【緋彩の瞳】 名前を呼んで ①

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

名前を呼んで ①

「レイちゃん!」
お団子頭の子、うさぎが彼女をそう呼んで、腕に抱き付いてしがみついた。気配があるということを知っていたのか、背後からの軽い衝撃にも、驚きもしないで歩みを止めたりもしない。
「うさぎ、亜美ちゃんたちは?」
「置いてかれた」
「何したの?」
「別に、ちょっと、居残って先生に宿題忘れたのを怒られていただけ~」
「それは、“別に”じゃないでしょ」
小言を言いながらも、振りほどこうとしない。そのままあのゲームセンターに入っていく。はるかが今日の待ち合わせをこの場所に指定したのは、うさぎたちが来るからなのだろう。思いながらも、みちるは嫌だという感情を持っていなかった。


あの子もいるから。


「美奈P~!おまち」
「うさぎ!おっそい!はるかさんに一人で挑んでボロ負けしていたんだからね!」
うさぎとあの子が自動ドアの向こうに消えると、はるかのお気に入りだという美奈子の声がフロアに響いた。一度ドアが閉まったのを確認してから、みちるはお店に入る。同じタイミングで入れなかったというか、少し距離を開けていたかったというか。
あまり近づけないっていうか。
「美奈、今月に入ってまだ3日よ?お小遣いの使い方を少し考えた方がいいわ」
「何があるかわからない人生なんだから、ぱ~~って使えるときに使わないとね!」
「………馬鹿極まりない」
鞄でその赤いリボンを叩いて、ゲームにはさほど興味を見せないようす。
「ごきげんよう」
みちるはそっと声をかけた。その言葉に反応した5人の女の子たちとはるか。
「みちる、早かったね」
「そう?もう少しゲームを楽しむのなら、お邪魔はしないわ」
うさぎは今来たところだ。はるかとゲームを楽しむのはこれから。さりげなく、あの子に視線を向けてみる。とても神秘的な瞳。だけど何も捉えていない。今はまだ、神経が穏やかに眠っているよう。
「よし、おだんごもレースしようか!」
「うん!」
うさぎは美奈子を押しのけて、レーシングゲームに座った。
「亜美ちゃん、まこちゃん、上でお茶する?これ見てる?」
艶のある漆黒の髪をさらりと払って、つまらなさそうな態度。この場所に彼女は似合わない。
「上に行くわ」
「私はゲームを見てるよ」
亜美、まことはそれぞれに応えた。
「あ、みちるさんもよかったら」
みちるの存在に気が付いて、誘ってくれたのは彼女ではなくて亜美。みちるは是非と返事をして、彼女の後ろ姿をまた追いかけるのだ。



広めのコーナーにあるテーブルに通してもらうと、レイは一番奥に座り、亜美ちゃんはその横に座る。みちるさんはレイの斜め前に腰を下ろして、高そうなヴァイオリンをソファに置いた。
それにしても、こんな美人がこの街をウロウロしていても大丈夫なのだろうか。宇奈月ちゃんには申し訳ないけれど、もう少し高い喫茶店の方が似合うだろうし、ゲーセンなんて、立ち入るべきではない。あの天王はるかさんも、自分のお連れ様が似合うべき場所を考えるべきだ。パートナーではないらしいけれど。
「カフェラテ」
「私、ダージリン」
「じゃぁ、私もダージリンにするわ」
亜美ちゃんは、割といろんなメニューを試している。レイは紅茶系が多い。みちるさんは考えるのが面倒なのか、レイと同じにした。亜美ちゃんと2人の時は、特に会話しなくても何とも思わない。隣で本を読み始めることが多いから、レイも同じように本を広げてみたり、じっと腕を組んでうつむいて寝てしまっていたりすることがほとんど。
会話が弾む2人ではない。それに困る関係でもない。
みちるさんをほったらかしていてもいいのだろうか。
とはいえ、話題なんて思いつかない。
「ねぇ、今度の土曜日なんだけど」
「ん?」
「金曜日の夜からママが夜勤なの。お休みの邪魔をしたくないから、一日、そっちにいてもいいかしら?」
亜美ちゃんはカフェラテを一口飲んだ後、タイミングを見計らっていた様子で話題を出してきた。
「あぁ。うん、いいわよ」
「夜は?」
「今のところ、何もないわ。泊まりたければどうぞ」
今日は火曜日。念のためにレイは手帳を取り出して、予定を確認してみた。土曜日は真っ白。亜美ちゃんは、きっとレイの勉強机で真面目に受験勉強をするだろうから、レイは誰かと外で遊ぶか、神社のお手伝いをするか。買い物に行ってもいい。
「あの……予定、ないの?」
「え?」
「あ、ごめんなさい、見えちゃったから」
みちるさんは鞄から何かの封筒を取り出してきた。
「興味がないのなら、無理にとは言わないけれど。もらったの」
封筒の中から出てきたのは、ある絵画展の入場チケット。
「……でも、私、良し悪しがわかるような才能が」
好きか嫌いかと言うか、そういうのに疎いというか。一応すごく有名な画家がどんな絵を描いているかっていうのはわかる。でも、残念ながらその程度。亜美ちゃんみたいに詳しくなんてない。
「はるかも同じ理由で逃げたわ。土曜日までだから、私も1人で行くのは嫌じゃないんだけど、誰か貰ってくれるならって思っただけよ」
みちるさんは涼しそうに笑って見せる。数秒考えて、レイは封筒を鞄に戻そうとするその腕をつかんだ。
「じゃぁ、みちるさん、連れて行って」
「え?……えぇ、喜んで」
「携帯電話、番号を教えてもらってもいいかしら?」
レイは携帯電話を取り出して、亜美ちゃんに渡した。
「え?亜美なの?」
不思議そうに瞬きをしている顔には、何が何だかよくわかりませんと張り付いている。
「レイちゃん、携帯電話はメールと電話をする以外の使い方を覚える気がないの」
メカ音痴とはっきり言わないのは、優しさだと思うことにしている。
「だから、人の情報を入れてもらったりするのは、誰かにしてもらってるのよ」
威張ることじゃないけれど、レイは人に見られて困るような内容のメールも番号もない。だから、何かあるたびに、誰かに携帯電話を丸投げしている。読みたければメールを読んでもらってもいいけれど、誰も何の得にもならない。
「えっと、じゃぁ、これ」
みちるさんは画面を亜美ちゃんに見せて、亜美ちゃんはレイの携帯電話を自分のもののようにいじっている。
「みちるさんは朝から出られる?」
「えぇ」
「じゃぁ、10時に待ち合わせにしましょう」
とりあえず、勝手にレイが最寄りの駅前を指定して、時間とその場所を手帳に書き入れた。
土曜日の朝からの予定が埋まったので、取りあえずこれでよし。いい天気になればいい。



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Date:2015/02/25
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