【緋彩の瞳】 閉じた蕾のままでいて ③

緋彩の瞳

マリみて、舞乙、ワンピ

閉じた蕾のままでいて ③

江利子は心の中で笑いながら、すっと立ち上がった。
「な、何ですの?」
「何って、教えてあげるのよ」
同じように立ち上がろうとする祥子を制して、江利子はその真っ直ぐにコシのある黒髪をまず、指で梳いた。そしてその真後ろに立って、さっきの蓉子と同じように、肩に腕を回す。
「江利子様、おふざけにならないで」
「おふざけ?失礼な。蓉子、あなた本当にこのツンツンしたものの言い方を注意しないとダメよ」
「………祥子、私に恥をかかせないでちょうだい」
祥子が助けを求めるようなまなざしで蓉子を見つめているようだけど、蓉子は自分のタイを指先でいじりながら、見物の立場を決めたようだ。あの乱れたタイを、どのタイミングで直すつもりなのか、興味がある。
「お姉さま!」
「いいじゃない、江利子が教えてくれるって言ってるんだから」
「教えていただくのに、私の背後に立って肩を抱く必要はありません」
「あら、教えるためには必要でしょう?」
言って、抱いたその手で祥子の胸元のタイを後ろから解いた。蓉子が瞬間こわばった表情に変わったことを、江利子は見逃したりしない。
「な、何をするんですか?」
「解いて、それから結んで見せてあげる。どうやって綺麗に結ぶのかを、盗みなさいな」
「教えるとおっしゃったではありませんが?」
「そうよ?だから、見て学習しなさい」
「だったら、ご自分のタイでやって見せてください」
「それじゃぁ、面白くないでしょ?」
「………面白い、ですか?つまり、これは江利子様がご自分の面白さを追求している行為なのですか?」
「いいえ、可愛い可愛い祥子にタイの結び方を上級生として教えてあげているという、とてもシンプルなことよ」
祥子はどんな表情なのかしら。
悔しそうに口を真一文字にしているだろう。膝に置かれた両手がきつくスカートを握りしめているのをちらりと見て、それから正面の蓉子に視線を変えた。
「私は鏡を見たりしないし、意識しないの。だからいつも通りに結ぶから、しっかり見ていなさい」
中腰になって、江利子は見えにくい手元をいつも通りに動かした。祥子はなぜか息を止めている。
「見た?」
「速すぎます」
「じゃぁ、もう一度ゆっくりして差し上げる」
シュルシュルとタイを解く音が、何だか艶のある響きだわ、なんて考えてみる。たぶん祥子は、無言で蓉子に助けを求めているに違いない。蓉子は眉をひそめて江利子を睨んでいる。
それでも蓉子は江利子にやめろって言ってこない。
「こうして、こう、ここをピンと伸ばす」
「………確かに綺麗ですね」
「何よ、もっと素直に褒めたらどう?蓉子、あなたねぇ妹の躾が…」
「お姉さまは関係ありません!」
おぉ、切れた切れた。
祥子は面白い。
からかってもからかっても、立ち向かってくるところが本当に面白くて可愛げがある。
「じゃぁ、祥子自身に問題があるのね」
「江利子様が私をからかうからでしょう?」
「からかう?あらやだ、優しくタイの結び方を教えてあげている先輩にむかって、からかうですって?」
はやし立てると、年下なら泣くだろう思えるようなすごい睨みが返ってきた。
江利子には可愛い笑顔と、大した違いはない。
「祥子、そう言う目つきで目上の人を睨むのはやめなさい。江利子も私の妹で遊ぶのは、ほどほどにしてよ」
蓉子は相変わらず指先でタイをいじりながらも、ため息交じりにストップをかけた。
平等に2人に注意するあたりは、流石優等生って褒めてあげたいところ。
「あら、蓉子。私は結び方を教えていただけ」
「江利子様、教えていただけるのは大変ありがたいことですが、私のタイを後ろから結ばれても、その、わかりませんので。ぜひとも離れていただいて、正面から見せてください」
何この姉妹。昔、蓉子に見せてあげたことを、祥子は知っているのかしら。なんて、単に祥子は江利子に背後を取られたままが、もう、我慢ならないのだろう。

とっとと離れろ、という意味だ。

「一理あるわね。じゃぁ、解いて結び直して見せてあげるから、それを見ながら真似してごらんなさい」
タイの結び方を教わること自体を、祥子はいつの間にか受け入れている。ちょうど好都合だわ、なんてほくそえんで、江利子は祥子の背後からテンポよく歩いて、蓉子の後ろへ回った。
「な、何なの江利子?」
「あなたの妹が、離れた場所から見せろっていうから」
「江利子様!誰がお姉さまのと言いましたか?」
テーブルを思い切り叩くなんて、小学生じゃないのに。祥子って本当に感情のコントロールが下手ね。どうして姉妹でこうも違うのか、不思議で仕方がない。
「私のタイでやるなんて、一言も言ってないわよ」
「常識的に考えて、江利子様ご自身のものでなさるべきでしょう?」
「なぜ?」
「なぜ?お姉さまも嫌がっておられるわ」
「そう?蓉子、嫌?」
「………あのねぇ、江利子」
江利子は蓉子の脇から腕を入れてそれから、耳元に口を近づけた。
「タイ、直したいでしょ?」
「………祥子をからかって、私まで巻き込む気?」
「だって蓉子がタイを気にしているんだもの。責任を取ってあげるわよ」
蓉子が呆れたように振り返ってくる。
鬼の形相の祥子が、今にも叫び出しそうな爆弾を抱えていること、蓉子はわかっているのかしら。
あれが爆発したら、それはまたそれで面白い。でも、そうなったらそうなったで、江利子は蓉子に怒られるに違いない。
だから、蓉子が江利子の行動を許可してしまえば、あの爆弾は時限装置をオフにすることができる。

まぁでも
どっちに転んでも、面白いのは面白いわね。



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Date:2015/04/04
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