【緋彩の瞳】 だから、そっとキスをした。 ④(R18)

緋彩の瞳

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ポイ捨て小説

だから、そっとキスをした。 ④(R18)

非常に、精神的に重苦しい内容になります。十分にご注意をして、自己判断で読んでください。








「………なぁ、レイ。目を覚まして、みちるに“馬鹿”って言ってやってくれないか」
はるかにはぎこちないだけの、桜を楽しむこともできない花見だった。みちるはロボットと手を繋いで帰っていった。四肢を人肌に保つことができるらしいそのロボット。美奈子は今日、ロボットの唇を、レイと同じような温度にできるようにしたと言っていた。はるかは目を覚まさないレイの傍に椅子を持ち込み、その開かれない瞳に問いかける。
「僕がこのスイッチを押してやったら、みちるは救われるのか?レイだって、もう嫌なんだろ?」
こんなつもりじゃなかった。イタリアにいたみちるに、せめて心臓が動いている間にお別れをさせてあげようって、それだけだった。レイはもっと早くに楽になりたかったに違いない。自分たちのエゴで良かれと思った結果、みちるを狂わせ、レイを苦しめ、誰もが罪を分け合い背負うことになった。
「……………みちるのあんな姿、レイも見たくないよな」
それでも、このスイッチを切る権利を持っているのはみちるだけなのだ。みちるはいつか、自分の手でこのスイッチを切る決断をしてくれる。その時にあのロボットをどうするつもりなのだろうか。それがわからない。
もっともっと性能を上げていって、レイの記憶を移植できるようになってしまえば、いや、そんなまさか。そんなことを想像して、はるかは無意識に落としていた涙を手の甲で拭った。レイがもう、仮死状態だと分かった時に、嫌になるほどみっともなく泣いて、それで終わらせるつもりだった。
みちるが泣き叫ぶ姿でさえ、みんな涙をこらえて、見守っていた。

あぁ、吐き気がする

「苦しいだろう、レイ……」
星はその使命を終えたのなら、どこへ行ってしまうのだろう。
また、星になって生まれ変わってくるのならば、この魂はいつかきっと、はるかたちの元に帰って来てくれるだろう。
でも、そんな夢や希望を語っても、どうしようもない。
「レイ………もう嫌だって…言ってやってくれ」
みちるだって本当はわかっていることなのに。もう、どうすることもできない。ロボットを壊すことも、レイの命の炎を消してしまうことも。
「レイ………僕たちは、今を生きている人間を選ぶしかないんだ。それがレイの望んでいることだって知ってるんだ……」
ここに来るたびに、いつもスイッチに腕を伸ばしてしまう。すべての責任を背負って、それでもそれがいつか正しかったと認めてくれる日が来るのであれば、と。
「ごめんな……もう少し、我慢してくれ」
ただ、じっとこうやってレイを見つめるだけ。週に1度、はるかは1人でここに来て、2時間ほど寄り添っている。自分たちのエゴが仲間を苦しめていることを、背中に刻み付けるため。
『はるかさん』
ロボットの無機質な声が初めてはるかの名前を呼んだ時、君はレイではないと声に出しそうになった。だけど、今日、あのロボットに何度も名前を呼ばれても、その感情が薄らいでいる自分がいた。

怖い。
吐き気がする。

一体、この気持ちは何なのだろう。

みちるが早く、あのロボットを破壊してくれなければ、今度はあのロボットを本気でレイだと思いたい衝動が抑えきれなくなりそうで怖い。





「あぁ。……おはよう、レイ」
「おはよう、みちるさん」
レイは相変わらずみちるより早く起きて、朝食の下準備を終えていた。みちるは1人でシャワーを浴びて、1人分だけ並べられた朝食の前に腰を下ろす。レイは作られた笑みを浮かべて、みちるが食べるのをじっと見つめるだけ。
「もう、桜が散ってしまうのね」
満開宣言から4日。昨日の雨がほとんどの花びらを落としてしまった。
「そうね」
「花びらが落ちるのを……レイはすごく嫌がっていて。見たくないって、いつも機嫌が悪かったの」
「そうね」
「…………えぇ、そうなのよ」
この子は4月の終わり頃に完成した。だから桜というものを観たのは今年が初めて。答えようがない質問に対しては、“そうね”という言葉をよく使う。レイは興味のないことに対してはよく、“そうね”って適当に返していて、いつもみちるが拗ねていた。
毎日この子にセックスをねだって、キスをして、その虚しさが自分を追い込んで、破壊したくなるのなら、その方がいい、そう思っている間に1年が過ぎた。
「………レイの誕生日をせめて、祝ってあげたいって…でも、そうね。あなたの誕生日はあなたの完成した日なのだから、17日じゃないわね」
「私の誕生日は4月17日よ」
「………えぇ、そうよね。そうなのよ」
温かい想いと冷えている心臓は、みちるがなすべきことを、いつまでも先送りにすることをそろそろ許してはくれないだろう。
「誕生日をお祝いしてしまったら、また……先送りをするのね、私」
「誕生日を、お祝いしてくれるの?」
「違うのよ…………ごめんね、“REI-002”」
この子を、レイを、その名前で呼んだことは今まで1度もなかった。
美奈子が名前を付けたその002という番号が、みちるを不快にさせていた。わざと不快にさせるように、美奈子は番号を付けたのだ。001は治療塩水に浸けられたままのレイを指していて、本当のレイの魂はもう、戦いに敗れて意識を失くした時に、星に還ったのだと。そのことで、美奈子の頬を叩いて、馬乗りになって首を絞めて、周りに止められた。

だけど、美奈子は正しかった。
美奈子はいつだって、正しい。

ただ一つ、過ちがあるとするのならば、すべてをみちるの意思に委ねたことだ。
001も002もどちらのレイも、みちるの我儘によって生かされている。
「………レイ、愛してるわ」
「私も、みちるさんを愛しているわ」
毎日繰り返しては、同じ言葉が返って来て。
それで満たされた想いと同じくらい、罪が増えた。
だんだんその罪が痛みとさえ感じなくなっているから、幸せかもしれないと言い聞かせる日もあった。幸せを感じたことだって多かった。
「愛しているのよ、レイ」
「私も愛しているわ」
「あなたしかいらないわ」
「みちるさんだけよ」

火野レイを愛していた
そのことが幸せだった


静寂の中、REI-002の体内のモーターが、心臓の代わりにその機械を動かし続ける音だけが耳を刺激する。
「………馬鹿ね、私。1年も掛けないと決心がつかないなんて」
レイがあんな風になってしまって、明日でちょうど1年になる。
仲間全員が当然のように集まって、眠り続けるレイを囲む。
「ごめんなさい。私はレイだけを愛しているのよ……愛していたの。あの子が好きだったから、あの子の願いを叶えられないまま、こんな風に生きているなんて……本当に、このままズルズルと、あなたを傍に置いてしまいそうなの」
アップデートをするたびに人間らしくなっていけば、いずれ本当にみちるの感情に対してみちるの欲しい反応をくれる日が来るのではないかという気がしてならない。本当のレイと寸分違わなくなってしまえば……
そして、おそらくそれはきっといつか可能になるだろう。だから、仲間たちはみちるの暴走を静かに見守りながらも、程よく手綱を引いているのだろう
何もかも、誰がどんなことを考えているかなんて、よくわかっている。


だけど、みちるがどれだけレイを愛しているかなんて、みちるだけにしかわからない。

「私も、みちるさんのことを愛しているわ。深く愛しているわ」

REI-002に初めてその台詞を言われた時、思わずきつく抱きしめた。感触は人間と同じで、艶のある髪も完璧に再現されていて、素直に救われた想いだった。

でも、もぅ、その感情を持てない。最初から、持ってはいけなかった。

「………ありがとう、REI-002」
愛しているという言葉を言わせるように設定したのは、美奈子。

虚しい想いと
救われる想いと
満たされる想いと
息苦しい想いと
壊したい想いと
泣き叫びたい想いと

何もかもが渦を巻いて、みちるの心を飲み込んでしまって

それが、美奈子の狙いだった。


「あなたがいてくれて、きっとよかったと思うわ」
「私もよ、みちるさん」
「ありがとう」
みちるが微笑みを見せると、それを認識して、REI-002も口角を上げてくれた。
「………愛しているわ、REI-002」


「REI-002は、あなたを深く愛しています、海王みちるさん」



みちるの欲しい言葉ではないその台詞は
初めてREI-002が自分の意思を伝えてくれた気がする


だから、そっとキスをした



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Date:2015/03/26
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