなことをするべきではない。

きっと、今、みちるさんに想い出したことを告げてしまえば、レイは泣きながら、愛してるって、ごめんねって、そう言ってしまうだろう。その想いに嘘はないけれど、それでも傍にいられない。今更なかったことになんて、出来る訳もない。


愛してる
愛してた



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Date:2015/02/21
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