【緋彩の瞳】 tender ⑦

緋彩の瞳

ポイ捨て小説

tender ⑦


「また……レイちゃんは血だらけなんだね」
みちるさんの家に呼ばれた。
声は叫びに近かったから、いいお誘いではないことくらいはすぐにわかったし、そういうことを期待するだけ無駄だということはもうわかっていた。
美奈子を呼び出した理由はこれなのだ。
レイちゃんの手を握り、美奈子が助けるというためなのだ。
「原因がわからないの」
みちるさんは泣いたように目を赤くしていた。こんな風にさせるほどレイちゃんのことが大事ということが、よくわからない。
「敵は現れていないのに?」
「いや、だってそもそも目の傷はヴィーナスが…」
亜美ちゃんもいる。まこちゃんもはるかさんもいる。全員勢ぞろいして、深刻な顔でレイちゃんを取り囲んで、その手を握りしめている。
「私?何のこと……」
「何にもない。あなたには言えないことだわ」
「また、私だけ知らないことなの?」
何も知らないけれどレイちゃんの手を握り、レイちゃんが助かる。それをずっと繰り返して、恋もあきらめて。そういう人生を望んで転生したつもりはないのに。
「……いいわ、全て話してあげる。レイちゃんから痛みを取り除けるのなら、罰を受けて殺されてもいいわ。美奈子ちゃんは知るべきなのよ。レイちゃんが…マーズ様がどれだけヴィーナスを深く……あ…」
感情に任せて言い放とうとするセリフをまこちゃんが口をふさい止めた。
「亜美ちゃん!レイちゃんの気持ちを考えないと」
「そうだ、亜美。レイが望んでいないことだ。レイは死んでもその事実を認められない事情があるって、お前が一番わかっているはずだ」
みんなして、レイちゃんの何を守ろうと言うのだろう。美奈子が何も知らなくても手を握りさえすれば目が覚める。そのことの理由がそんなに大それたことなのだろうか。
「私だけ仲間はずれなのね」
「いいえ、あなたは私たちと同じよ。セーラーマーズに忠誠を誓い、守る立場にいるのよ」
「……本当に同じ立場?」
望んでいなかったことなのに。みんなは望んで配下に入ったらしいってこの前言っていたくせに。
みちるさんも亜美ちゃんたちも、みんなレイちゃんを守るためなら美奈子を殺すことくらい平気だと思っているだろうに。
「えぇ。あなたの星も私の星も、マーズがいなければ滅んでいたわ。銀河の秩序は大きく乱れ、この世界もなかった」
「そんなはずはない。私の国は独立国家として機能していたわ」
「していなかったわ。愚かなあなたはベリルからメタリアの呪いをかけられた」
「亜美ちゃん!」
まこちゃんは慌てて亜美ちゃんの身体を押して、これ以上言うなと立ちふさがるように美奈子との間に立ったけれど、耳に残る最後の亜美ちゃんのセリフはその説明を聞かずに済ませるわけにはいかないことだ。
「どういうこと?」
「………レイを助けたら、説明して差し上げるわ。ここで前世の話をするほどのんびりしていられる状況じゃないことくらい、わかるでしょう?」
美奈子の気迫よりもみちるさんの殺そうとするような視線の方が、あまりにも強すぎた。
好きだとか恋だとか、そういうことはもう、みちるさんに求めることはどうあがいても不可能だろう。そんな目をされて、泣きたいのに泣けない状態が情けなくて仕方がない。
「手を……握ればいいんでしょ」
血の涙を流すレイちゃん。
その姿を、ふと、どこかで見たことがあるような気がした。いつだっただろうか。
「あなたがレイを助けてくれるのなら、あなたに何でもして差し上げるわ。付き合ってあげてもいい」
「お断りするわ。私にもバカバカしい小さなプライドがあるもの」
「そう言ってもらってよかったわ」
拭きとれなかった乾いた血の付いている左手。相変わらず冷たい。
「レイちゃんを憎めばいいわ。それがレイちゃんの一番望んでいることだから。殺したいほど憎めばいいのよ」
亜美ちゃんは本当にそんな風に想っているのだろうか。
いや、レイちゃんが本当にそれを望んで、今まであんなことをしていたのだろうか。
「……その理由だって、どうせ教えてくれないのでしょう。いいわ、操り人形のように動けばいいんでしょ」
掌に感じるのは、冷たい身体を生かそうとする血の巡るリズム。レイちゃんが目を覚ましたら、どこから何を聞けばいいのだろう。もう、もはや言われるがままにすればいいだけなのだろうか。
亜美ちゃんが口走った“呪い”って何のことだろうか。
「みちるさん、レイちゃんを助けたら何もかもを教えて。何でもしてくれるのでしょう?」
「…………わかったわ」
「卑怯な奴だ」
はるかさんは呟いたけれど、亜美ちゃんとみちるさんがはるかさんをにらみ返した。
どちらもレイちゃんを想ってのことだということは、共通している。




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Date:2013/12/02
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