【緋彩の瞳】 だから、そっとキスをした。 ⑥(R18)

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

だから、そっとキスをした。 ⑥(R18)

非常に、精神的に重苦しい内容になります。十分にご注意をして、自己判断で読んでください。








みちるがREI-002の手を引いて、司令室に入ってきた。仲間たちは2人を囲むように自然と円になっている。もしかしたら、みちるがロボットを壊すと言うかもしれないと、事前に伝えていた。だけど、やっぱりやめると言い出しかねないことも。どんな言葉でも、みちるの意思を尊重させる。そのことは全員で確認し合った。
「………せつな。REI-002を返すわ」
「そう。データはすべて破壊するけれど、構わないわね?」
「えぇ。朝、設定をし直して、もう言葉を出さないようにしておいたわ」
決心が揺らぐからに違いない。REI-002は握りしめたみちるの手を放して、1人で歩いてせつなの前で立ち止まった。
「感傷に浸りたくはないの。だから、すぐに連れて行ってあげて」
「わかったわ。10分以内に帰ってくるから」
みちるは何もREI-002に言葉をかけることもなく、視線を逸らすように俯いていた。言葉をかけてしまえば、感情を渡してしまっていた過去を思い出して、痛くて苦しいだけだろ。変身をしたプルートは美奈子が頷くのを確認して、時空の扉の向こうへと、REI-002を連れて行った。


感情を持たせなかったREI-002は最後にみちるが設定をしたため、口を開くことはない。
「………あなたも幸せだったのね。いい仕事をしたわ」
異空間の狭間にREI-002を連れて行き、姿かたちなく爆破させると最初から決めていた。
『せつなさん』
「………いい子ね、REI-002」
『せつなさん』
これは幻聴なのだろうけれど、機械の声がそう呼んでくれた気がした。生きていたレイが微笑みかけてくれるあの優しい温もりを、せつなはREI-002に授けたりしなかった。いや、授けることはできなかった。人の持つ温もりを、ロボットが持つことなど、永遠にできない。
「お別れよ。こんなテクノロジー、本当にいらないわ」
「せつなさん」
「……みちるは大丈夫だから」
唇ではなくて、内蔵されたスピーカーがせつなの名前を呼んだ。もしかしたら、美奈子が最後に余計なことをしたのかしら、と思った。
でも、だったら“みちるさん”と呼ぶだろう。
「コマンド遠隔操作、認証コード・セーラーマーズ。冥王せつなさんに、火野レイよりメッセージを預かっております」
「………何なの?」
どういうことだろう。スピーカーから聞こえてくる言葉が自爆設定ボタンを押そうとする指を寸で止めさせた。
「認証コード・セーラーマーズ。火野レイよりメッセージを預かっております」
「レイ……レイ。レイなの?」
美奈子ではない、そう確信できる。あの子はレイの名前を使うことは絶対にしない。
「火野レイよりメッセージがあります。冥王せつなさん、メッセージをお聞き願えますか?」
「………えぇ」
せつなは、一字一句漏らさないようにとREI-002のスピーカーに耳を傾けた。レイの声でレイの想いを、レイがどうやってこのREI-002を操作したかだなんて考える必要なんてない。
ただ、じっと、耳を傾けた。
「わかったわ。確かにみちるに伝えるわ。あと、美奈子にも」
「それでは、自爆を開始いたします。ボタンを押してください」
「じゃぁね、REI-002………ありがとう。あなたは火野レイと同じように…優しい子ね」
プルートは自爆設定のボタンを押した。10秒のカウントの間、口角を上げてREI-002は微笑みを投げかけてくれる。
せつなを見たら、微笑むように設定なんてしていたかしら。そんなことを思っていると、目の前でその“ロボット”は粉砕した。

マザーボードが焼け焦げて、形さえ残っていないのを確認すると、プルートは急いで時空の扉を開けた。

涙は、まだ、流すべきではない
美奈子がそれを許さないだろうから
これはロボットだったのだ
優しいロボットだったのだ



「ただいま」
「………ちゃんと、上手くいった?」
「えぇ。役目を終えたわ」
「……そう。ありがとう。一つ、重たかったものを、身体から剥ぐことができたわ」
みちるさんは青白い頬で笑って見せた。一睡もしなかったと容易に想像できるけれど、誰もその顔色の悪さを指摘なんてしない。
大仕事を成し遂げるつもりなのだ。その意思が見えている。
「002は役目を終えた。みちるさん、やっと、決心がついたんだね」
「……もう、レイを苦しめ続けることはできないわ」
「そうだね」
「あなたたちを苦しめて、エゴを貫くことは……レイが許してくれないもの」
「そうね、まったくよ」
美奈子はロックを外して、火野レイの肉体のある部屋に入った。仲間全員がその愛した人の裸体を囲む。
「………治療塩水を抜いて、身体中に付けているコードを全部外しても、5分くらい心臓は動いていると思うわ」
亜美ちゃんがそう説明をして、それからみちるさんに最後の意思を確認するようにと美奈子を見つめた。
「その5分はみちるさんにあげる。しっかり抱きしめてあげたらいい」
「………死なないって約束をするから、2人にさせて」
美奈子は口を閉じる。自分の心臓が嫌になるくらいうるさく聞こえてきて。身体が震えていると気付かれないように、つばを飲み込んで小さく頷くことしかできない。
「みちる、10秒でいいから、僕たちにも別れを言わせてくれ」
「……えぇ、もちろん」
はるかさんが懇願するようにそう言った。亜美ちゃんが、みちるさんに塩水を抜くボタンはこれだと、指を差している。

みちるさんは、ためらうことなくボタンを押した。



排水溝に流れていく水音。少しずつレイの裸身が空気にさらされていく。亜美がカプセルの蓋を開けた。
「レイ」
まだ身体半分が塩水に覆われたままの、その腕をはるかが握りしめた。
「レイちゃん」
「レイちゃん」
次々にレイの手を握りしめている、仲間たちが泣き叫ぶ声を、みちるはどういう感情で受け止めればいいのか、わからなかった。1年前にもう、この儀式を終わらせて、本当ならば今頃、レイの思い出を語り合って、愛していたことを懐かしんで、それでも生きて行こうって誓い合っていただろう。
「大好きよ、レイちゃん。また、星になって生まれ変わったら……きっと私たち、また巡りあえるから」
「そうだよ。星の光が、ちゃんと、みちるさんの光が、レイちゃんを導いてくれると思う」
おとぎ話の世界のような言葉を、美奈子とうさぎが口にする。
でも、そう信じてさえいれば、生きて行ける気がした。
「みちる、タオルでくるんでゆっくりおろすから、抱き留めてあげられるか?」
「………えぇ」
真っ白いバスタオルで裸体を覆い尽くし、ゆっくりとはるかとまことがレイを抱き起した。何一つそれに反応をせずに、ぶらりと動かない腕や指先。
もう二度と、柔らかく愛のある指先が、みちるの身体に触れてくれたりしない。
「レイ」
とてもとても冷たいその身体。昨日抱きしめて一晩を明かしたあのREI-002の方がずっと温かかった。
「レイ……ごめんね、苦しませて」
身体の水分を拭き取り、バスタオルで顔を拭った。足の間にしっかりと身体を抱き寄せて、冷たい身体をただ、抱きしめる。
あの時に、すぐにでもこうやって抱きしめてあげていたら、まだ温もりを感じられたかも知れない。
今更になって後悔をしたって遅いことなのに。
「5分、外にいるわ」
美奈子がそう言って、全員が出て行った。視線を感じなかった。みんな、ガラスの向こうで背を向けていた。
「……レイ。愛してるわ。ずっとあなただけを愛してる。でも、あなたを愛してしまったせいで、ずっと、こんなにも冷たい身体でいさせたのね……」
雫をポタポタと落とす黒髪は、梳いたら簡単に抜け落ちた。こうやって、生きてはいけない身体を無理やり生かすと言うことも、いつかは限界を迎えるのだろう。
「レイ」
きつくきつく抱きしめると、脆く壊れてしまいそうで怖い。


だから、そっとキスをした


ひんやりと、とても冷たくて
もう、火野レイはこの世界にはいないのだと……やっとわかった。

あのREI-002の唇の温もりを思い出してしまう
でも、レイはこの子だ
かつて激しく抱き合って、浴びるほどのキスを交わしたこの身体を愛していた
冷たくても、温度がなくても、たとえ永遠に目を覚まさない身体でも
このレイだけでよかった
もう、舌を絡ませあいながら、愛を囁いてくれるレイはこの世界にはいない
この唇を覆って注ぐ愛は零れ落ちて行くだけ
それでも
抱き締めて、唇を離すことができなかった
愛した人の心臓が止まるその瞬間を、このままでいたかったから




「……10分超えている」
時計を見て、美奈子は扉を開けた。じっと唇を重ねていたみちるさんは、その声に反応して、そっとレイちゃんを解放した。
「レイが……泣いているように見えるわ」
「瞼の中に入っていた治療塩水が溢れただけよ」
亜美ちゃんがそっとその首筋に指の腹を押し当てている。
「そう、ね」
レイちゃんは、泣いたりなんてしない。清々しい想いで欲しになってくれるはずだ。
「………よかったわね。ちゃんと、みちるさんの、腕の、中で……」
震える声は、“死んだ”と言い切れずにいる。天井を見上げて、零すまいとするその仲間の涙は、レイちゃんの頬にぽたりと落ちた。
「レイは………もう、この世にいないのね」
「………でも、レイちゃんは未練なんてないよ」

レイちゃんはみちるさんを愛して
みちるさんに愛されて
確かに生きていた

「愛してるよ、レイちゃん。また、生まれ変わったら……みちるさんと恋をしてね」
心臓が止まり、紫色になり始めている唇。みちるさんはその身体を抱いた腕を美奈子に差し出した。
「………みちるさん」
「星へと、還してあげましょう」
「うん」
「レイ……また、……また、会いましょう」
美奈子はその冷たい亡骸を受け取って、頬を撫でた。笑っているように見えたのは、そう思いたい自分の願望なんだって、言い聞かせた。


星よ どうか 嘆きを
そして憐れみを
この神々しく輝く星が
もう一度
愛する人の待つこの星に
帰って来られますように



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Date:2015/03/26
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