【緋彩の瞳】 My love ①

緋彩の瞳

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My love ①

「………珍しい」
学校帰りにメールが来て指定場所へと向かうと、みちるさんの隣にはせつなさんがいた。
「今日は会議がすぐに終わって、早めに抜け出してきたのよ」
「へぇ」
「それで、せつなから連絡が来てね。レイと最近会っていないっていうから、連れて来ちゃったの」
2人の前に腰を下ろして、学生鞄を隣の椅子に置き、髪をひとつにまとめた。時々待ち合わせに使うお店ははいつものクラウン・パーラーではない。仲間たちとは来たことがないカフェ。
「デートのお邪魔だった?」
「まさか。久しぶりに会えてうれしいわ」
みちるさんとは半分一緒に暮らしているようなものだから、どうしても2人きりでカフェにいたいって言うこともなくて。ただ、待ち合わせ場所としてちょうどいいから。ここから歩いてスーパーに寄って買い物をして、マンションに戻る。そういうパターンが多い。
みちるさんとせつなさんは、すでに1杯目のコーヒーを飲み干しているらしく、レイがダージリンを頼むのと一緒に、同じものを注文していた。
「最近はどう?あなたたちは変わらず上手くやってる?」
「せつな、さっきも私に聞いたじゃない?」
「レイに聞いているの。答えが違うかも知れないでしょう?」
みちるさんが子供みたいな拗ねた目をしている。レイの前では子供っぽい仕草っていうか、そういう可愛らしい仕草なんて見せない人だから、ちょっと新鮮だわって思った。せつなさんはみちるさんよりも大人だし、もっとずっと落ち着いている。落ち着きすぎて、何もかも見透かされているような気もするくらい。
「大丈夫だと思ってるけど。特に私は何も……」
みちるさんがレイのことを何か相談していたのかしら、なんて一瞬思った。何かレイが無意識にみちるさんを悩ませていることがあるのかもって。
「そう?何その顔は。みちるはレイを待つ間に惚気しか話してないわよ」
「せつな、余計なことを言わないで」
すかさずみちるさんが、何か顔を赤くして可愛らしく抗議した。レイの恋人は、嘘を吐くとか適当なごまかしとか、そういうことをするっていう発想をあまり持っていない人で、そういうところが清らかでとても好き。それに、たとえ、そういうことをしても驚くほど下手なのだ。
「可愛い子たちね、まったく」
ダージリンにミルクを注いで、レイはどういう反応をするべきかしら、なんて思いながら適当に笑って見せた。
「そういう、せつなは最近どうなの?」
「私?」
「あなたのところの、赤いリボン」
「あら、気にしたりするの?」
レイはせつなさんの返事に、みちるさんと同じように小さく頷いてみせた。せつなさんと美奈が2人でいるところなんて見たこともないし、仲間たちと一緒にいるときに、横並びになっているところも見たことがない。2人が親密に話し込んでいるとか、楽しそうに微笑んでいるとか、そういうところを何も見たことがない。
意図的に隠しているように思える。みちるさんとレイだって別に、見せびらかすつもりではないけれど、自然と隣に座るし、自然と視線は合ってしまう。仲間がいるからって、わざわざ席を離そうって言うのは、考えることが面倒なので、気にしないことにしている。
「美奈、高校に上がってから、何とかっていうアイドルに夢中らしいわよ」
昨日、クラウンで鼻息荒くしてアイドルについて、レイに語っていた。追っかけているらしくて、スケジュール把握しているから、これから行かなきゃとか、何も注文せずにすぐに出て行った。たぶん、今日も追いかけてる。
「そうなの?」
「あら、せつなは聞いていないの?」
「興味ないわ」
それは美奈が追いかけているアイドルに興味がないって言うより、美奈がアイドルを追いかけていると言うことに興味がない、っていう言い方に聞こえる。
「あの馬鹿、そのアイドルが同じ学校に転校してきて、同じクラスで、毎日キャーキャーうるさくしているけれど、せつなさんは大丈夫なの?」
会うたびに、熱く語られて鬱陶しい。高いテンションが本当に鬱陶しい。
「大丈夫?何が?美奈子は好きなことをしているのでしょう?」
「そうだけど……」
アイドルとはいっても、同じクラスにいる男子を追いかけまわして、目をハートにしてキャーキャー言って、放課後もそれに費やして。2ショット写真を撮ったりして。土日は撮影だのコンサートだのと、梯子しているらしいのに。嫉妬っていうか、不安になったりしないのかしら。
「いつどこで何をしようとも、自由でしょ。美奈子の趣味なのだから」
レイは思わずみちるさんと見つめ合った。
みちるさんがもし、レイとのデートよりも好きなことに没頭して、それが有名人の追っかけだったらどうだろう。
………想像できない。みちるさんはヴァイオリンのお仕事で忙しいことはあっても、いつもレイのことを想ってくれているし、こまめに連絡をしてくれる人だから。それに、美術館や知り合いの演奏会なんかには、必ず誘ってくれる。
「私には、そんな余裕のある大人の対応はできないわ」
みちるさんは数秒見つめ合った後、きっぱりと言った。きっと、レイが誰かを追いかけ、デートなんて後回し、みたいな想像を同じようにやってみて、ムッとしたのだと思う。
「いや、私だって……」
レイにそんな趣味はない。
「2人とも、それが普通の思考回廊よ。うちは最上級の放任主義なの」

最上級の放任主義

初めて聞いた言葉だわ。レイはまた、みちるさんと見つめ合った。

でも、なんていうか、せつなさんらしい。そして、そのせつなさんを選んでいる美奈も、この人に捨てられないって言うことは、2人は2人で上手くいっているって言うこと。

「………私が過保護とでも?」
みちるさん、何か解釈がレイと違う。ごくりとつばを飲み込んで、せつなさんはそのつもりでそんな言葉を口にしたのかって、気になった。
「あら、そういうわけじゃないわよ。あなたたちの愛し合い方は、麗しいと思うわよ」
「そう?レイ、私って過保護?」
ちょっと拗ねながらも、不安そうな顔して聞いてくるなんて。
どういう言葉を選ぶのが正解か、わからないのに。何を基準にして過保護って言うのか、わからない。
「そんなこと…考えたこと、ない」
「みちる、レイを困らせないの」
「レイだって、美奈子ほどじゃないけれど、基本的にはフリーダムな子なのよ?放っておけないから、いつも気にかけているけれど。もしかして、多少は放任した方がいいのかしら?」
そんなこと、本人がいる前で相談しないでもらいたい。レイは熱いダージリンを勢いよく飲み干しそうになるのを、何とかこらえた。フリーダムのつもりはないけれど、みちるさんから見たら、レイはフリーダムなのかしら。そのあたり、ちょっと自覚してないからわからない。
「いいのいいの、みちるはそれで。みちるがそういうことをしてくれるって言うのが、愛だって、レイもわかってるわよ。ねぇ?」
「え?あ、えぇ……まぁ」
レイの中ではいつでも安心安泰だわ、なんて思ってる。そんな、改めて言われても、どういう反応が正しいのかなんてわからない。
こういう議論になっているのは、あの美奈のせいだ。
「……馬鹿美奈め」
レイはポケットから携帯電話を取り出して、リダイアルから愛野美奈子を選択した。一応、美奈という仲間とそれなりに仲もいいし、みちるさんといないときには、なぜか美奈といることが多い。せつなさんのことに気を遣って遊ぶ約束をしないって、そういうことを考えていない。あれ、もしかして、レイも2人の邪魔をしていたりするのかしら、なんて今更ながらに思ってしまう。でも、美奈が悪い。断らないし、暇だって言うし、せつなさんのことを何も話してくれたりしないんだから。
『レイちゃん、何?!今、星夜君たちのコンサートのリハの出待ちしてるんだけど?!』
「………馬鹿美奈!!」
一言だけで、切ってやった。
せつなさんもせっかく時間が空いたのなら、美奈と会えばいいのに。誘っても断られたのかなって一瞬だけ考えて、そもそも誘ってすらいないだろうと結論が出た。
「美奈子、何してたの?」
「出待ちしてるって」
「せつな、せっかく時間が取れたのに。連絡しなかったの?」
「考えすらなかったわ。みちるかレイを誘おうって言うことしか、頭になくて」
でも、なぜかそれでも2人の距離は絶妙なんだって思える。いつから付き合い始めたのか知らないし、美奈がそれとなく誰かと付き合っているようには見えていたけれど、それがせつなさんだって確認が取れるまで、それなりに時間がかかった。いつどうやって、なぜなのか。2人とも、何も言ってくれない。

きっと、2人の愛し方は2人だけにしかわからない。それでも、せつなさんは美奈を愛しいって思っている。美奈子って名前を呼ぶ声が、とても柔らかくて優しいから。



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Date:2015/03/10
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