【緋彩の瞳】 ママにキスして ②

緋彩の瞳

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ママにキスして ②


「ん~~」
「何、レイ?どうしたの?」
「ママのリップクリーム、やっぱり嫌だ」
腕の中のレイは、みちるに満面の笑みで手を振った後に、役者?って言いたいくらい真顔になった。
「何?みちる?リップ?」
「あのね、みちるが使ってる口に塗るやつ、めっちゃくちゃ変な匂い!」
隣に座っている美奈子は、足をブラブラさせながら、レイが言わんとすることを教えてくれた。
「みちるが使っているリップクリームが、2人とも嫌いなの?」
「変な匂いなんだよ。でもね、はるかがお土産に買ってきた。外国のやつなの。みちる、毎日付けるんだよ。お風呂入っているときと、朝起きたとき以外は、変なのが匂うんだよ」
「………あらあら」
唇を尖らせている2人は、相当嫌っていうアピールをしている。それでも、子供なりに本人に嫌だって言わないで我慢しているのは、みちるが気に入って使っているからなのだろう。
「はるかがあんなのあげるのが悪いよ」
「でも、パパから貰って、ママは嬉しそうだった」
「うぅ~~~~。レイ、お金貯めよう!新しいの買おうよ!」
あなたたちは一体何歳なのよ。お金貯めようって拳を握る美奈子の決意表明は、なみなみならない気迫を感じる。
「はっきり、嫌だって言えばいいじゃない」
「ママはパパから貰ったものだから、嬉しいんだよ。だって、パパはいい匂いって言ってたもん」
子供が嫌いな匂いで、はるかが好きな匂いってどんなものって、せつなには思い浮かばない。匂いのするリップクリームはいろいろあるけれど、海外のものって言われたら、なおのこと。せつなもどんなものか、気になってしまう。
「美奈子はどうするつもりなの?お金貯めようって……何?」
「ミニカーを作って売る」
「はぁ?」
「粘土でミニカー作って売るの。はるかに売る!」
美奈子の目は割と本気。そんなに本気で嫌なら、嫌だって言えばいいだけなのに。
はるかから貰ったものを嬉しそうにつけているみちるを、傷つけたくないという子供心って言うものかしら。

まったく、相変わらずこの親子たちは、愛があふれんばかりで呆れてしまう。

「はるかがお金をあげる訳ないと思うわよ」
「売るって言ったもん」
「……はるかは、買うって言ったの?」
「知らない。売るんだもん!」
美奈子は、そんなにみちるのキスが欲しいのかしら。レイの方がみちるにべったりの印象だけど。
「美奈は、ママがあのリップクリームをつけ出してから、全然キスしてないの」
「つまりは、美奈子はもう、我慢できないのね?」
「だから、朝早く起きたらいいのに」
レイは、みちるとキスするために早起きする方法を選んでいるのだろう。この二人の性格の違い様は、はるかとみちるを見ているよな、でもやっぱり変な親子に変わりはない。
「……まぁ、精々がんばって」
腕の中のレイはせつなの身体にしがみついて、唇を尖らせたまま。
面白そうだから、数日は様子を見て、頃合いを見計らって、みちるに電話をしておこう。






「うっわ、へたくそ」
物凄くドヤ顔で、車のような何かを見せてきた美奈に、レイは“ダメだ”と心底思った。
「なんで?!」
「そんなの、パパは買い取ってくれない」
「どうして!」
「ドアないし、タイヤも丸くない」
「ぶ~~!!!!!!!!」
「やり直して」
美奈はこれで3度目。手のひらで粘土を押し潰して、ぶーぶー言いながらまた、車のような何かを作り始めた。
「レイが猫を諦めたらいいのに」
「猫がいいの」
「みちるのキスとどっちが大事?」
「だって、美奈がはるかに売ってお金もらうって言ったでしょ」
「うぅ~!!!!!」
粘土の時間ギリギリまで、美奈は何度も何度もミニカーとは程遠いものを作り続けて、最終的には、レイが手伝う羽目になった。
「美奈子のミニカーは、レイが手を加えたわね?」
せつな先生がジロって見つめてくる。
「勘弁してください、お代官様!なにとぞ!見逃してください!」
両手をこすり合わせて頭を下げる美奈は、この前パパと一緒に見ていたテレビの真似をして見せている。
「どこで覚えてきたのよ、まったく」
「みちるのキスの方が大事でしょ?」
「でしょ?って………発想が飛躍しすぎだわ」
頭痛そうな顔をしているから、レイは手を挙げた。
「せつな先生、はっそうがひやくしすぎって何?」
「………つまりはね、美奈子は天才で馬鹿って言うことよ」
「どっちなの?」
「どっちもよ」
どっちなのか、わかんないのに。どっちかといえば、馬鹿なのに。レイと美奈子の頭を撫でるせつな先生は、まったくみちるもはるかも、って小さな声でつぶやいた。
「美奈、取りあえずパパにお金もらおう」
「うん。新しいの買えるくらいになるまで、がんばろう、レイ」
それがいつになるかわからないけれど、いっそ使い切ってすぐになくなってしまえばいいのに。
ママは凄く嬉しそうに毎日、リップクリームをつけているから。
美奈と最初は隠しちゃおうかっていう話もしたけれど、ママが可愛そうだからってやめた。
パパのことをママは大好きだけど、でもレイと美奈のことも大好きだから、レイと美奈が違うやつをあげたら、そっちの方をつけてくれるに違いない。

そう、言い出したのも美奈。



みちるの作ってくれたお弁当には、ハンバーグが入っていた。美味しいねって言いながらレイと一緒に食べて、お昼寝をして、それから外で遊んで。バスに乗って帰ると、はるかが待っていてくれた。
「パパ~!」
バスが嫌いなレイが一目散に飛び出して、はるかに抱き付いている。
「お帰り、レイ」
レイを抱き上げて、余った片方を美奈子に差し出した。
「美奈子、お帰り」
「はるか、いいのができたんだよ!」
「いいの?」
「うん」
いっそ150円で売れないだろうか。なんて考えてみる。
「はるか、200円で買い取りなさい」
「………なんだ、せつな。200円?あぁ、粘土の」
「買い取ってあげなさいな」
「……幼稚園の先生がそんなことを言うなよ」
「いいから、共同作品になったのよ。だから、2倍にして200円で買い取りなさい。じゃぁね」
せつな先生がはるかに買い取りを迫ってくれている。これは期待できるかもしれない。

家に帰って、手洗いうがいをして、服を着替えた。ジュースとママが作ってくれていたクッキーがテーブルに置かれている。
「はるか、ミニカーだよ」
美奈子はクッキーをひとつ摘まもうとしたら、レイに手の甲をパチンと叩かれた。忘れていたミニカーの袋を押し付けられる。そうだった、そうだった。
「ん、よし。見てみよう」
「200円」
はるかの手のひらに置く前に、手の平を出した。
「……お前は、お金をもらって何が欲しいんだ?」
「秘密」
「教えてくれないのなら、あげないよ?」
「じゃぁ、パパ。教えてあげるからお金頂戴」
レイが味方に付くように、美奈子の差し出している手の横に右手を並べた。
「……レイもなのか?」
「うん」
レイと美奈子はみちるのキスが欲しい。でも、レイはみちるが悲しむことを言っちゃダメだって言うから。みちるはレイと美奈子の方が大好きだから、ぱるかのプレゼントよりも絶対に、2人が買ったものをつけてくれる。

絶対。

「………うーん。もう、わかったよ。それで、2人は一体何が欲しいんだ?」
「話すから、ミニカー200円です」
美奈子はレイがほとんど作ってしまった粘土のミニカーを差し出した。ものすごく眉をひそめたはるかが、ちょっと待ってろとお財布から100円玉2枚を取り出す。でもまだ、お金を渡してくれない。
「ミニカーは、なかなかよく出来てる。確かに200円の価値はある」
「でしょ?」
「なんで美奈が得意げ?」
はるかが褒めるから、美奈子は胸を張った。すかさずレイが余計なことを言うけれど、共同作品だから、200円なんだし、だからこれでいいの。
「うん、ドアが2つしかない2シートだね」
「トヨタのGT2000だよ」
「レイ、よく知ってるな」
「はるかの机の上にある写真のやつ」
「えらいな、流石レイだ」
何それ。って美奈子は思いながら、でも、知ってるっぽく美奈子だってドヤ顔。
「うん。だから、お金渡して」
「………それで、何を買うんだ?」
「ママにプレゼントを買うの」
「みちるに?」
「うん」
「誕生日は終わったよ?」
「でも、レイも美奈も何も買ってない」
レイと美奈子は、みちるの誕生日の時には、はるかが作った料理とはるかが買ってきたケーキでお祝いをして、沢山沢山キスをして、ぎゅってして一緒に寝た。
ハッピーバースデーの歌をプレゼントした。
「うーん。でも、別にレイと美奈子が何か買う必要はないよ」
「嫌だ。美奈子はみちるにプレゼントを買う!」
「レイも!」
困った顔をしながらも、はるかの手元にはすでにミニカーがあるのだから、それはもう売ったも同然。2人は手のひらを何度もはるかに押し付けた。
「……わかったわかった」
1枚ずつのコインがレイと美奈子の手の平に置かれる。
「やった!」
「行こう、買い物行こう!」
ピョンピョン飛び跳ねて、レイとハイタッチ。これで、みちるのキスをたくさんもらえる。
「はるか、車出して」
「おやついらないの?」
「食べるけど、車出して」
クッキーを1つ口に放り込んだ。レイも慌てて真似して、ジュースでのみこんでいる。
「200円で買うものはもう決めているの?」
「「うん!!」」
「はいはい………まったく。あぁ、あとでみちるに怒られそうだ」
「大丈夫だよ、みちるはプレゼントもらったら怒れないよ」
「お前はどうしてそういうところだけ、賢いんだ」
はるかに頭をポンポンされたけど、全然痛くない。みちるとキスしないよりはいい。
「美奈は天才で馬鹿だって、せつな先生が言ってた」
「せつなはうちの子を何だと思ってんだ。その通りだけど」
美奈子は褒めているのか馬鹿だって言いたいのか、結局、よくわからない。でも、キスできるならもう、何でもいい。
「行こう、行こう!」
「レイも珍しくやる気出してるなぁ」
玄関に先に走って、レイと美奈子は左右の靴を間違えないように気を付けて履いた。
早く新しいリップクリームを買って、いっぱいのキスをもらうんだから。



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Date:2015/03/18
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