【緋彩の瞳】 ウソツキ恋詩 ①

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説

ウソツキ恋詩 ①


『マーズ』


レイのことをそう呼ぶ


『マーズ、ねぇ、マーズ。私を忘れないで』



『ずっと、好きでいて』


その声
柔らかくレイの心臓のあたりを撫でて
暖かく包み込もうとする声

だけど
針で刺すような些細な痛みをもたらす声


『マーズ』
その言葉がそっとこの心臓に触れると
思いついたように
その声の主を探している
ずっと、ずっと幼い頃から


春の桜の散る刹那の隙間に
夏の太陽の光の狭間に
秋の夕暮れの赤く染まる空間に
冬の星座をなぞる指先に




その声を持つ人を

探し続けている




「レイちゃーん!」
呼ばれて振り返ったら、まこちゃんが信号の向こうから笑顔で手を振っている。
その笑顔に応えるように手を小さく振り返した。
初めて黒猫のルナから“あなたはセーラーマーズよ”と言われた時に、そのマーズという名前に言いようもない懐かしさと、恐怖を覚えた。
どうして怖いと感じたのか。
あの声は幼い頃自分が創り出した都合のいい女神なのか、あるいはおとぎ話のヒロインのようなものではなかったのだと、思い知らされたからだろう。
そしてレイはやはり、マーズと呼ばれる人間だったのだ。


あの声には、いつも仄かな懐かしさがある。
柔らかい響き、ずっと幼い頃からその大人びた声を身体に降り注がれ
それは未来に待ち受けているものだとは、考えたことがなかった


マーズというレイのもう一つの名前は
14歳になったレイのものなのだろうか


本当に、そうなのだろうか



「亜美ちゃん、うさぎ」
「あ、レイちゃん、まこちゃん」
ゲームセンターの中に入ると、いつものように必死になってゲームをしているうさぎと、その傍らで見守っている亜美ちゃんがいた。うさぎたちに初めて会った時も、何か懐かしさを感じたし、まこちゃんもそう。新しい仲間だって、一目見てすぐにわかった。でも、彼女たちにマーズと名前を呼ばれても、あの声ではなかった。
「あ~~~!」
「あら、ゲーム・オーバー。難しいの?」
うさぎがガッカリするため息を漏らしたので、レイは画面をのぞき込んだ。
「レイちゃん、やってみたら?」
「え?でも、私こういうのをまったく使ったことがないし」
「だったら、私が教えてあげる」
亜美ちゃんがそう言うとうさぎも賛成と言って立ち上がり、レイを座らせた。まこちゃんがおごりと言って100円を入れてしまう。興味ないっていう言葉をおしこめて、言われたとおりにスタートボタンを押した。

『 セーラーV GAME 』

セーラーV
赤いリボンの女の子のキャラクターがこっちを向いて笑っている。

『マーズ』

「えっ?」
あの声がレイを呼んだ。
レイをマーズと呼んだのは、画面の向こうからなのかと錯覚を起こしたのはどうしてだろう。
「あ、だから、まず、このスティックを右に傾けると、セーラーVが歩き出すわ」
「……あ、うん」
亜美ちゃんが後ろから一つ一つセーラーVの動かし方を説明してくれる。じっと動かずこちらを見つめるセーラーVと視線が合うのは当たり前だけど、平面の画面の向こうから見つめられているように感じるのはどうしてだろう。亜美ちゃんに言われたとおりに操作をすると、何事もなくセーラーVは歩き始めた。


『マーズ』


レイにはその声が画面から聞こえてくるように感じたのに
同じように画面を眺めている亜美ちゃんたちは、何も聞こえていないようだ


『マーズ』






セーラーV
同じセーラー戦士なの?
ずっと、ずっと幼い頃から心に染みるようにレイに向かって、そのもう一人の“前世”の頃の名前を呼ぶ声


あの声の持ち主がセーラーVなのだとしたら
彼女はどこで何をしているのだろう
少し前まで活躍していたということをみんなから教えてもらったけれど、レイは何もわかっていなかった。


でも、とても近い場所にいる
彼女は生きている
何かがそう、レイに告げている


もし、彼女がそうだとして
レイは何をすればいいというのだろう

どうしてずっと“マーズ”と呼び続けてきたのかを
知りたい気持ちはある


『忘れないで』
『ずっと、好きでいて』


だけど、レイはその声の主の顔も
どんな背の高さなのかも
どんな夢を語る人だったのかも
何も覚えていない

忘れないでという乞いに

思い出せないの
わからないの
だから、姿を見せて欲しいの


そう、願うしかなかった





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Date:2015/04/08
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