【緋彩の瞳】 傷跡 END

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

傷跡 END


「………レイ。レイ、ごめんね。ずっと、ずっとあなたをこんなにも苦しめて、……私……私のせいで…」
忘れたままでいてくれたらと願ったのは
想い出してしまったレイの涙を、見たくなかったからだ
そのエゴは結局、自分に返ってくる
この涙を受け入れることを拒否していたから

あの別れた夜、レイは涙を見せなかった
みちるがボロボロと泣き崩れて縋ったレイは、一粒の涙も見せずに去っていった

レイが独りで背負って、みちるが押し付けた別れが
ずっとレイを苦しめていた

「………私、行かなきゃ……」
「そうね」
みちるがレイを殺してしまわないように、レイはここから離れるべきだってわかっている。
「美奈たちのこと、お願い」
「………えぇ」

愛してる
その言葉がもたらす胸の痛みは、傷跡を剣の鞘で叩かれる思い

だけど
刺されるほどの痛みではない

「愛してるわ、レイ」

たとえその言葉が届かなくても
この触れた身体を通り抜けても
それでも、この想いは魂にこびりついて離れることなんてない

「私もよ。ずっと、……私、ずっと、みちるさんのことを愛してる。初めて会ったときから、好きだった。忘れてはいけない人なのに、忘れないと生きていけないくらい、愛していたの」


愛してる
愛してた

その言葉の違いは
永遠に溶けることも混じり合うこともない


「………レイ」
「だから、今は……今はここには、いられない」

みちると別れるときに、レイは涙を流さなかった
だから今度はみちるが、優しく送り出してあげなければならない

「いつか、戻ってくる?」
「ここは私の帰るべき場所だと思ってる。だけど、今は、今だけは……」
「そうね」
吐息が触れる距離で一度きつく抱きしめた後、両腕からレイを放した。
涙を流すとても美しい瞳で、じっとみちるを見つめてくれる。
「お仕事がんばって」


この瞳に見つめられる時間を深く愛していた


「約束するわ。もう、どんなことがあっても、レイを苦しめたりしないから。安心して」
涙で濡れた頬。愛しくて仕方がない。
「……向うの学校を卒業するつもりでいるの」
「そう」


「…………だから…………」


レイは唇を閉じて、その先にある言葉を飲み込んでいる。

「待ってるわ」

震える瞼が頷くように閉じられる
ずっと触れたかった唇
永遠に触れることができないと嘆いた唇
そのすぐそばにキスを落とした

「待ってるから」

レイはみちるの言葉に小さく頷いて、涙を手の甲で拭う。
ゆっくりと鳥居を潜りぬけて、振り返ることなく消えてゆく後姿。


「愛してるわ、レイ」

足音が遠ざかり聞こえなくなる。
押し寄せてくる涙が零れ落ちては、レイの残した滴に重なってゆく。せき止めなければならない理由は見当たらなくて、それでも、思っている以上に息苦しさを感じたりしなかった。
本当は昨日、思い出していたと言うのは、みちるの演奏を聴いたからだろうか。それを言わずにいたレイの優しさを、愛してくれているから隠し通そうとした気持ちを、みちるが受け入れなければ、レイの未来を奪うだけなのだから。

レイは必ず戻ってくる

その間にみちるがしなければならないことは、ヴァイオリンだけだ
レイを安心させられるように、みちるが、みちる自身のために生きて行かなければならない



“待っていて”

レイの瞳がそう告げていた
確かにそう、告げていた



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Date:2015/02/22
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