【緋彩の瞳】 名前を呼んで ⑤

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

名前を呼んで ⑤

レイはお会計を2人分しようとしたけれど、絶対に嫌だとごねられた。誘ったのはこっちだからなんてみちるさんは言うけれど、入場チケットをもらったのに、お返ししないわけにもいかないでしょって。こっちは年上なんだから、甘えなさいと言われ、結局レイは折れた。せめて割り勘って思ったけど、認めてくれそうにない。1か月しか違わないのに、自分で稼いでいる人と、お小遣いをもらっているレイなのだから、結局それを盾にされた。
「あっ」
お会計をしているみちるさんをお店の外で待っていると、まこちゃんに言われたケーキを思い出した。そういえば、場所はどこだっただろうか。あの展覧会の場所の近くだって言っていたけれど。あそこからは歩いて10分ほど離れてしまっていた。
確か、買ってこいと言われてメンドクサイって拒否したら、まこちゃんが朝から電話予約を入れていた。だから、行かなければ怒られるだけじゃ済まないはず。それだけは忘れないようにしないと。
16時くらいにはお店に行かないと、なんて考えながら歩いていると、誰かがレイの腕をつかんだ。
「ちょっと、どこへ行くつもりなの?」
「えっと、散歩?」
振り返ると、むすっとした顔でみちるさんが立っている。腕をつかんだ犯人。
「私を忘れていたわね?」
「………ごちそうさま」
一瞬、忘れていた。言えないから、笑って見せた。通りの向こう側に綺麗なインポートの服がショーウィンドーに飾られているのがわかっていて、そっちに足が向いていたのだ。
「迷子になったら、亜美に怒られるんでしょう?」
「そうだけど、家に帰れなくなるほどじゃないもの」
「あなた、デートでもそのスタンスなの?」
「………デート、したことない」
「してるでしょう、今」

してたの、今?

「映画観るのがデートじゃないの?」
「………映画を、“絵画”に変えてごらんなさい?」

絵画を観て、ランチを取って、ブラブラと歩いて、ケーキを買って家に一緒に帰る。

「あぁ、なるほどね………え?デート?」
言われてみれば、これはデートかも知れない。
指摘されなければ、意識しなかったけれど。
意識してしまうと、何だか今更ながらにこんな美人とデート?!って思えてきた。
「……そのつもりはなかったみたいね」
何か、がっかりされてしまった。
「ごめんなさい。えっと、じゃぁ……」
腕を組んで歩くのもおかしい気がする。
「………あなたが勝手に迷子にならないように」
みちるさんは掴んでいた腕を離して、手のひらを見せてきた。これは、手を繋ぐという意思表示だと思う。
「……はーい」
握りしめた手は柔らかくて暖かくて、何て言うか、恥ずかしくなってきて引っ張って歩いた。
放せないし、放してくれそうにもないし。だけど、不思議と不快な気持ちにならない。
人と歩幅を合わせることって、メンドクサイことだって思っていたのに。
特に行先を示そうとしてこないから、レイは好き勝手自分の興味が注がれるところで立ち止まり、許可なんて取らずにお店の中に入り、タイミングよく手を放したり、繋ぎなおしたり、そういうことを繰り返した。
気に入ったピアスを買おうとすると、買ってあげるなんて言われて、断るのもメンドクサイから、“じゃぁ、買って”っておねだりすることにした。みちるさんが世話好きというのは、どうやら本当みたい。レイの周りには世話好きって言う人がやたら多いんだから。
「……あ、ケーキ!」
世話好きつながりで、まこちゃんを思い出した。そして、ケーキも。
「え?ケーキが食べたいの?」
時計は17時に近づいてきている。ちょうど、みちるさんがお財布をしまうのに手を放したので、レイはお店の外に出て先に歩き始めた。
「ちょっと、待って」
声が聞こえたけれど、すぐに追いかけてくるだろうし。17時くらいになると、お店が閉まるって言われたような、言われていないような。何時だったかしら。


せっかく、ドキドキしながら手を繋いでデートしていたのに。
ケーキと叫んで、いきなりお店を出て早歩きをし始めるから、みちるはカードのサインを適当にして、慌てて追いかけた。
「ちょっと、待って」
黒髪の背中を追いかけながら、信号に引っかかってしまう。彼女は点滅をしているのに走って渡ってしまった。どうしても、何か行くところがあるのかしら。
「レ……」

結局、彼女を何と呼べばいいの?
大声で名前を呼ぼうとした。

でも、何と呼べばいいのかわからなかった。



視界から消えた彼女を信号が変わって追いかけても、たぶんそこになんていない。みちるはさっきまでの楽しさから一転、結局は全然気にされていなかったことに、ものすごく落ち込んだ。携帯電話で火野レイを検索して掛けてみても、目の前で切っていたのはそのままで、繋がらない。あの時、亜美の携帯電話の番号も教えてもらっていてよかった。
「……亜美、逃げられたわ」
『え?逃げたの?』
「ケーキって叫んで、急にいなくなったの」
『ケーキ?…あぁ、ケーキ。まこちゃんが買ってくるようにって言っていたからだわ』
ちょっと待って、と言って声の主が変わった。
『みちるさん』
「まこと?」
『うん、えっとね、たぶん、この時間だから、お店閉まるかもしれないから、レイちゃんは走っていったんじゃないかな?』
確かに何か慌てていたような気がするけれど、お店ってケーキを買うつもりなのかしら。
「何のこと?お店?」
『マダム・ジュンコのすごくおいしいタルト。電話で予約してるから、取りに行くように言ってたんだ』
そのお店なら、確かこの道をまっすぐ行った突き当りを右。絵画を見た建物のすぐそばにある。
「……そこにいるのね?」
『きっとね。いなければ、放っておいたら?どうせ、そろそろ神社に帰ってくるだろうし』
そう言うわけにはいかない。これはデートなのだから。
みちるがデートだと言って、あの子はそれを認識しておきながら、みちるに断りを入れずに勝手に行ってしまったのだ。
「あなたたち、普段からどういう教育をしているの?」
ずっと、みちるを引っ張ってあちこち歩いていた。振り返ることもせず。気に留めることもせず。嫌ではなかった。楽しそうな顔をしていたので、見ていて嬉しいと言う気持ちはあった。
『伸び伸びと育てているつもりだけどな~。レイちゃんをコントロールできる人なんて、いないよ』
「……私が教育をし直すわ」
『うーん、じゃぁ、よろしくね』
無理と言わんばかりに、笑っている。みちるは有名なケーキ屋さんに早歩きで向かった。
ガラスの向こうでは、幸せそうな顔をしてケーキの箱を受け取っている美人がいる。



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Date:2015/03/01
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