【緋彩の瞳】 Killing me softly ①

緋彩の瞳

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Killing me softly ①

「ソフレ?」
「うん」
「………何それ?」
「言うと思った」
美奈が勉強しているフリをして広げていただけのノートに、“添い寝・FRIEND”と書いた。
「添い寝FIRND?」
言葉に出してみて、レイは眉をひそめる。分かりやすい言葉をくっつけて略しただけにしては、“添い寝”と“友達”がどうも繋がらない。
「つまりね、まぁ、エッチなし。だけど、人肌恋しいもの同士が、寄り添って寝るっていうものよ」
「……なんでそんなことをするわけ?」
「どうなんだろうね、1人は何となく嫌だけど、恋愛とかエッチがめんどくさいって時にさ」
「どっちもしなきゃいいだけだし」
美奈は“チッチ”と人差し指を立てて小さくタクトのように振って見せてくる。
わかってない、と言いたいらしい。
「恋人同士じゃなくて、あくまでもFRIENDっていうくくりなの。健全なカップルじゃなくて、添い寝する友達よ」
「異性で?」
「うん、まぁ、世間一般では」
「……成り立つわけ?」
レイは男の人と添い寝なんてしたことないけれど、そもそも恋愛感情のない男の友達がいるという女の子なんているのだろうか。その逆もしかり。
「それがさ、なぜだか成り立っているから話題になってるみたいよ。草食というかさ、あと、それを商売にして、お金稼ぐ人もいるとか、いないとか。レンタルフレンドってのもある」
セックスする相手をお金で買う人がいることは、レイも知っているけれど、ただ添い寝をするだけの相手をお金で買うって。
「レイちゃん、意味わからないって顔してる」
「まぁ、ちょっとね……」
美奈は全然勉強するつもりがないみたいで、身を乗り出してくる。
「まぁさ、恋愛はコリゴリなんて思うことがあっても、人肌恋しいって思うことってあるでしょ?」

あるでしょ?なんて言われても。
あって当然、みたいに言い切られても困る。
レイは助けを求めるように、亜美ちゃんに眉をひそめた顔を見せた。ちらりと交わされた視線。さらさらとノートに数式を書いていた亜美ちゃんは、片方だけの眉を上げてしかめっ面で返してくる。
「色々と恋愛経験をしている、大人の男女はそういうことを想うことがあるのよ」
「……じゃぁ、あんただってわかんないことじゃない」
美奈の恋人は大人だけど、美奈は大人じゃないし、美奈が恋愛コリゴリなんて思う人間じゃないことは、本人が一番よくわかってると思う。
「いや、だから、一般論。それでさ、相手の気持ちに振り回されたり振り回したり、まぁ、恋愛感情を持つことに興味がなくても、それでも、1人の夜は嫌だってなった時に、ソフレがいれば、気持ちも落ち着くと。そういうわけよ」

そんな、寂しい心を埋めるために、相手を利用するようなものを、イマドキのスタイルみたいに言わない方がいいと思う。
「でもそれ、ただ寂しさを紛らわしたい方には便利だけど、絶対にお互いに何もないということがずっと続くなんて、難しいんじゃない?」
「うーん、どうだろう。でも、お互いに恋愛感情がないっていう前提の話だからさ」
「それでも、1度ならそうかもしれないけれど、同じ相手と繰り返すと、どちらかが感情移入することとか」
人の感情なんてわからない。好きじゃなかった人を好きになったり、恋してはいけない相手を気が付いたら、目で追っている。
それほど親しくもない間柄でも、その腕に抱かれて居心地の良さを感じてしまったら、ずっと何も思わないなんて、出来るのだろうか。
「……何、レイちゃんは、添い寝されただけで惚れる性格なわけ?」
「そもそも、1人寝が寂しいからって、他人を利用しようという考えはないわ」
「それはつまり、レイちゃんはみちるさんとラブラブだから、とっても心満たされておりますという、自慢をしたいということで?」

イチイチ、メンドクサイ
暇を持て余した美奈は、どうしてもレイをからかって遊びたいだけらしい。

「じゃぁ、レイちゃんはこの中で、誰なら何の問題もなくソフレ関係が成り立つと思う?」
美奈が手を止めた頃に、同じように手を止めていたまこちゃんが、シャーペンを持った手を挙げて質問してきた。
「はぁ?」
「まぁ、仮にだけどさ。美奈子ちゃんの話だと、お互いに恋人がいないっていう大前提なんだろ?それで、全員に恋人がいないということにして、レイちゃんなら、何の心配もなく、ただ、一緒のベッドで何事もなく寝られる相手として、誰を選ぶ?」
なぜか、美奈とうさぎが勢いよく立候補のように手を挙げてアピールしてきた。
この二人と同じベッドで寝たら、寝相の悪さでレイはまともに眠れないだろう。
「あんたたち2人と同じベッドなんて、精神的に落ち着かなくて眠れないから、嫌」
その立候補は何の意味があると言うのだろう。美奈の説明だと、積極的選択というよりは、寂しさだけを紛らわすだけの、消極的な方法のような気がするのに。
「何でよ!」
「そうよ、うさぎちゃんはともかく!」
2人はレイの隣で寝て何をするつもりなのだろう。
ソフレとして、絶対に選びたくないって誰でも思うに違いない。
「真っ先にうさぎと美奈は除外するとして、うーん、やっぱりまこちゃんか亜美ちゃんかしら」
だから、残った2人しか選択肢はなかった。別にまこちゃんでも亜美ちゃんでも、特に害はないと思う。
「え?私?いや、寝相悪いから、潰しちゃいそうだけど、いい?」
「そう?うーん、それは困るわね。ということは、……亜美ちゃんよね」
まこちゃんがレイを押し潰すとは思わないけれど、1人に絞るのが答えなら、答えは亜美ちゃんしかない。
でも、レイも亜美ちゃんも互いに寂しいからと言って、決して添い寝の相手を求めたりしない。

「だってさ、亜美ちゃん。選ばれた感想は?」
「さぁ?ありえないことの妄想ばっかりしていないで、明日からの試験の数式を覚える方がいいと思うわよ」
とても冷静で、嬉しいとも嫌だともそんな風な顔を見せないで、亜美ちゃんはやっぱり、いつもと変わらない。
レイも、誰かを選ぶことが正解だとか、選ばない人間が嫌いだとかそういう判断をしたわけじゃないし、全員よくわかっていることだって思ってる。
そう、これはありがちな女子が集まれば話したくなる、くだらないことなのだから。
「そうね、美奈。あんた、結局、勉強に飽きてきただけでしょ?」
「……バレたか」
亜美ちゃんに巻き込んでごめんねって言うつもりで瞳を見つめようとしたけれど、じっとノートを見つめたまま、上げる様子もなかった。


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Date:2015/03/15
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