【緋彩の瞳】 名前を呼んで ⑥

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

名前を呼んで ⑥

「レイ!!!」


無意識にそう呼んでいた。
お店を出てきたレイは、悪戯がバレた子供のように身体を小さく震わせて、それからみちるにどうしたの?と言いたげに首をかしげてみせてくる。
「勝手にウロウロするのは、およしなさい」
「……まこちゃんに頼まれたんだもの」
「デート中に相手に置いて行かれる、私の身にもなって」
「………だって」
「だって、じゃないでしょ?一言、言えば済むことだわ」
「……ごめんなさい」
シュンとして、それがまた、想像以上に幼くて可愛らしくて。

抱きしめたくなった。

「もう、しない?」
「もう、しません」
手を差し出してきた。みちるはその手をきつく握りしめる。絶対に放したくないって思いながら。
「帰りましょうか、レイ」
「……私の名前、やっと呼んだ。あなた、って言われるよりはずっといいわ」

みちるを怒らせなければ、きっとずっと、名前を呼べずにいたに違いない。
瞬間に呼び捨ててしまったのだから、仕方がないけれど、亜美たちと呼び方が変わらないのだから、これでいいと思う。
「レイ、次に許可なくどこかに行っちゃうようなことがあったら、お尻叩くわよ」
「……これ以上、小言を言われる人が増えるのは困るんだけど」
「あの子たちは、全然レイを教育していないわ」
レイから特大のため息が漏れた。ずっとレイ主導で歩いていたけれど、みちるがレイを引っ張って、タクシーを捕まえて、火川神社に連行することになった。



「ぎゃ~!みちるさんが、レイちゃんと手を繋いでる!」
神社に戻ると、玄関先に現れた美奈が指をさしてきた。
「……もう、放してもいい?ここ、私の家だし」
「そうね」
タクシーを降りても、レイはみちるさんと手を繋いでいたらしい。いつの間に繋いだのか覚えていないけれど、無意識だった。
「美奈、冷蔵庫に入れておいて」
「買えたんだ」
「だって、買わずに帰ったらまこちゃんに怒られるでしょ?」
靴を脱いで玄関を上がると、亜美ちゃんとうさぎも廊下の向こうからやってくる。
「レイちゃん、お帰り」
「デート楽しかった?」
「まぁね。あ、みちるさんも夕食誘ってるから」
うさぎにお土産の紙袋を渡して、亜美ちゃんに持っていた鞄とスプリングコートを脱いで渡した。
「今日は、ローストビーフがメインなんですって」
「そう。あ、先にお風呂入っても大丈夫?」
「えぇ。言うだろうと思って、美奈子ちゃんが用意していたわ」
「ん、ありがと」




召使のように、亜美もうさぎもレイの両サイドから至れり尽くせり。
「……お姫様ね、レイ」
部屋に向かう後姿を追いかけながら、思わずつぶやいた。
「みちるさん、デートで見失ったんだって?」
美奈子がニヤニヤしている。
「2度見失ったわ。1度目はすぐに戻ってきてくれたけれど、ケーキを買いに行かれた時は、流石に困ったわよ」
「ふーん、それで、おテテ繋いで帰ってきたわけだ」
「えぇ」
ごめんなさいってシュンとして、それが凄くかわいかったことは秘密。
「一緒にお風呂なんて、入らないでね」
「入らないわよ」
「私が一緒に入るんだから」
「………」
「今、ムッとした?ムッとしたでしょ?」
「別に」
「………ふーん。手を繋いでデートしたくらいで、好きにならないでよ。私たちのものなんだから。私なんて、一緒にお風呂入る間柄なんだからね」
部屋に案内されると、着替えを手にしているレイと視線が合った。
「みちるさん、もうすぐ夕食ができるから。亜美ちゃんたちと待ってて。先にお風呂に入ってくる」
「えぇ。まことが作っているの?手伝うことはない?」
「ないと思う。彼女に任せておいたらいいわ」
「わかったわ」
美奈子は本当にレイと一緒に入るつもりなのか、自分の鞄らしきものから、着替えを取り出している。
「レイちゃん、入ろう」
「はいはい」
今度は、ここに泊まりに来るつもりで準備をしてこよう。みちるはそう決意した。
どうやら全員泊まり込むつもりで、旅行鞄が縦列駐車されている。
「………みちるさん、レイちゃんに惚れたりなんて、してないわよね?」
「さぁ、どうかしら?」
レイと美奈子がいなくなって、亜美が参考書を広げて呟いた。うさぎはレイからのお土産を確認している。
「ダメだから」
「あなたたちじゃ、レイを教育なんてできないわ」
「あそこまで教育をしたのは、私たちよ」
全然、足りていないじゃない。って言わないけれど、そのつもりで笑って見せる。
「それ以上は、私がしっかり教えるわ」
「え~~!ダメだよ!みちるさんがレイちゃんに構ったら、レイちゃんが遊んでくれなくなる」
うさぎはポストカードを広げながら、駄々をこねた。みちるはつんと無視をして見せた。



「ふぅ」
「どうだった?みちるお嬢様とのデート」
「絵はよくわからなかった」
「そりゃそうでしょ。そうじゃなくて、それ以外は?」
先に湯船に浸かっていた美奈子はランランとした目で報告を求めた。レイちゃんはメンドクサイって顔。
「手を繋いで歩いたわ」
「へぇ」
「ピアスを買ってもらった」
「ほー」
「お世話を焼くのが好きみたい」
「……へぇ」
まぁ、世話好きかどうかというよりは、相手にそう言わせる才能をレイちゃんが持っているって言うだけなんだけど。
「でも、あんたたち以外の人でも1日一緒にいられたし、まぁ、楽しかったわ」
「ふーん」
たぶん、みちるさんは振り回されたと思う。振り回している本人はそのつもりがないんだからね。割り切って自由行動させることも多い美奈子たちとは違って、みちるさんはちゃんと手を繋いでいたみたいだし。

手を繋ぐなんて

今更、美奈子たちが手を繋ごうもんなら、レイちゃんはキレちゃうに違いない。
放っておいてよって。
まぁ、放っているんだけど。ちゃんとGPSを付けて野放しにしてる。携帯電話にそんな機能があるなんて、本人は知らない。

「また、デートしようって誘われたら行く?」
「さぁ?絵画はもういいわ」
「ピクニックとかは?」
「うーん、暇ならね」


暇なくせに。


レイちゃんとみちるさんには隠しているけれど。
デートするって決まってから、4人で海王みちると火野レイをくっつけようってことになっていた。
うさぎも亜美ちゃんもまこちゃんも美奈子も、誰一人レイちゃんの恋人にはなれないし、抜け駆けされたくないし、怖いからしたくもない。だからと言って、レイちゃんが愛も恋も興味ないまま、ぴちぴちの10代を過ごすのもよくない。それでも、そんじょそこらの男女では、火野レイの相手なんて勤まりそうにない。レイちゃんが気にいる相手じゃないと。ついでに、ちゃんとレイちゃんを愛してくれる人で、世話好きそうな人。
レイちゃんは覚えていないんだろうけれど、初めてみちるさんとゲームセンターで会ったとき、レイちゃんはみちるさんをじっと見て、“凄い美人”って呟いていた。それから、4人でひそかに、みちるさんとレイちゃんを近づける方法はないものか、と模索していたのだ。
レイちゃんが美人だと認める相手なら、恋人としては最高の相手。天王はるかとは何もないということも調査済みで、もし恋人なら、別れさせてやろうかという計画だった。
亜美ちゃんがそれとなく、レイちゃんを気になる存在にさせるべく、ネタを仕込みつつ、みちるさんは、なんだかんだと言いながら、レイちゃんのことが気になっているみたいで。
獲物はすっかり簡単に引っかかったと言うこと。

4人は自分の中の“本音を言うとレイちゃんを誰にも渡したくない”という気持ちを押し殺して、我が子を崖から突き落とすべく、デートに差し出したというわけ。

みちるさんの嫉妬心を煽って、レイちゃんを好きにさせて、私たちから独り占めしたくなれば、もはや罠に落ちたとみてもいい。
一緒にお風呂に入るって言ったときの、あのムッとした様子。
分かりやすい。分かりやすすぎて、楽しくなってきてしまう。


「何、ニヤニヤしてんの?」
「別に。みちるさんとピクニック行けたらいいね」
「さぁ。って言うかみんなで行けばいいじゃない」
「うーん、そうね~。考えとくわ」
さてさて、次の作戦をみんなと相談しないとね。




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Date:2015/03/02
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