【緋彩の瞳】 だから、そっとキスをした。 ②(R18)

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

だから、そっとキスをした。 ②(R18)

非常に、精神的に重苦しい内容になります。十分にご注意をして、自己判断で読んでください。








「おはよう、みちる」
「おはよう、せつな。亜美も」
「おはよう、みちるさん」
満面の笑みのみちるに迎え入れられた。
「レイは?」
「リビングよ」
「調子はどう?」
通されたリビング。1人掛けのソファーにレイはゆったりと腰を下ろしていた。せつなと亜美は目を合わして、頷き合う。
「レイ、おはよう」
返事はない。
2週間に1度の検査の日。2週間分のデータのバックアップとアップデート。レイの首に繋がれているコードの先にあるパソコンには、もうすでにアップデートが始まっていると表示されていた。
「せつな。モーター音をもう少し静かにできないの?」
「我儘言わないでよ」
「お風呂にも一緒に入れないのだって、いい加減に何とかして欲しいわ」
「防水機能は腕だけで精一杯よ。何度も言わせないで」
今日は散々みちるに言われ続けていた、唇の温度を人肌にするために、プログラムの追加をしなければならない。根負けしたのだ。
「みちるさん、唇の温度ってご希望はあります?」
「私の温度よりも少し低いくらいがいいわ。レイがそうだったから」
亜美はみちるの唇の表面温度を計測して、そこから-1.5度を標準設定して、パソコンに打ち込んだ。
「みちるさん、一応この画面のこの数字を変えたらその温度設定にできます。でも37度以上は出来ないから」
「わかったわ」
その他の機能に問題がないかを確認して、アップデートを終わらせる。充電まではあと数時間かかるみたいだ。
「私と亜美は、司令室に行くけれど」
「私も行くわ」
みちるはレイの唇の温度を確認するように、キスをした。
充電中は言葉をしゃべらない。
『REI-002、充電終了まであと2時間34分21秒』
パソコンの画面に書かれた数字を確認して、みちると3人で部屋を出た。





「美奈子」
「あ……」
美奈子は眠る仲間をじっと見つめていたその場を譲った。
「おはよう、みちるさん」
治療塩水の中で裸体をさらけ出し漂い、目を閉じている彼女。そのカプセルを抱きしめると、みちるさんは愛しそうにその向こうの彼女に、微笑みを投げかけている。
「レイ」
「………ゆっくり過ごして」
美奈子はそっと部屋を出た。



「ロボットの調子はどう?」
みちるさんの前でロボットって呼んだら、ひどく嫌な顔をされる。だからあのロボットREI-002をみちるさんの前ではレイちゃんと呼んでいる。未だ眠り続けて、そしてもう、二度と目が覚めない本物の彼女をそれでも生かしているのは、エゴなのか何なのか、わからない。いや、本当はわかっていて、身体中が痛い。だから、わかっていないフリをしていたい。
「アップデートもして、そこそこね。みちるの我儘で唇の温度設定もできるようにしたわ」
「………やめなよ、そういうの」
「仕方ないでしょう。一緒に食事を取ることも、お風呂も無理なんだから」
みちるさんの精神状態は、もうとっくに異常を通り越している。何度も死のうとして、何度も殺してとせがまれて、どうしたら生きてくれるのだろうと悩んだ結果がこれだった。はじめ、美奈子が変身ペンでレイちゃんに成りすましたときに、そうじゃないって殺されかけた。言葉の使い方も仕草も、一つも似ていない。だから、生身の人間だとお互いに不幸でしかなくて、せつなさんが未来の王国のテクノロジーを現代に持ち込み、ロボットREI-002を作り出した。みちるさんはこんなのはレイじゃないと、やっぱり最初は嫌がったけれど、言葉を覚え笑顔を覚え、あらゆる生活方法をアップデートさせるたびに、受け入れてくれて、そして、愛しい存在にまでなっていった。
まったく食べようとはしなかったご飯を、REI-002が作るようになってから、みちるさんはきちんと食事をするようになった。REI-002がみちるさんを生かしている。みちるさんとセックスをして、みちるさんと手を繋いでデートをして、みちるさんの愛を一身に受けて、“ロボットREI-002”はそれでも言葉で愛しているというセリフを言えても、その感情について理解できることはない。愛を感じて身体を濡らすこともできない。
「もう1年か……あり得ないことなんだけどさ、本物が目を覚ました時はどうする?」
「壊すわよ。みちるが本物に気を取られている間に」
「……本物がみちるさんを覚えていなかったり、言葉を忘れていたりしたら…そんなレイちゃんなんていらない、ってならない?」
本物の方が捨てられたりしないだろうか、と不安にならないわけでもない。今は仮死状態で眠っているレイちゃんを愛しそうに眺めていても、いざ、奇跡が起こって目を覚ました時に、何もかもを綺麗に忘れてしまっていたら。
そんなレイちゃんよりも、REI-002の方がみちるさんにとって、都合がいいに決まっているのだから。
「もしそうなったら本物のレイを守るために、やっぱりロボットを破壊するだけよ」
「うん、そうだね」
それでみちるさんが嘆きの雨に殺されたとしても、もう、どうすることもできないのだろう。
「私たち、もう嫌になるくらい罪を重ねたわ。レイちゃんはこんなことを1ミリだって望んでいないのに」
亜美ちゃんはガラスの向こうで、カプセルを抱きしめて何か話しかけているみちるさんの姿を、悲しそうに見つめている。
その姿はもう、かつての海王みちるではない。
「人はいつか死ぬわ。事故でも病気でも。こんなことをしてまで、意志もなく身体をこの世界に繋がれていることなんて、レイちゃんは望んでいない」
敵に一人でいるときに囲まれ、重体となった彼女のその身体を、美奈子たちが収容してしまった。表向きは行方不明のまま。身体の力を出し尽くしたレイちゃんを助けるすべはもう、なかった。人間としての死に等しく、星はもう、輝きをほとんど失っていた。
「私たちのエゴだけどさ、私は……みちるさんがお別れの決意をしたら、本物のレイちゃんの生命維持装置のスイッチを切ってもいい。今だって、その気持ちよ」
その時にイタリアにいたみちるさんと、せめて体温がある間にお別れを。そのつもりだった。身体を抱きしめて、愛しているって言ってあげて、そして死を受け入れてくれたら、と。
「でも、ロボットの方がずっと傍にい続けるっていうのも、いつまでもそれが許されるだなんて思えないわ」
亜美ちゃんはこの2週間の記録を美奈子に渡してくれた。REI-002が使った言葉を文字にして読んでも、痛くて苦しいだけ。
「もちろんよ。みちるさんがどちらのスイッチも押す気になるまで、待つしかないわ」
月の王国の銀水晶の力と未来の王国の力。
本来ならば生きていけないはずの火野レイと、本来こんなテクノロジーがこんな現代にあってはいけなREI-002。

どちらも、存在が許されない。

仲間たちは、レイちゃんを失いたいなんて思っていないけれど、今を生きているみちるさんだって、大切な存在に変わりはない。
火野レイが世界でただ一人、深く愛した人だから。
レイちゃんが愛したみちるさんを、守るために。


あぁ
でも
何を守ろうとしているのだろうか



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Date:2015/03/25
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