【緋彩の瞳】 名前を呼んで ③

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

名前を呼んで ③

「………」
みちるさんは、とても熱心に絵を観ている。レイは暇つぶしになればって思ってみたけれど、あぁ、綺麗な絵。っていう感想以外に思いつくことも、心揺さぶるようなことも、まったくもって生まれそうになかった。
亜美ちゃんは朝から、勝手な行動をしないこと、興味なくても、みちるさんと歩幅を合わせることをきつく念を押してきたし、美奈からも、変なナンパに合わないようにとか、迷子になるなとか電話がかかってくるし、うさぎからはお土産を買ってこいって、観光地でもないのに言われるし、まこちゃんからも、絵画展が催されている会場の傍にある何とかっていうケーキ屋で売ってる有名なタルトを買って帰るようになんて言われてしまっている。
もはや、絵を観に行くことが目的になっていないような気がしてならない。
隣で熱心に絵に釘づけになっているみちるさんがいなければ、レイ1人ならタダでも入らなかったに違いない。
ちらっと絵を観ては、みちるさんを観察する。絵に興味がある人が、どんな風に絵を鑑賞するのか、そっちに興味を逸らせてみることにした。
さっさと出口まで行って、出てくるのを待っていようかと思ってもみたけれど、亜美ちゃんとの約束もあるのだから仕方がない。
それにしても、綺麗な横顔。ほとんど制服姿の時にしか顔を合わせていないから、こんな風に綺麗に髪をまとめて、可愛いピアスをつけて、高そうなスプリングコートを羽織って、このままファッション雑誌の表紙を飾れそう、って思ってしまう。
「どうかして?」
「ん?……ううん」
「お気に召さない?」
「………まさか」
小さな声で確認されて、レイは“はい”と言う言葉を飲み込んで首を振った。
鬼のような亜美ちゃんの顔が左上に見えた気がしたから。
みちるさんはそのやり取りのあと、心なしか1枚1枚にかける時間を短縮しているように思えた。気を遣わないで、って言おうかと思いながらも、まぁ、いいかなって思って、その歩みの速さに合わせた。


「はぁ」
出口に辿り着くと、隣からため息が漏れた。みちるも思わずため息を漏らした。たぶん、この子の溜息の理由とは違う。
みちるが絵を観ている間、なぜかみちるを観察しているような視線がずっと注がれていた。5秒くらいしか絵を観ていないようだったから、それならそれで、先に進んでくれてもよかったけれど、その余った時間を、どうやらみちる観察に充てていたようだった。
「大丈夫?」
「なんていうか、私にはセンスはないわ。きれいな絵って思うけれど、それ以上何も思い浮かばないんだもの」
素直なコメント。誘ったみちるに気を遣っているのだろう。
「何か、美味しいものでも食べに行く?」
「そうね」
少し広い通りを歩こうと、先に一歩進む。このあたりに美味しいレストランなんてあったかしら、って思いながら。
「………ねぇ、イタリアンとかフレンチ、ご希望は……?」
すぐ斜め横くらいについてきていると思って、右後ろを振り返ると

誰もいない。

「え?嘘……」
5秒くらいしか経ってないのに、どこへ行ってしまったのだろう。
「まさか、これが亜美の言ってたこと……」
みちるは周囲を見渡して、気が付いたら、1人で踊るように1周していた。姿が見えないけれど、みちるの前を先に進んだとは考えにくい。と言うことは、建物の中に戻ったのかもしれない。
探しに行こうとしてみたけれど、動かないでいようと思った。
5分じっとしてから、考えようと。
「……名前を呼べばいいっていう話よね、これって」
近くにいるとするならば、少し声を張り上げて名前を呼べばいいのに。

結局、どうやって呼べばいいのかの結論を出していなかった。

「レイ…レイさん……レイちゃん…」
1人ぶつぶつとシミュレーションしていると、手に紙袋を持った彼女が絵画展のあった建物から出てくるのが見えた。
「何してたの?」
「え?うさぎにお土産買ってこいって言われていたから、適当にポストカードを買っておいたの。どうせ、うさぎも絵の良さなんてわからないけど、一応、こういうものを観たってわかるし」
「………そう」
亜美に見張っておくわ、なんて言っておきながら、見張っていなかった方が悪いということなのだろう。腹を立てる理由が見つからなかった。
「ランチは?」
「行くわ」
みちるは歩き出すその少し後ろに位置を変えた。次に彼女が何か思い立って進路を変えても、ついて行けるように。
「………あ、ごめん。出てもいい?」
「どうぞ」
鞄の中か、携帯電話が鳴った。彼女は立ち止まって携帯電話を取り出して画面を見ている。
「何よ?」
歩きながら、少々不機嫌な声。
相手は誰かしら。
「大丈夫よ、ちゃんと鑑賞したわよ。よくわからなかったけど」
やっぱり、よくわかっていなかったみたい。だから、暇つぶしのようにみちるに視線を流していたのだろう。先に進みたいんですけれど、っていうアピールだったようだ。
「いや、食べて帰るけど?うん、別になんでも。買うってば。わかってる」
相手はあの4人の中の誰からしい。何かお小言を言われているのか、しかめっ面をしている。
「はいはい。っていうか、邪魔しないで」
通話が終わると、不機嫌そうに眉をひそめた。
「亜美?」
「と、その仲間たち。全員が次から次に会話に参加するんだもの。何なのよ、あれ」
心配されているというか、愛されているというか。
「みんな、あなたのことが好きなのね」
「邪魔して楽しんでいるように思うわ。もう、電源を落としておくから」
それをされると、本当に迷子になられた時に困る。って言おうとしたけれど、絶対に見失ったりしないでおこうと、固く決意した。


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Date:2015/02/27
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