【緋彩の瞳】 tender ③ 

緋彩の瞳

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ポイ捨て小説

tender ③ 


「ごきげんよう」
放課後、亜美がクラウン・パーラーで1人本を読みながらお茶をしていると、ヴァイオリンケースを手にしたみちるさんがお店に入って来た。ここで会うということは、そう頻繁ではない。
「こんにちは、みちるさん」
「美奈子は?」
「さぁ?」
美奈子ちゃんと待ち合わせなのだろうか。わざわざ亜美がいる可能性の高い場所を選ぶなんて思えないけれど。だけど、みちるさんはいないことの方が好都合という表情になった。
「そう。その方がいいわ、ここで待ち合わせしているのかしら?」
「いえ、まぁ、来る可能性はあるけれど」
「とりあえず、その間でいいわ」
みちるさんはま前の席に腰を下ろし、宇奈月ちゃんにアイスティをと頼んだ。
「誰かから、何かしら情報は入っているかしら?」
「……美奈子ちゃんのことで?」
「えぇ」
「まぁ、それとなく。間接的に」
レイちゃんから聞いた。あれはもう2週間くらい前のことだ。
何か進展でもあったのかもしれない。
「断ることにしているわ」
「あ、…そうなの?みちるさんの気持ちならば、仕方ないわね」
「理由は2つあるけれど、私が美奈子を恋愛の対象として見られないから、よ」
そんなこと、本人に言えばいいのに。思いながらも、亜美は適当に肩をすくめて見せるしかなかった。かつては共にマーズに忠誠を誓った仲間。もちろん、今もあえてそのことについて語り合うことはそれほどないが、彼女がレイちゃんのことを深く尊敬し、支えようとしていることはわかる。みちるさんがレイちゃんと美奈子ちゃんの情事のことを知っているということは考えられない。現場を見てしまえば、きっと悲しむだろう。
「そう。美奈子ちゃんは明るくて魅力的だけど、みちるさんのタイプじゃないということね」
「結局、レイの存在よ」
みちるさんは、レイちゃんがいるせいで美奈子ちゃんと付き合えないと言いたいのではない。
レイちゃんの方が大事だというのだろう。
「……そう。だとしたら、うまく美奈子ちゃんを振った方がいいわ」
「あなたが言うのだから、そうでしょうね。レイのため、でしょう?」
「……えぇ。でもレイちゃんがそれをどう受け止めるのかはわからないけれど」
レイちゃんは、美奈子ちゃんが悲しむ顔など見たくはないと思うだろう。
場合によっては、みちるさんに美奈子ちゃんと付き合ってあげてと言いかねない。その可能性は決して低くはない。
「レイの美奈子に対する愛は、儚すぎるわ。望まないで、ただひっそりと与えるだけ。そのことにも気づかれず、微笑まれることもなく。あの頃から何一つ変わらないし、変えようともしない。ずっと孤独の中から愛を流している限り、レイに幸せが訪れることはないというのに」
「だって、レイちゃんは望んでいないんだもの」
愛されるということを、その方法を選ばなかった。知らなかったのかもしれない。あるいは恐れたのかもしれない。
「私たちのお姫様が心から微笑む姿を永遠に見られることがないなんて、不幸なことだわ」
私たちのお姫様は、現状を不幸だと思っていないだろう。だから、そばにいる私たちも不幸ではない。だけど、何も言えなかった。不幸ではないが、もっと幸せだと思ってもらえる世界というのは、確かに存在しているのではないか。
「……私は何も言えないわ」
「いいわ、別に亜美の助言を後ろ盾にしたかったわけじゃないから」
美奈子ちゃんの悲しむ顔だって、別に亜美は望んではいない。
友達としては大切だという想いはある。
レイちゃんが憎まれる道を選ばなければ、こんな風にならなかったのに。
そんなことを考えて、思わずため息をつく。
彼女は憎まれる道しか選べなかった。
そして、永遠の想いを手に入れることを望んだ。

憎しみは、愛よりも深い

愛なんて、いつでも何にでも形を変えて簡単に消える


彼女はそう言った。
あらゆる人間からの憎悪という杭を打ち込まれ、戦い続けた彼女の言葉に、何も言い返せなかった。




『みちるさん、敵が現れたわ』
左耳のピアスに内蔵された通信機から、美奈子の高い声が聞こえてきた。そろそろ店を出ようかとしていたところ、動作が一瞬にして止まり亜美と目が合う。だが、亜美は不思議そうに首をかしげてこちらを見返してきた。同時発信ではないようだ。
「美奈子、敵なの?」
みちるは亜美に伝えるために、聞きなおした。亜美が眉をひそめて“なぜ”という顔をしてポケコンを操作し始めている。
『場所は東京タワー付近よ。みちるさん、今1人?』
「いえ、亜美といるわ」
『レイちゃんは?』
「いないけど?」
『……そう。じゃぁ、2人で来てくれる?』
「すぐに行くわ。レイたちへの連絡は?」
『こっちからするから』
このやり取り、亜美は盗聴している。
「レイちゃんには伝えるつもりはないみたいね」
顎に指をあて窓の外に視線を逃がしてそう言われても、なぜそうなるのかがみちるにはわからない。
「まさか」
「行けば分かると思うわ」
「レイがいなければ、苦戦という言葉だけで済まない場合もあるのよ?美奈子は一応リーダーなのでしょう?」
お金を払い、2人で店を後にして適当な場所で変身し、ネプチューンはレイに連絡を取ってみた。
『敵?』
「美奈子からは何も聞いていないの?」
『知らないわ』
「東京タワー付近みたい。今はどこにいて?」
『神社にいるわ』
「来られる?」
『………亜美とあなた、美奈。たぶんウラヌスたちも行っているのでしょう?少し考えるわ』
どうしたのだろう。レイはどんな小さな敵でも、必ず最前線に立つ性格なのに。レイの手を煩わせる必要などない敵であろうとも、相手を焼き尽くす。罪を1人で背負うことを好んでいるようにさえ思えるくらいなのに。
「レイちゃんに任せるわ。こちらからの情報は常に流すから」
亜美が会話に割って、目でこれ以上は無駄だと伝えてきた。誰かに何かこのことで文句を言う理由も今はない。
「事情、今は聞けないのね?」
「………大した敵じゃないことを、祈りましょう」
美奈子を責めることも、レイを責めることもできない理由がある。理由を話してくれる人間はきっといないだろう。神経を痛めるような憎悪に身体を包まれた敵の姿をとらえた時、心の中でマーズの名前を叫んだ。


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Date:2013/11/30
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