【緋彩の瞳】 名前を呼んで END

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

名前を呼んで END

ドライヤーを手にして、レイが戻ってきた。
「遅かったわね」
「美奈と話し込んじゃって」
亜美が勉強道具を片付けて、レイからドライヤーを受け取ってコンセントにさしている。うさぎがイソイソと隣の部屋からいろんな形のブラシが入っている箱を持ってきた。
「そろそろ、ご飯だわ。早くしないと」
「ん」
座布団に腰を下ろしたレイは、じっとしている。当然の様に亜美がその艶のある髪にドライヤーを当て始める。うさぎはそのアシスタントらしい。
「……お姫様って思ってるでしょ?」
レイの後ろについてきていた美奈子も髪は濡れている。タオルドライをしながら、ニヤニヤとみちるを見つめてきて。煽っているのかも知れない。
「これは、儀式なの?」
「うーん、そうかもね」
単に、みんながレイちゃんの髪を触るために、積極的にドライヤーを手伝っているだけなんだけど。まこちゃんは料理をしているから、今日は亜美ちゃん。みちるさんは何を考えているのか、レイちゃんの正面に腰を下ろして、じーっとその様子を見つめている。レイちゃんはそんなこと気づかずに、目を閉じて気持ちよさそうに髪を乾かしてもらっている。温風の音があるから、会話なんてしないで。うさぎはいろんな種類のブラシを亜美ちゃんに差し出して、楽しんでいる。
「ムッとしてる?」
「……美奈子の髪は誰が乾かすの?」
「そりゃまぁ、レイちゃんに乾かしてもらおうかなって」
「私がして差し上げる」
いりませんけど。
っていうか、レイちゃんが美奈子の髪を一度だって乾かしてくれたことなんてない。
「そう?それじゃぁ、お願いしようかな~」
にんまり笑うと、亜美ちゃんと視線が合った。

おぬしも悪よのう、なんちゃって。


ドライヤーを美奈にって思ったら、なぜか亜美ちゃんから受け取っているのはみちるさんだった。
「美奈、何してんの?」
「だって、やりたいっていうからさ」
「お客さんにそんなことさせるんじゃないわよ。自分でやりなさい」
みちるさんは、何かやる気満々と言った様子だ。やりたかったのだろうか。だったらレイの髪にすればいいのに。
「レイ、私を客人扱いしなくていいわ」
「でも……」
「私がやるから、レイはおとなしくしてなさい」
どういうことだろうか。美奈と仲良くしたいとか。レイは渋々頷いて、抱き付いてくるうさぎの相手をすることにした。
っていうか、気になるんだけど。
凄く丁寧にドライヤーを当てて、美奈は気持ちよさそう。してやったりの顔が腹立たしい。
「うらやましい顔してるね、レイちゃん」
「べ、別に」
「そう?」
「あんた、ポストカードちゃんと見た?」
「うん、綺麗だったよ」
「……そう」
感想が自分と同じレベルだから、うさぎもやっぱりセンスがない。
まぁ、どうせわかっていたこと。
丁寧に髪をブラッシングしおわったころ、まこちゃんがご飯だよって声をあげた。取りあえず、モヤモヤは棚上げにしておこう。
「ローストビーフにエビとホタテのクリームシチュー。サーモンのマリネとアボカドのサラダ。お米パンにしてみました。デザートはレイちゃんが買ってきたマンゴーのタルト」
客間に並べられたお皿たち。レイは腰を下ろした。みちるさんはレイの隣に腰を下ろす。みんなそれぞれ、好きなだけよそっているけれど、いつもレイは見ているだけ。どうせ、勝手に置かれるし。
「はい」
「……ありがと」
みちるさんが切ったばかりのローストビーフにソースをかけて、レイの前に置いた。まこちゃんがやってくれるって思っていたのに。
「まことはお料理上手ね」
「いやぁ、なんせ、レイちゃんが食べるものだからね。手を抜いたりしたくないんだ」
ドレッシングも手作りなんだからねって、心の中で思った。レイが自慢することじゃないから声にしないけれど。
「いただきます」
まこちゃんが全員のサラダを配り終わって、それをもらって一口食べた。
「どう?」
「うん。美味しい」
「そっか」
和風のドレッシングがアボカドによく合っている。
「うさぎたち、今日は一日何してたの?」
「亜美ちゃんとお勉強して、あとは漫画読んで、まこちゃんとお買い物行って、まもちゃんと電話して」
「いつも通りね」
「うん」
美奈もほとんど変わらない行動を取って、お小遣い稼ぎにおじいちゃんの手伝いをしていたらしいから、まぁ、平和な土曜日だったみたい。暇だったら、たぶんレイも一緒に似たようなことをしていたに違いない。
うさぎが衛さんとどんな会話をしたか、なんてどうでもいいことを話すのを聞いているような聞いていないようなふりをしながら、レイはローストビーフに舌鼓を打つ。
「ねぇ、今度みんなで植物園にピクニックに行かない?」
空になったシチューのお皿をまこちゃんに差し出すと、嬉しそうな笑顔が返ってきた。
「賛成!レイちゃん、ちょっと待ってて、すぐ入れてくる」
「ホタテが入ってなかった」
「ごめんごめん、いっぱい入れてくる」
美奈がさっきお風呂で言っていたことを、いま思いついたみたいに言う。まこちゃんは賛成だけを告げて、キッチンに入っていった。
「みちるさんも行くでしょ?」
「都合が合えばね」
「まぁ、来ないなら、レイちゃんに膝枕するのは私になるから」
何か、みちるさんは隣で美奈子を睨んでいるようにも見える。
「別に美奈に膝枕してもらうつもりなんてないわよ」
「じゃぁ、レイちゃん、私がしてあげる」
なぜか亜美ちゃんが身体を乗り出してきた。
そんな、未来の話を宣言されても困るし、膝枕を誰かがする前提って、一体何なの。
「……ちょっと、何?別にどうでもいいことでしょ?」
ピクニックって、誰かに膝枕をしてもらう行事だったかしら、なんて思いながら、ウロウロして疲れて寝て、起きたら誰かがレイに膝枕をしてくれていたっていうことは確かに何度もあったなって、思い返してみる。でも、頼んだ覚えはない。
「レイちゃん、ホタテたっぷりだよ」
クリームシチューを入れてきてくれたまこちゃんが戻ってきた。
「ありがと」
「うんうん、たんと食べて」
大きなホタテに息を吹きかけながら、取りあえず話が途切れてホッとする。
「まず、日にちを決めて頂戴」
みちるさんがお箸をおいて、よく通る声で言った。

………行く気らしい。

何か、ムッとしたままだけど。レイは黙ってシチューのお皿に集中しているフリをした。
「みちるさん、行きたいの?」
「誘ってくれたのなら、そりゃね」
「ふーん。じゃぁ、来週の土曜日」
みんな、頭の中で手帳を広げているらしい。視線が上に行っている。レイは今月の土曜日は真っ白だ。美奈はきっと適当に日にちを指定したに違いないだろうけれど、亜美ちゃんたちは問題なさそうに頷いている。
「空けておくわ」
みちるさん、今度は、美奈に向かって笑って見せている。何だか怖い。
“何か”を張り合っているように見えるのは、レイだけなのかしら。



6等分されたケーキを食べながら、亜美と美奈子が行楽地特集をしている雑誌をめくっている。
「明日、何食べたい?」
「お米」
「ん~、和食ねぇ」
まことは料理本をパラパラめくってレイに明日のご飯のリクエストを伺っていた。
「そういえば、みちるさんも1人暮らしだったよね?料理するの?」
アイディアが欲しいのか、まことが聞き耳を立てているみちるに話を振ってきた。
「えぇ」
「得意料理は?」
「これと言って……作りたいものを作って食べているだけだから」
「和食は作るの?」
「……あんまり」
スペイン料理とか、イタリアンとか、そういうのはよく作る。でも、和食を手間暇かけて作ることは、ほとんどない。パン食が多いせいだ。
「そっか~。じゃぁ、レイちゃんの胃袋は任せられないなぁ。レイちゃんは和食派だからね」
今日はそれほど、和のテイストじゃなかったのにって言おうとしたけれど、ローストビーフのソースは醤油ベースでわさびをつけていたし、サラダのドレッシングもポン酢をベースにしていた。パンは米粉から作られているものだった。
「……作らないだけ。作れるわよ」
「ふーん。あ、レイちゃん、明日は鯛の煮つけにしよう」
「いいわね。あと、月曜日の朝ごはんも作っておいて」
「任せて。ついでにおでんをたくさん作っておくよ。お弁当のおかずも作って、ご飯もタイマーを仕掛けておくから、自分で朝、詰めて」
「うん、わかった」
至れり尽くせりだわ。これはまことからの挑戦状とでもいうのかしら。和食って言われても困るけれど。明日、料理本を買いに行かないと。
「ここがいいわ」
奥歯をぎゅっと噛んで、その挑戦状を受けるかどうか悩んでいると、レイの背中に美奈子が抱き付いて、雑誌をその目の前に置いた。
「ん、はいはい」
「綺麗に花も咲いてるし」
「はいはい」
「まこちゃんにお弁当作ってもらって、そんでもって、私と手を繋いでお花見て回ろうよ」
「………」
にやりと美奈子がみちるを見る。あからさまな挑戦状ということらしい。
「手なんて繋がないわよ」
「みちるさんとは繋いだでしょ?」
「そ、それは、だって、勝手に行動できなかったんだから……」
「何、赤くなってんのよ」
「別に!勝手に繋いできた、だけだし」
シドロモドロして言い訳をするレイの顔は幼くてかわいい。

取りあえず、可愛いから、美奈子の挑発には乗らないことにした。

ゆっくりとケーキを食べていたレイは、最後の一口をうさぎにあげて、美奈子をふるい落した。
「………ちょっと、散歩してくる。計画は勝手に立てておいていいから」
レイはコートを手に取ると、逃げるように部屋を出て行ってしまった。拗ねたのかも知れない。
「何あれ、見た?真っ赤だった」
「うんうん、いい感じじゃない?」
「わかりやすいね」
「でも、何だか癪だわ」
この4人は、レイをどうしたいと言うのかしら。
過保護すぎるような気がする。

「……そろそろ帰るわ」
レイが出て行ってしまっては、みちるもここにいる意味もない。泊まることもできないし、これ以上見せつけられたら、変にムキになってしまう。
「そう?じゃぁ土曜日ね。はるかさんが暇なら誘ってもいいわよ」
「考えておくわ」
「なんだったら、レイちゃんのためにお弁当作ってくる?レイちゃんの好きなお弁当のおかず、教えてあげてもいいけど?」
美奈子はものすごく上から目線で、レイの情報を渡すつもりらしい。
「……いいわ。自分で聞くし、みんながいないときに、2人でお出かけするときにでも、お弁当を作るわ」
レイのためならお弁当を作ってもいいかしら、って思ったけれど、その他の4人のために作るのは遠慮したい。
「…………みちるさん、レイちゃんを好きになっちゃダメって言ったでしょ?」
とても冷静な声で、亜美が呟いた。
「あら、煽っているんじゃなかったの?」
「まさか」
「今日は色々と楽しませてもらったわ。じゃぁね、みんな」
4人ともレイのことが大好きで、構いたくて仕方がないと言うのはよくわかった。
かといって、取り合いをしている様子もなくて、団結して愛でている。

「がんばってね、みちるさん」

部屋を出ると、美奈子の声が聞こえた気がした。






「レイ」
「あ。もう、帰るの?」
鳥居の傍で、レイはぼんやりと三日月を見上げていたみたいだ。
「えぇ」
「今日は、どうもありがとう」
「こちらこそ」
「また、どこか行く時に声をかけて」
かといって、絵画を観に誘うということは、もうないだろう。それでも、みちるとデートをするのが嫌になったのでないのなら、それだけでもうれしい。
「そうね。また、手を繋いでデートしましょう」
「本当?楽しみにしてる」
「みんなには内緒よ?嫉妬されちゃうわ」
人差し指をその唇に押し当てると、まっすぐな瞳がじっと見つめてくるから。


好きになってしまうじゃない


「………ランチもごちそうになったし、ピアスのお礼もしないと、その。だから、また、電話するわ」
みちるは洗い立てのシャンプーの香りのするその髪をそっと撫でて、ドキドキする心臓の音を悟られないように微笑んで見せた。
「お礼は、デートでいいわ。あのピアスをつけてきて」
「……うん、じゃぁ、空いている日、また教えてね」
「えぇ」
いつまでも、こうやってレイに触れていたいって思う感情は、好き以外の何物でもなくて。

「おやすみなさい、みちるさん」
「おやすみなさい、レイ」


今日、初めてレイって呼んだのに
ずっと前からそう呼んでいたように思えた


あれほど悩んだことが嘘のように
その名前がみちるの心に染みているから


これはもう、仕方がないって
自分の心に言い聞かせた




誕生日まで、あと3日!!
関連記事

*    *    *

Information

Date:2015/03/03
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/476-0b7c1fcb
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)