【緋彩の瞳】 本当の嘘

緋彩の瞳

みちる×レイ小説

本当の嘘

3月中ずっと、みちるさんは凄く忙しかった。それでも電話は毎日していて、舞台の上にいる姿は1~2週間に1度は見ていた。でも、お互いに休みが合わないから、本当にデートらしいことは1か月以上していなくて、当然、ゆっくりと過ごす時間も取れていなくて。
「え?だって……会えるんじゃなかったの?」
『本当にごめんなさい。今、ちょっと社長に捕まって。何時になるかなんて、約束できないわ』
「そっか」
今日の早朝かかってきた電話では、夜から会いたいというみちるさんからの誘いだった。23時には仕事が終わるから、その足でレイの家に行ってもいいかっていう、珍しい電話。いつもはレイがマンションへ行ってるけれど、みちるさんが会いに来てくれるって言うから。その電話をもらってから、浮き足立っていて、花見をしに神社を訪れる人たちや、おみくじを引く学生たちに、満面の笑みを振りまいたりするサービスまでしてしまうくらいだった。
らしくない行動を取らせるみちるさんは、それだけでも罪深い人だって思うのだけれど、レイが勝手にしていること。

夜遅くに来るみちるさんと、ひっそり静まり返った神社の裏手にレジャーシートを敷いて、2人っきりで夜桜を楽しもうって思っていた。仲間たちとはもう、昨日盛大に昼間の桜を楽しんで、そこにみちるさんはいなかった。

四季のすべてをみちるさんと過ごしたい。

夏の花火
秋の紅葉
冬の星座

あと、春の桜を2人で見たらすべての四季が揃うのに

50年ぶりに春の台風が近づいていて、明日は昼前から雨が降り始めてしまう
満開の桜は、誇らしげに咲こうとしているのに、雨風に花びらを散らされてしまう
だから、もう今夜しかなかった

『ごめんね、レイ』
「別に……仕方ないわ」

外の世界はこんなにも桜が美しく咲き誇っているというのに
みちるさんは、そんなこととは無関係と言わんばかりに、広いホテルの会場に軟禁状態

「明日は?」
『また、電話するわ。解放されるのが何時になるかわからないから、とにかく、もうレイは寝て』
「………おやすみ、みちるさん」
『おやすみなさい。埋め合わせはするから』

次に満開の桜を一緒に見られるのは、来年なのに
だから、このぽっかりと空いた穴を埋めるものなんてなくて
満開の薔薇を見に行くよりも、桜を一緒に見たかった

「最初から、言っておけばよかったかな……」
無理やりにでも、30分でも時間を空けてもらって、桜を一緒に見たいってもっと前に伝えておけば、みちるさんはそのための時間を無理にでも作ってくれたに違いない。
でも、そんな時計を気にしながら桜を見るのは嫌だった。
だから、この偶然をギリギリまで待つことにかけていた。


時計はもう23時半をとっくに過ぎている


「………仕方ないか」
裏手にある大好きな一本の桜を見に、外に出た。少しひんやりとしている。境内のライトは薄暗いけれど、立派な桜はレイを導くようにどっしりと構えて、満開の花を咲かせている。



とても綺麗



10年間、毎年この桜が1つ目の蕾を付ける頃から完全に花を散らすまで、毎日見るのが好きだった。裏手の立ち入り禁止場所にひっそりとあるこの桜の木。参拝者は遠くから眺めることができても、傍には近づけない。

みちるさんに見せてあげたかった
近くで花を見上げて
視界のすべてを桜の花で埋め尽くして
疲れた身体を癒してあげることができたらって


「……でも、会いたかっただけかしらね」

桜を見せてあげたい気持ちは嘘じゃないけれど
でも多分
それを言い訳に、レイはみちるさんに会いたかった

ただ、会いたかった


想像をして、心が満たされる想いになるのは
桜を見上げて嬉しそうなその横顔と、その優しい温もり


握りしめている携帯電話の着信履歴を覗いた
名前がずらりと並べられて
心の中でその愛しい人を呼ぶ




「レイ」



受話器越しとは思えない、澄んだ声がレイの名前を呼んだ

「…………え?ど、……どうして?」

声のする場所には、柔らかいウェーヴを描く髪を持つ
レイの想い人が立っている

「ちょっとね、嘘を吐いたの」
ヒールを鳴らしながら近づいてきたみちるさんは、満開の桜よりもとても綺麗で輝いて見える瞳
「え?嘘?」
「えぇ。遅れるけれど、来られそうだったの」
「……どうして、嘘を吐くの?」
「だって、ほら、エイプリルフールでしょ?驚く顔を見たかったのよ」

レイの髪の間に挟まっている花びらを指先で摘まんで、暗闇でもわかるくらい、ちょっと意地悪なウインクをひとつ飛ばしてくるから。

「みちるさん、3月31日に嘘吐いた」

酷い!ってふくれっ面を見せるのも、何だか負けた気がして。

「……あっ」

「それはただの嘘吐きじゃない」
「……言われてみれば、そうね。レイを驚かせようと思ったけど…ちょっと、違ったかしら」
みちるさんは、冷静に突っ込みを入れているレイを、それでも余裕の笑みを浮かべながら見つめている。

暖かい手のひらが頬を包み込んで、もう、それだけで、嘘を吐かれたことなんてどうでもよくなるって。

きっとバレバレなんだと思う


「綺麗な桜ね」
「………一緒に見たかったの」
「本当?」
「私は嘘を吐かないもの」
「じゃぁ、私に会いたかった?」

知ってるくせに
会いたかったって言わせたいってレイだって知ってる


「………さぁね」

レイができるエイプリルフールの精一杯の嘘って、あまりにもちっぽけすぎて

「もぅ、可愛いんだから」
「みちるさん………キスして」
「嘘じゃないわね?」
「私は嘘を吐かないもの」




少し風が吹いた
桜の花びらがはらりと舞った

春の新色がレイの唇に付いて
愛する人に抱きしめられる温もりが心を満たして

「みちるさん、もう少しだけお花見しましょう」
「えぇ、もちろん。レイと桜を一緒に見たかったの」
「私も、一緒にこの桜を見たかった」


素直に会いたかったって言わなくても
身体のすべてが会えて嬉しいって喜んでいる

嘘なんて
言う必要がないくらいに


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Date:2015/04/01
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