【緋彩の瞳】 ママにキスして ③

緋彩の瞳

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ママにキスして ③

手を繋いだレイと美奈子は、大きなスーパーに入ると、食料品コーナーを見向きもせずに真っ直ぐドラッグストアに突き進んでいく。はるかはその後を追いかけながら、何か不思議な気がしてならなかった。
誕生日にプレゼントを贈りたいって思っていたのなら、どうして誕生日の前にそう言わなかったのだろうか、と。今日の朝まで、2人からそんなおねだりをされたことはなかったし、はるかの誕生日の時だって、2人が何かを買ってプレゼントをくれたなんていうこともなかった。

どうして、みちるにだけ。

嫉妬をしていないと言えばウソかも知れないが、不自然というか、なんというか。
子供の2人はドラッグストアに入ると、キョロキョロしながら何かを探し始めた。取りあえず、黙って後ろをついていく。
「う~……」
「ここはシャンプーばっかりだから違うよ」
美奈子の手を引っ張りながら、レイはさらに別の棚へと向かった。子供からしたら幼稚園の教室の何倍もあるフロア。
「……あった!」
美奈子が立ち止ったのは、リップクリームが沢山かけられている棚だ。
「あった!でも……どれだろう」
レイが目を左右に動かして、商品を全部見ようとしている。
「う~……」
200円でリップクリームって。はるかはその真後ろに立って、腕を組んだ。この前はるかがみちるにリップクリームをあげたところだっていうのに。まさか、対抗したいのだろうか。
そうとしか思えない。
「レイ、美奈子。みちるにリップクリームを買うのか?」
「秘密」
美奈子は知らんぷりをしようとしているけれど、ここまで来て秘密も何もないだろうに。
「美奈、お店の人に聞いてよ」
「うん。待ってて。はるか、あっちいってて。見ちゃダメなんだからね」
レイを一人置いて、美奈子はレジの方に走っていく。走るな!って言う隙もなく。でもレイを一人にさせる方が、はるかには心配なのだから、仕方ない。
「パパ、どっかに行ってて」
「それはダメ。僕はパパなんだから」
「大丈夫、レイは迷子にならないもん」
「そういう問題じゃない」
「じゃぁ、後ろむいててよ」
「美奈子がちゃんと、お店の人を連れてきたらね」
唇を尖らせながら、レイが睨むようにはるかを見上げている。あんまり駄々っ子ではない方だけど、どうしても、はるかには知られたくないのだろうか。まぁ、買ってではなく、お金頂戴って言うというのは、そういうことなのだろう。
「連れてきた」
美奈子が若い女性の店員さんを連れてきた。
「パパ、どっか行ってて」
「……はいはい」
はるかは店員さんに、“娘がすみません”と一声かけて、それから二つ離れた棚に場所を移動した。でも、よく声が聞こえてくる。

「あの、匂いが全然ないリップクリームを探しています」
「美奈、200円で買えるものって、ちゃんと言わないと」
レイと美奈子は、無臭のリップクリームを買いたいらしい。
何を企んでいるのだろうか。若い女の子が、“これとこれ”っていくつか娘たちに見せているような声も聞こえてくる。
「レイ、これにしよう。これ、ママが使ってるのを見たことある」
「本当だ。これがいい!」
明るい声で、何か決定したみたいだ。店員さんにレジに連れていかれる娘を、そっと尾行する。プレゼント包装なんていうことはせずに(できないけど)2人は200円と、数円のおつりを受け取って、満面の笑みだ。
「買えたのか?」
レイの鞄に隠すようにリップクリームをしまったのを見て、はるかは姿を見せた。
「うん」
「パパ~」
抱っこをねだるようにレイが手を広げてきた。あっち行けと言ってたくせに。
人見知りっ子は、美奈子にレジも質問も全部やらせたようだ。
「2人とも、お店の人にありがとうって言ったのか?」
「ありがとう、お姉さん」
美奈子がお辞儀をして、手を振った。レイは抱っこをねだって見向きもしないから、身体をくるっと回転させて、はるかはその頭を押してお辞儀させた。
「ありがとう、娘たちの初めてのお買い物に付き合わせて悪いね」
「い、いいえっ」
若い店員さんにウインクを飛ばして、レイを抱き上げる。
「ママに、パパが女の人にウインクしたって言う」
「それくらいで、みちるは怒らないよ」
抱き上げたレイが拗ねた顔を見せたから、そのほっぺにキスをした。
しがみつくレイを片腕で、もう一方で美奈子と手を繋ぐ。ついでに夕食の買い物をして、今日ははるかが夕食を作ってあげなければいけない。
みちるはお弁当にハンバーグを入れたらしいから、お鍋にでもするかな、と。




7時過ぎに家に吐いた。玄関を開けると娘たちが走ってくる足音が聞こえてくる。
「ママ~!」
「みちる~!」
この瞬間だけで、今日の一日のお仕事の疲れなんてすぐに吹き飛んで、身体が軽くなってしまうから。
「ただいま」
腕にまとわりつく愛は重たい。ヴァイオリンと鞄を手にしたまま、その子たちを引きずるようにしてリビングに入る。
「お帰り、みちる」
「ただいま、はるか。お鍋にしたのね」
「うん。まだ、ちょっと寒いしね」
まだ両手から離れない娘たち。はるかに鞄を渡して、そしてただいまの口づけをする。
「うん、いいね」
「そう?グロスを上から付けているし、時間も経ったからあんまり匂わないと思うわよ」
「ちゃんと匂うよ」
そう言って、はるかがもう一度唇を味わうように重ねてくる。両腕の娘たちには、まだキスをしてあげてないのにって思いながらも、心地よさが唇を支配してしまうから。
「さて、服を着替えてきて。ご飯にしよう」
「えぇ」
いつもはキスをねだる娘たちだけど、みちるを見上げてきたまま、何も言ってこない。
「レイ、美奈子。ママにキスしてくれないの?」
「……う~」
美奈子が口を尖らせている。そういえば、最近、美奈子とキスをしていないかもしれない。
レイがわずかに触れるだけのチュっとしたキスをして、それから逃げるように廊下に出て行ってしまった。
「………え?何?」
美奈子はあっけにとられているみちるの頬にキスをして、それから唇を尖らせて子供用の椅子によじ登ってしまうし。
「………あぁ、なるほど。なんか、わかってきたかも」
「はるか?2人に何かあったの?」
はるかが困ったように頭を掻きながら、うーん、なんて言って。一体何がどうなってしまったのか、みちるにはよくわからない。でも、レイのキスは“嫌”の味がして、致し方ないといったオーラが読み取れた。
美奈子に至っては、キスを頬にして“誤魔化した”感じがする。

みちるとキスをすることを、2人が嫌がってる。

まさかね、なんて思いながらも。廊下を走ってどこかに行ったレイを探すように、みちるは自室に行くついでに、物音のする洗面所に向かった。
「レイ」
なぜかしら、顔を洗っている。子供たちのために置いてある台に上って、ゴシゴシと口の周りを。
みちるとキスをすることが、そんなにも嫌なの。一体どうして。
そんなに嫌われるようなことをしたかしら、と思った。
レイは朝、キスをしてっていつもねだってくるのに。
声をかけても気が付かないようなので、みちるはため息を深く落として、取りあえず着替えることにした。



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Date:2015/03/18
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