【緋彩の瞳】 名前を呼んで ④

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

名前を呼んで ④

おしゃれなカフェに入って、みちるさんと同じサンドウィッチのランチセットを頼んだ。
「ねぇ、みちるさんは、お休みの日はいつも何をしているの?やっぱり画集を沢山持っていて、眺めたりするの?」
「画集は持っているけれど、時々眺めるくらいよ。お休みの日はヴァイオリンのレッスンをして、あとは買い物に行ったり、泳ぎに行ったり」
「そっか。泳げるんだ。そういえば、亜美ちゃんがプールで会ったって言ってたわ」
「えぇ。えっと、休日は、いつもあの子たちと遊んでいるの?」
サンドウィッチを食べながら、彼女は小さく頷いている。唇についているソースを指先で拭う様子が、何だか可愛らしい。
「……なんていうか、押し掛けてくるの。誰かが必ず」
「わかるわ」
「え?わかるの?」
「みんな、あなたのことを放っておけないのね」
独占欲というのとはちょっと違うのかも知れないけれど、気になって気になって、仕方がないのだろう。当の本人は、1人でいても平気っていう感じだけど。
構いたくて仕方がない、そんな気持ちにさせる。
「放っておいてもらっても、全然構わないのに」
「みんな、好きなのよ」
「………さぁね。暇なんでしょ」
好きっていう言葉に、小さくうつむいて照れくさそうに反応をするから。
そういうところがみんなを虜にさせてしまっているのだ。
もちろん、みちるも。
「趣味は?」
「うーん。これといって何かが好きって言うのはないかしら。暇つぶしに本を読むことはあるけれど、趣味って言うほどでもないわ」
「スポーツは?」
「全然。観るのも興味ないわね」
亜美は泳ぐのが好きらしいし、たしか、美奈子はバレーボールが得意だと言っていた。まことは運動神経もよさそうに見えるし、あと料理が好きだったはず。
「運動が苦手っていうことでもないでしょう?」
「長距離走と水泳はしないわね」
サラダの中にある、細く切られた白いアスパラガスを丁寧にフォークでよけるから、みちるはその束ねられたアスパラガスをフォークとナイフで回収した。
「つまり、アスパラガスとマラソンと水泳が苦手、ということね?」
「……みちるさんは?」
アスパラガスなんて、美味しいとか美味しくないなんていうことを考えるほどのものじゃない。なんて思いながら口の中に入れると、まずいって言いたそうな顔をされた。
「そうね……キクラゲはあんまり」
「キノコ類じゃなくて?」
「えぇ。形と色がどうしても」
だから、中華料理を外に食べに行くと言うことは、自分からはしない。絶対に入っていないような洋食系を選ぶのだ。
「何でも食べそうなお嬢様なのに」
「別にお嬢様でもないわよ」
目の前の彼女はお嬢様らしいけれど。TA女学院なんて、庶民が行くような学校ではない。
「海王って、だって、あの海王でしょう?ホテルを経営したり、ビル建てたり」
その辺によくある名字じゃないから、流石にレイでも海王という名字はホテルをイメージさせてしまうらしい。みちるは肩をすくめて小さく笑った。
「残念ながら、お嬢様とは言えないわ」
「そう?じゃぁ、お姫様の方がいいかしら?」
それはそっちでしょ。仲間から愛されて見守られていて、心配されて。
「お姫様も違うわよ。どっちかっていうと、守られるよりは守りたい性格なの。人に世話を焼かれなくても、自立できているし」
「……へぇ」
意外、って言いたそうなため息を吐かれても。どういうイメージを持っていたというのかしら。だけど、みちるも言葉にしてみて、いつから自分は守りたい性格になったのかしらって、自分に突っ込みたくなった。きっと、目の前の彼女がそう言わせているに違いない。
「はるかさんも守るタイプに見えるわ」
「あぁ、あの人はそうね」
「恋人?」
「まさか。よく聞かれるけれど、何もないの」
「ふーん、はるかさんも否定していたみたいね。美奈が言ってた」
そう言う目で、はるかを見たことがない。だけど、周りはそういう目で見ることが多いし、イチイチ否定して回ることも、最近は面倒だと感じている。だけど、彼女にはちゃんと伝えておかなければならない。
「あなたは?誰かいるの?」
「え?」
「いないの?」
「恋愛はあんまり」
「あんまり?」
「うん、そう。あんまり……必要ないかな、って」
そんな言葉を聞いて、誰も好きな人がいないことにホッとしているこの気持ちは何?
あと、必要ないっていう言葉に落ち込んでいるこの気持ちも何?
「しないよりは、した方が楽しいわよ」
「みちるさんは、どんな人と付き合ってるの?」
サンドウィッチのお皿が下げられて、温かいコーヒーが運ばれた。たっぷりのミルクを入れてかき混ぜながら、みちるに恋人がいる前提の話を振られても困る。
「いないわ」
「……いないの?モテるでしょ?」
それはそっち。モテることと恋人がいることがイコールじゃないって、一番わかっているはずなのに。
「残念ながら、まったくよ」
女子高だったし、今の学校は勉強しか興味のない人ばかりだし。言うほど残念でもない。
「理想が高すぎるとか?」
「理想ってあんまりないの。そうね、あえて言うならお世話を焼かせてくれる人がいいわね」
そんなこと、みちるも初めて知ったけれど。
別に世話好きだなんて、自分を評価した覚えはない。でも、なぜかそう口にしてしまった。目の前の彼女を意識してしまっているせいだ。この子の周りには世話焼きが多いから。
だから、きっと彼女自身もそういう相手が嫌いというわけじゃないんだと思う。
「変な趣味。ダメ男が寄ってくるわよ?」
「………かも知れないわね」
女に頼るような男になんて、一切興味ない。
今、みちるが興味を注いでいるのは1人だけ。
「あなたは……理想はないの?」
「え?」
「私にばかり言わせて。そういうあなたは?」
凛々しい男が好きとか、スポーツカーを乗り回す男とか、筋肉質な男とか。
言われたら、どう反応すればいいのか困る。
「理想……理想……。朝、起こしてくれてご飯作ってくれる人。お弁当を用意していたら、なおいいわね。なんだったら、送り迎えもしてくれたら」
これは、関西風にいうところの“ボケ”であって、みちるは突っ込みを入れた方がいいのかしら。とてもそういう冗談を言う子には見えないけれど、みちるを笑わせたいとか、そういうことを考えているのかも知れないし。
「えっと……それは、お母さんでしょ?」
「そう?言われてみればそうかしら?うーん、私、ママがいないから。理想の相手と理想の生活が混同してしまったわね。理想の相手って難しいわ」
どうやら、本気だったみたい。この子に母親がいないと言うことも今知ったけれど、みちるはもう一度聞き返すことはしなかった。悪いと言う気持ちもあるけれど、特にそのことを寂しいとか不幸だと伝えたかったわけじゃないだろうから。
「火川神社に住んでいるんだったわね」
「えぇ」
「亜美は今日、お泊り?」
「昨日の夜から来てるわ。今日も泊まると思う。うさぎたちもいるみたい」
「そう」
誰もいなければ、ご飯でも作ってなんて勝手なことを想像していた。
許可なんてもらってもいないのに。
「みちるさん、夜、うちにこない?みんなでご飯を食べるから」
「いいの?」
「1人増えても、大したことじゃないわ」
「……そう」
2人きりで夕食なんて無理なんだろうけれど、今2人でランチをとっているだけよしとしないと。


……なんで、こんなことを考えているのかしら、なんて。
興味どころじゃないレベルになっちゃっているからに決まってる。



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Date:2015/02/28
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