【緋彩の瞳】 だから、そっとキスをした。 ③(R18)

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

だから、そっとキスをした。 ③(R18)

非常に、精神的に重苦しい内容になります。十分にご注意をして、自己判断で読んでください。








「もうすぐ、誕生日ね」
みちるのいない世界を彷徨うその閉じた瞳は、永遠に開かれることがないと、本当はわかっている。だけどまだ、この世界からこの肉体がなくなってしまうということを受け入れられなくて、ずっと、ずっと答えを引き延ばしたまま。
「あの子はケーキだって口の中に入れることができないから、何をしようかしらって困っているのよ」
カプセルの向こう側にどれだけ声をかけても、耳はみちるの声を捉えることなどできる訳もない。分かっていても、この愛する人の姿を見つめて、声を出さずにはいられない。
「ねぇ、レイ……もう、殺して欲しいって思っているのでしょう?」
いつも、この身体を見つめると、スイッチを切ってみちるも一緒に死にたい衝動に駆られる。あのREI-002も破壊して、もう何もかもを終わらせてしまいたい、と。
「でも、私には死なないで欲しいって思っていることくらい、わかっているの。ねぇ、どうしたらいいの……」
一緒に死ぬなんて、レイは許してくれないだろう。その先の新しい世界ではきっと、レイには再びめぐり会えない。
「………もう、お互いに限界なのね」

あのREI-002を、愛しいと思ってしまう。

愛しいと思い、キスをして、抱きしめて、セックスをして。レイが生きている錯覚の中を漂っている間は、レイが仮死状態だなんて夢なのではないかと、そんな思いさえ感じる。あのREI-002が、自らの感情をコントロールして、自発的に愛を囁いてくれて、レイのように照れたり拗ねたり、そういう人間らしいことができるようになってしまえば、もう……みちるはロボットにのめり込んで、人の道を大きく踏み外すことになるだろう。
もう、すでに踏み外していることくらい、十分に分かっている。
こういうことを繰り返していれば、いつか自分で自分が嫌になって、あの子を壊したいという衝動に駆られるかもしれないし、そうなればその方がいいって思っていた。むしろそう願うことを期待している自分がいる。
でも、唇の温度まで設定が可能になってしまえば、また、もっとあの子といたいという想いが身体中を痛めつけてくる。

繰り返される矛盾を
どうやって抑えつけることができるのか…

「レイ……」
みちるの認証だけではこの部屋に入れないように、美奈子は普段ロックをかけていた。仲間の目が背中に注がれていることくらい、知っている。心配と憐れみを注がれていることくらい。
「……桜が咲いているのよ。今、満開なの」
スイッチを切ってこの身体を抱いて、満開の桜の下に埋めてあげたら、レイは喜んでくれるかしら。
レイが本当に望んでいることだけを考えると、スイッチを切る以外はなくて。
みちるが生きて行くことしかなくて。
「…………ごめんなさい、やっぱり決心がつかないの。今日はもう帰るわね」
触れることができないその唇。代わりにあの子にキスをして、瞬間だけ満たされた気持ちになって。

それでもいいって、思える。




「大丈夫?」
「えぇ。レイはこの1週間で、何も変わらなかった?」
「うん、何も変化はないわ」
「そう……」
みちるさんが部屋を出てきたので、美奈子はヴィーナスの認証でロックをかけた。
「気分転換にお花見しない?まこちゃんが、今、お弁当を作ってるんだ。うさぎたちも来るって」
美奈子が明るい声と、微笑みをくれた。
「でも充電が終わったら、あの子の様子を見ないと」
「大丈夫よ。ちゃんとこっちで見ておくし」
「……そう」
「行こうよ。こっちのレイちゃんの様子だって、24時間監視しているから大丈夫」
「………そうね」
美奈子はみちるさんの腕を取って、司令室の外に連れ出してあげる。死にそうな顔しかしない。死にたがっている空気をずっと携えたままのみちるさんに、生きてもらわなければ。
それが、レイちゃんが生きたという証なのだから。



「みちるさん」
「………レイ」
充電を終了させたREI-002を、亜美ちゃんが遠隔操作をして、みんなでお花見をしていた公園に歩いてこさせた。キチンと服を着させて、帽子とマスクをさせているけれど、火野レイだ。だけど生きていた頃の火野レイを知っている人に遭遇した場合は、別人の名前を名乗らせて、相手が誰なのかわかりません、人違いですと言うように設定してある。奇跡的に、そのコマンドを使ったことはない。亜美ちゃんは誰ともすれ違うことの無いようなルートを計算し、ここまで連れてきたんだろう。
「みちるさん、お昼ご飯の時間ね」
機械的ではなく丁寧な話し方。帽子とマスクを外すと、完璧な火野レイが姿を現す。
「えぇ。今日はレイの手作りじゃないのよ」
「そう。わかったわ」
だけど、人間らしさというものを感じたりもしない。感じないように、美奈子が自分に言い聞かせているからだろう。
みちるさんはREI-002を亜美ちゃんがコントロールさせたことを、不快だと言わんばかりに睨んだ後、それでも手を取ってレジャーシートに座らせた。REI-002は普段、みちるさんがみちるさんのやりたいように動かしているけれど、亜美ちゃんやせつなさんが外からこうやって、コントロールをすることは簡単にできる。何があるかわからないのだから、致し方がないし、みちるさんの家の中にいる間は、基本的には干渉をしないようにはしているつもりだ。ただし、本人に秘密で会話のデータを美奈子は読ませてもらっている。

あぁ
吐き気を覚える

仲間の輪の中に入ったREI-002は、あのカプセルの中にいる美奈子が愛した仲間とは全く別の個体だと言うのに、パッと見た瞬間、火野レイだと思ってしまった。
みちるさんもそうやって、いつの間にかこの“ロボット”が火野レイだという錯覚を起こして麻痺していったのだろうか。美奈子は泣きたい衝動に駆られながらも、無理やり引きつる笑顔を見せて、みんなもそれに従うように必死に笑った。
亜美ちゃんは、仲間たちの本音をお互いに見せたかったのかも知れない。REI-002はみちるさんやほかの誰かの感情そのものを認識することはもちろんできないし、相手が悲しんでいることや怒っていることを心で理解することはできない。そういう機能を着けようと思えばできなくはないらしいけれど、せつなさんはみちるさんに“不可能”と伝えている。だから、みちるさんが泣きわめいても、怒鳴りつけても、プログラムの中ではそれに対する反応は“微笑んで、愛していると告げる”ことだ。だから、みちるさんがREI-002に対して気を遣ったり優しくすることなんて、何の意味もない。
ただ、レイちゃんだと思っているのならば、そういう感情が出ることは、当たり前のことなのだろう。
「さて、食べようよ!ね、沢山食べて!」
まこちゃんが、取ってつけたように明るい声を出す。みんなのぎこちない笑み。美奈子は大声でいただきます!って声を出して、おにぎりを掴んだ。
みちるさんは最後まで、何も口にしようとはしなかった。




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Date:2015/03/26
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