【緋彩の瞳】 Dear My Friend

緋彩の瞳

その他・小説

Dear My Friend

「水野さん」
HRも終わり、帰ろうと机の横の鞄を手にしようとすると、男の人の声で名前を呼ばれた。
顔を上げるとクラスメイトの子。名前は知っているけれど、挨拶さえほとんど交わした記憶のない人だった。
「どうしたの、後藤君?」
「君、TA女学院の火野レイさんのお友達だよね?」
「………えぇ」
レイちゃんと仲間になってから3か月。“あのTA女学院の火野レイさんとお友達なの?”という質問は、塾と学校を合わせて、10人くらいに聞かれた。うさぎちゃんもまこちゃんも、同じようなことを聞かれたことがあるって言うから、本当に有名人と言ってもいいかも知れない。
「その、これを渡してくれないか?」
多くの人たちは、レイちゃんを知っていると言う答えだけを聞いて、羨ましそうな表情だけを見せて去っていく。亜美と友達になりたいと、明らかにその先のレイちゃんを見越したうえで言ってくるような女の子もいた。
「……ラブレター?」
「あ、いや。まぁ、そんな重たいものじゃないけど」
真っ白い封筒に火野レイ様と書かれてあって、裏には後藤幸人という名前。
「じゃぁ、何かしら?こういうのは、直接本人に渡した方がいいわ」
「いや、見知らぬ人からのものを受け取ることはないって、みんな言ってるからさ。君は友達だろ?クラスメイトの頼みなんだから、聞いてくれないか?中は僕の携帯のアドレスだから、よければ連絡欲しいって」
レイちゃんの携帯電話の情報なんて、麻布の多くの男の子が、そして女の子たちが欲しがっているものを、返信してもらうということで手に入れると言うなんて、安っぽい考え方。
「でも、絶対に連絡なんてしないと思うわ」
「渡してくれたらそれでいいし。返信がないからって、別に水野さんに催促したりしないよ」
同じクラスで勉強をするクラスメイトなのだから、彼がこまめに携帯をチェックなんてしていたら、亜美だって気まずい思いをするに違いない。
「……あの人は、誰からも何も受け取らないと思う」
「いいから、いいから!友情だって思ってよ!」

それは、どっちに対する友情なのかしら。

このクラスメイトの男子に対して、友情というものを抱いたことなど10秒すらない。
押し付けられた封筒は受け取るつもりなんてないのに、結局、亜美の机の上に置かれて、彼は逃げるように教室から出て行った。

自分がラブレターをもらったら、全身に発疹ができるような大変なことになるというのに。
自分がとても大切にしていて、とても好きな仲間へと向けられたラブレターは


ビリビリに破いて、トイレに流してしまいたい衝動に駆られてしまう







「亜美ちゃん」
待ち合わせのゲームセンターには、レイちゃんだけしかいなかった。レイちゃんは入り口のすぐそばにある長椅子に足を組んで座っていて、その姿を遠目からいろんな人からの視線を浴びている。
「レイちゃん」
「お帰りなさい。うさぎたちは?」
「ただいま。まだ、ちょっと時間がかかるみたいね」
レイちゃんはとても自然に亜美に“お帰りなさい”って言った。亜美はその柔らかい微笑みに、出来るだけ同じような笑みになるように気を付けながら、口角を上げるのが精いっぱい。
「ここ、うるさいし。どうする?待ち合わせ場所を変える?」
「そうね」
会ったばかりの頃のレイちゃんは、ゲーセンという場所が何をするところなのかわかっていなくて、亜美が一通りゲームのやり方を教えてあげた。でもそれも、うさぎちゃんみたいにゲームが好きだったわけじゃないから、今はレイちゃんにとっては、単なる待ち合わせ場所に過ぎない。
「お茶しない?」
「えぇ」
亜美の腕を当たり前のように取って、絡めてきた。
亜美をちゃんと友達だって、仲間だって思ってくれているって、そんなことで確認している自分がいる。


アイスティにストローを突き刺して、氷を混ぜている様子を伺いながら、亜美はクラスメイトに押し付けられた封筒を鞄から取り出した。
「レイちゃん」
「何?」
「先に謝っておくわ」
「え……何を?」
「言い訳を先にしておくって言うことよ。あの、……これ……」
眉間にしわを寄せて、怪訝な顔を見せるレイちゃんの前に差し出した、真っ白い封筒。
レイちゃんのフルネームが書かれてある。


「…………」

大きく開かれた瞳
あからさまに引きつっている顔
封筒と亜美の瞳を何度も往復している視線

「え?……えっと……亜美ちゃん……」

レイちゃんは、こんな風に驚いたりするのね
こんな手紙なんて、嫌になるくらいもらってきたはずなのに

「ごめんなさいね。私はレイちゃんがこういうものを受け取ったりしないって言うことは、わかっていて、だから本当は嫌なの。でも、やっぱり、こういう気持ちは捨てる訳にもいかなくて」
渡さなくても、渡しても結果に変わりはないだろうけれど
渡せたという事実があれば、彼も諦めの一歩を踏み出すことは確かだ。
諦めてもらうためには、致し方のないことだと思いたい。


「………私たちは……ずっと、仲間なのでしょう?」

仲間で
大切な存在で
とても好き

「ごめんなさい。その……そうよね。うん、……突き返されたって言うわ」
だから、嫌がることを分かっていて、それでもこういうことをすればレイちゃんが不快だって思うことは十分に知っている。

でも
亜美は目の前でこの封筒を破ってくれるだろうその対応を見て
安心したいって思った
レイちゃんは、こんなものに興味なんてないって
目の前で確認したくて

「えっ?これって……亜美ちゃんから、じゃないの?」
「……いいえ……クラスメイトの男の子から、渡してくれって頼まれたの」
動揺しきっていた瞳は、何度も何度も亜美と机を往復して、触れることさえしなかった封筒を手に取って、ひっくり返して確認した。
「何なの?……誰これ?」
「えっと、だから、うちのクラスの男子で。渡してくれって押し付けられて、その……」

まさか、亜美からのラブレターだって勘違いをしてしまったのかしら。
だから、あんなにも驚いたり困ったり動揺したりしたのかしら。

「ま、…紛らわしいことしないでよ。っていうか最初にそう言ってから出してよね、もぅ……」
天を仰ぐようにして、溜息をついたレイちゃんは、緊張から解き放たれるようにソファーに背を預けた。
「ごめんなさい」
「もう、本当、どうすればいいのか……心臓が止まりそうだったわ」
「私がレイちゃんに自分の携帯の番号だとか、自己紹介を紙に書いてこんな風に渡すと思う?」
「だから、余計にその……本気なのかしらって。ごめん、そうよね、まさか。ちょっと自惚れ過ぎよね」
レイちゃんは封筒を手に取ったけれど、開こうとはせずに、間違いなく差出人の名前が知らない人だと確認して、それから捻ってゴミ扱いした。

そこには亜美の想いなんて込められていないのに
喉の奥で、何かが痛いって感じてしまう


「やめてよ、レイちゃん。私、そんな風に見える?」
「全然、見えないわよ。だから驚いたの。だって、亜美ちゃんはすごく大切な友達で、仲間で、ずっと、仲良くしていたいって思っているし、亜美ちゃんだってそう思ってくれているはずだって。だから、ごめん、なんか私、亜美ちゃんを失いたくないって、一瞬でいろんなことを考えてしまったわ」

喉の奥で引っかかる何かが
息を止めようとさせるから

亜美はアイスティを飲み干して、わざとらしく拗ねて見せた

「もういいわ。あ~ぁ、レイちゃんって私が好きじゃないのね」
「ごめんって、本当。でも、私と友達になったばっかりに、変なことを押し付けられて迷惑かけちゃってるみたいね」
「そんなの、気にしないわ。断りたかったけれど、押し付けられて。それに私が捨てるより、レイちゃんが捨てた方が、納得してくれるでしょうし」
「私の知り合いを利用する人間って、一番嫌いだわ」
「それ、伝えておくわ」
「押し付けられても、私が破く許可を出しているからって、その人の前で破いちゃって」
「えぇ……必ずそうするわ」

恋心は届くことすらなく
ドンドン破り捨てられる
でも、こうやって伝えようとする気持ちを行動に移すだけ
彼は勇気があるのだろう

勇気がない亜美は
好きだっていうことを悟られないように
傍にいることだけで満足できるように
痛む喉の奥に、想いを押し込んだ

レイちゃんは時々、残酷に優しい
好きだとさえ告げていない亜美の気持ちを
受け取ることなどありえないと、遠まわしに告げてくれる
そして、もし告げると“仲間”では、いられなくなる対応をするって
教えてくれた

レイちゃんと出会う前からずっと
その姿を追いかけていた
今、こうして目の前にいてくれて
2人で向かい合って
言葉を交わすことができている
名前を呼んでくれて、名前を呼ばせてくれて
仲間だって
大切だって
そう、言ってくれる
永遠にそれ以上を望むことが許されないって
心ではわかっているけれど、知らされたくはなかった


捻ってゴミ扱いされたのは
亜美の好きだと言う気持ちではないはずなのに

困らせたくはないから
ずっと傍にいて、笑顔を見せて欲しいって思うから

「モテるって辛いことだって、レイちゃんを見てお勉強になるわ」
「そんなことまで、勉強しないで」
「そう?」
「まったく。亜美ちゃんに免じて、燃やさないだけ感謝するように、付けくわえておいて」
「わかったわ」


燃やしてしまって、気持ちが煙になって空高くに消えて行けば
心から、レイちゃんという人を“仲間”として愛することができるのに


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Date:2015/03/24
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