【緋彩の瞳】 閉じた蕾のままでいて ①

緋彩の瞳

マリみて、舞乙、ワンピ

閉じた蕾のままでいて ①

『マリア様がみてる』の小説になります。





今日、令は従妹の由乃ちゃんの通院に付き合うと聞いている。お姉さま方もご卒業されたばかりで、あと数日したら春休みに入る。聖は特に何もしないとわかっているから、早々に帰ってしまった。
生徒会としての仕事もほんの少しの空白、それでも足は薔薇の館に向かっていた。

というよりも、蓉子の背中を追いかけていた。



「蓉子」
ギシギシと階段の音を立てる彼女の後姿に声をかけた。ピタリと止まった足音。でも振り返ってはくれない。
「よーうこ」
その足が止まったのは、江利子が横に並ぶのを待っているからだってわかっている。
あと3度くらい名前を呼んで、呆れた顔をこちらに向けてくれるのを見るのもいいかなって思ったけれど、それよりも江利子が我慢ならなかった。
「ごきげんよう、蓉子」
「江利子。今日は何もないのに?」
令は律儀にも、紅と白にも放課後に薔薇の館に来られないと伝えてくれている。何もしないと決めたのは蓉子だ。
「それはこっちのセリフよ?私は用があるわよ」
「え?」
「蓉子を追いかけてきたんだもの」
眉をひそめる麗しい横顔。ギシギシと階段に音を立てるのは、江利子と蓉子しかいない。
「蓉子ってば祥子にばかり構うんだもの。たまには、私と遊んでくれてもいいでしょ?」
「遊ぶって、あなたねぇ」
ピンと伸ばした背筋。真っ直ぐな髪は顎のラインにそろえられていて、唇はとても艶やか。
3月と言ってもまだスクールコートは手放せない。その手ではなく袖を掴んで、江利子は先導するように階段を上り切り、ビスケットのような扉を開けた。

ひんやりとした生徒会室には、誰も来ていない。

「最近は1番にここに入るなんてこと、なかったわね。お茶淹れてあげましょうか?」
「そうね」
江利子は鞄を椅子に置くと、ポットにお水を入れて電気コードをプラグに差し込んだ。
「祥子は?」
「さぁ?私は帰ってもいいって伝えているわ」
「ふーん」
あぁ、じゃぁ来るかもしれないわね。多めに水を入れているから、問題はないけれど。

今は
せっかくの2人きり


「蓉子」
祥子という妹ができてから、蓉子は少しだけ丸くなった。別に元が三角だったわけではない。ただ、祥子を見守る眼差しがとても優しくて、穏やかに見えて、そう言う表情の変化を傍で見ていることが、江利子は好きだ。
「何」
江利子の鞄が置いているその隣に腰を下ろした蓉子は、スクールコートを脱ぎ、いつものすました表情を見せている。冷たい水が電力を借りて温かくなるまではそれなりに時間を要する。時々キスをする間柄の彼女の座る後ろに立って、肩に抱き付いた。
「……祥子が来るかもしれないから」
「だから?」
「学校でこういうことをしないって言う約束」
「約束?」
「したでしょう?」
「蓉子は嫌なわけ?」
出来ることならば、この身体にまとわりついて、24時間表情の変化を楽しみたい。でもまぁ、そんなことをしたら1週間で飽きてしまう気もしないわけでもなくて。
「そういう問題じゃないでしょ」
「私が蓉子を好きだということを表現しているというのに、それが蓉子には不快なことだと言うのなら、それは大きな問題だと思わない?」
「だから、祥子が」
「“今は”いないでしょ」
プラグから流れる電流がポットに伝わる音がジーっと鳴る音が部屋に響く。
「祥子と私、天秤にかけるつもりはないって、蓉子が言ったことなのに」
蓉子が好き
とても好き
「かけてないわよ」
「じゃぁ、“今は”2人きりだから、私がこんな風に蓉子に抱き付いてはいけないという、正当な理由がないわね」
誰が見ているかわからないからという理由で、確かに学校では抱き付いたり、お互いにそういうことをしないという約束はした。
だけど薔薇の館の階段は幽霊でもない限り、人が来ようものなら、なかなかの音が響くのですぐにわかる。それに今ここに来る可能性があるのは、祥子だけだ。
「………はぁ」
負けたと言わんばかりの溜息を、肩の上下で確認する。
「蓉子は私のこと好きよね、本当」
「腹が立つわ」
水を触った江利子の右手。その冷えた手のひらで蓉子の頬に触れて、顔だけを振り向かせる。
「ちょっと、冷たいわよ」
「温めてるでしょ、だから」
「………私はカイロ?」
「そうそう」

拗ねて呆れて、扉の先を気にしてちらっと確認して。
そうやって10数秒のうちに表情を変えまいとしながらも、江利子には簡単にわかるその心情の変化が微笑ましくて。

「キスしたいでしょ、蓉子」
「江利子がキスしようとしているのよ」
唇を近づけてもすぐに瞳を閉じたりしない。欲しがるその表情を見たい。
「……お見通しなんだけど」
それが伝わったのか、蓉子も目を閉じる気配がなくて。
面白いから、目を閉じないで唇を重ねたら、蓉子がびっくりしたように目を閉じた。


面白くて、可愛くて、また新しい表情を発見できちゃった。




「ん…ん、ちょ…っ」
厚手のセーラー服の裾から侵入してくる左腕。蓉子は唇の熱に気を取られていて、その侵入をたやすく許してしまった。ハッとなって目を開けると、バチッと視線が絡む。

ずっと目を開けて楽しんでいたわけね。

心の中で文句を言いながら、唇を離そうとしても追いかけるように押し当ててくる。
椅子がガタガタと鳴って、身体全体で逃れようともがいても、座っている蓉子とその背後にいる江利子では、完全に彼女の方が優位だ。
侵入した手が乳房をわしづかみにしてきた。タイが江利子の手が入った分緩んでいる。でも、抵抗する力が少し奪われて、一瞬だけ心地いいなんて思っている自分が確かにいて。

たぶん、そう言うの全部をしっかりと見られていて
江利子は楽しんでいるに違いない

ここでこれはまずいと思う反面
嫌だという感情が芽生えない


それでも、楽しんでいる江利子が図に乗ってしまうことは、たやすく想像ができてしまうから、侵入して油断が生まれた脇腹を思い切りくすぐった。
「……きゃっ!やだ、どうしてくすぐるのよ」
「お湯が沸いたわよ」
「あ、話題をすり替えたわね」
せっかくだったのに、なんてセリフを付けくわえて、それでも江利子はある程度は満足げな表情だった。
何となくほっとするのは、こういう場所でそう言う行為を止めてくれたこと以上に、江利子の満足そうな顔を見られたからだと思う。

いつもつまらなさそうな江利子が、蓉子に触れたりキスをしたりするときは、嬉しそうで楽しそうで、満足そうな顔をする。
その表情が好き。
だから、江利子を喜ばせることが好きで、つまり、蓉子は江利子が好き。





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Date:2015/04/04
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