【緋彩の瞳】 だから、そっとキスをした。 ⑤(R18)

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

だから、そっとキスをした。 ⑤(R18)

非常に、精神的に重苦しい内容になります。十分にご注意をして、自己判断で読んでください。








昨日の夜、せつなさんのマンションにいるときに、REI-002のコマンドエラーでパソコンが5秒ほどアラームを鳴らした。
せつなさんが言うには、コマンドにないセリフをREI-002が口にしたらしい。美奈子は、すぐさまその30分前からの会話のデータを開いた。みちるさんが口にした言葉に対して、数百の受け答えをインプットしている。その中にみちるさんを「海王みちるさん」と呼ぶコマンドはない。そして、みちるさんがロボットの名前を呼ぶという想定をしていない。
「………ねぇ、せつなさん。ロボットに感情が芽生えることってあるのかな」
「今のREI-002には取り入れてないわ」
「そっかREI-002は、みちるさんにその名前を呼ばれて、一瞬、赤の他人だと誤認したのかしら」
「みちるだと認識をして答えているはずよ。そこまで性能を落としていないわ」
「じゃぁ………きっと、自分が壊されるって……わかっちゃったのかな」
「みちるは、壊す意思があるの?」
「うん、そうみたい」
文章を読んで、美奈子はみちるさんが何をしようとしているのかが分かった。
1年掛けてようやく、みちるさんはレイちゃんの魂がこの世界からなくなった日に、肉体を星に還す決意を固めてくれたのだ。
そして、REI-002とも決別をすることにしたようだ。
「ねぇ、せつなさん。あのロボットには感情はなかったけれどさ、ロボットに感情移入するのが、人なんだよね」
「………そうね。みちるはよく……決心してくれたわ」
きっと明日こそ、って毎日思いながら、みちるさんとREI-002の会話を読み続けてきた。
美奈子だけが1人で。
「私が死んでも、せつなさんはロボットなんて作る気ないでしょ」
「ないわよ。あぁ、死んだのねって思うだけよ」
「まぁ、出来れば肉体を燃やして灰にして、その灰を飲み込むくらいはしてもいいけれどさ」
「栄養にもならないから、遠慮するわ」
「何それ、言うと思ったけど」
美奈子は身体中から痛みを吐き出すように、深い深いため息をついて、せつなさんの膝に対面で座った。
「美奈子?」
「………私たちがキスもセックスもしなくなって、1年か…」
「そうね。あなたはもう、二度としないと思っているわよ」
「うん……」
1人の時に、嫌になるほど泣き叫んだ。
レイちゃんの無理やり生かされた肉体の前で、ずっとずっと泣いて泣いて、咽び泣いて、叫んで。
美奈子の愛する火野レイを、こんな姿にしているみちるさんのことが許せないと思いながらも、それでも、心臓が動いているその機械音だけが、かすかな希望のように思えて。
美奈子が強い意志を持って、みちるさんを殴り返してでも、001とわざと名付けた彼女の肉体を終わらせてしまうことができたら。
だけど、みちるさんにその責任を押し付けたのだ。
悪になり切れなかった。美奈子だって、あの肉体を見ていたい気持ちを消せないのだから。
「あなたは、1年間よく耐えたわ」
「……これでレイちゃんも楽になれるね」
縋るように、その愛する人の身体に侘しい気持ちを押し当てる。
「………人の温もりが恋しいって、痛いくらい思い知らされるよ、せつなさん」
「えぇ」
「みちるさんは狂ってるって思ってた。そう思うようにしてた。でも、こんな風に愛する人の温もりを、もう二度とみちるさんは感じられないんだよ」
星の輝きを眺めても、身体は暖かくなんてならない。
「えぇ」
「だから、REI-002がいてくれてよかったのよね」
「そうね。あのREI-002も、役目をちゃんと果たせたのよ」
キスの温度で愛しいと感じられるのなら、それでもいいって。
あぁ、本当はその気持ちが痛いくらいわかる。
でも、わかってしまうのが怖くて、せつなさんに触れられなかった。
愛する人とセックスをして、愛で満たされた感情を持ってしまったら、みちるさんの愛に同調をしてしまったに違いない。みちるさんと一緒になって、もっと精巧で完璧なクローンのようなロボットを作り上げてしまっていただろう。
そして何よりも、みちるさんが背負う苦しみを美奈子だって背負わなければならなかった。切り離して、理性を保っていることが、美奈子に課せられた使命だ。自分だけ愛する人の温もりを求めることが、出来るはずもなかった。
「………泣きたいけど、泣くのは明日にする」
「いいのよ、別に」
「いいの。だから、あと少しこうしていてよ」
「いつまででも」

縋るのは人の温もり
愛する人の温もり
唇の温度を感じていたい



だから、そっとキスをした


関連記事

*    *    *

Information

Date:2015/03/26
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/504-a2336652
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)