【緋彩の瞳】 ウソツキ恋詩 ②

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説

ウソツキ恋詩 ②

身体中に奇妙な痛みを覚えるようになったのは、セーラーVが、プリンセス・セレニティが、愛野美奈子が目の前に現れてからだった。敵との戦いで殺されると感じた瞬間、現れた彼女の姿。
あの姿を一目見た瞬間、身体中を駆け巡る血の色が変わったのではないかと思うほど、何かがレイの中の“何か”がそれまで生きてきた過去と瞬時に変わった。
「あの、レイちゃんって気のせいかもしれないけれど……プリンセスのことを避けてない?」
「え?そうかしら?そう言うつもりもないけれど……」
2日前、いきなりプリンセスが、愛野美奈子が神社に来た。

“プリンセス”にずっと名前を呼ばれ続けていたということがわかって、腑に落ちたような落ちないような、どうして彼女がマーズと呼び続けるのか、ただ、彼女を守っていたからなのか、それを知りたい気持ちと、聞くに聞けないような気持と。縁側で少しだけ話をすると、彼女はすぐに帰って行った。レイは何も聞かなかったし、聞けなかった。ただ、何も気にしていないフリをするだけしかできなかった。
レイの顔を見に来たと言っていた。話したいことがあると言うように見えたのに、懐かしいといいながら、具体的なことを何も教えてくれなかった。

懐かしい
そう、レイも思った
彼女の声は懐かしい

でも、何も聞かなかった



「ねぇ、亜美ちゃん」
「なぁに?」
「あの人の声に、聞き覚えっていうか……懐かしいって感じたりした?」
「プリンセス?」
「えぇ、プリンセス・セレニティ。ずっと、私、小さい頃からあの声に聞き覚えがあったの。プリンセスだから、……だと思うけれど」
同じ立場の亜美ちゃんは、彼女を、プリンセス・セレニティだと名乗る愛野美奈子をどう思っているのだろう。
「小さい頃から?私は別に何も……」
「そっか」
「ただ、まこちゃんが、あの人に何か違和感を覚えるって」
「違和感?そっか……そうかもね」
あの人がプリンセス・セレニティだと名乗り、そしてセーラーヴィーナスだと告げた。その2つの名前を、レイはそれぞれが別人ではないか、という気がしてならない。だけど、それを口にすることが何となく、できないでいた。
「疑っているわけじゃないけれど、プリンセス・セレニティって言うより、ヴィーナスって言う名前だけがしっくりはまるみたい」
「私も、そう思うわ。だから、何て言うか避けているわけじゃないんだけど……」
だとしたら、彼女は何か必要があってプリンセス・セレニティだとレイたちに言っているのだろう。神社に来た時に、レイが思い出していないことを見ていればわかると告げたのは、レイが彼女をよそよそしく見ていたからだろうか。

レイは
かつてのマーズは
彼女をどんな風に呼んでいたのだろう
どんな感情を持っていて
どんな夢を語り合って
どんな風に微笑んでいたのだろう

何も、まだ、思い出せない

彼女は一体何者なのか

なぜ、ずっとレイを“マーズ”を呼ぶのだろう
ずっと、もうずっと昔から




戦いが終わった早朝、フラフラと神社へと戻る坂を上り切った道の端っこに、猫が横たわっていた。眠気と酷い疲れを抱いたままの身体はそのまま横たわる猫へと近づき、予想通り死んでいるのを確認すると、小さなため息を漏らした。
あの、三毛猫だった。
いつ頃車に轢かれたのかはわからないけれど、触ってみると初夏とは無縁の冷たさだった。こんなところに放置しておくと、小さな子たちの目に入ってしまう。レイは鞄を脇に挟み、その死んだ猫を両手で抱えた。固くなってひんやりしたその亡骸。
神社の裏手の桜の木の下に、深く穴を掘って埋めてあげよう。
完全に土に還ってくれるまでは、フォボスとディモスに監視をさせればいい。



「レイ」
「………お家に帰ったんじゃなかったの?」
スコップで穴を掘っていると、気配もなく背後から声がした。
プリンセス・セレニティの生まれ変わりであり、名前は愛野美奈子。
「うん、ちょっとね」

『マーズ』

あの声がまた、心に染みわたってくる
針で刺すような痛みは、彼女の姿を見た時から
剣を刺すように感じる
死ねない、一撃を外された瀕死のような、そんな感じ


「猫?」
「えぇ。車に轢かれたみたい」
「まさか、あの時の猫?」
「そうよ」
プリンセスはレイの隣でしゃがみ込んで、冷たくなった猫の身体をそっと撫でた。
「そっか。結局、野良で頑張ってたんだ」
「……私が飼わなかったから、死んだって言いたいの?」
その瞳は憐れみを携えている。
「でも、これが自然の摂理でしょ」
「車に轢かれることは、自然とは違うわよ」
「あぁ、そっか。人間との共存?でもまぁ、致し方ないことよ。生きているものはいつか、死ぬんだもの」
「最初に助けなければよかったって思う?」
助けたのならば、最後まで傍に置いておくべきだったのだろうか。
結局は死ぬ姿を見せつけられたのだ。
逃げた現実も、結局は同じだった。
「さぁ、でもその時は助けたかったのでしょう?」
「そうね。こうやって埋めることも多分、自己満足よ」
「でも、そう言うのも、マーズらしいと思うわよ」

『マーズ』
あの呼ぶ声がすぐそこにある。

深く掘った穴に、彼女は猫をそっと置いた。レイはその上から穴を埋めるように土をかけ、プリンセスもまた、同じように土をかけた。
桜の木の枝で見守っていたフォボスとディモスに、あとを任せると視線を交わす。
「それで?今日は何?今、5時だし、帰って寝たらどうなの?また、いつ何が起こるかわからないから」
「ちょっとね、……顔を見たかっただけよ」
「どうして?」
「………どうして、か。さぁね……私もわかんない」


『マーズ』


「前にもあなた、ここに来たわ。亜美ちゃんやまこちゃんたちの家にも行くの?」
「まさか。だったら全員を呼ぶわよ」
「じゃぁ、どうして私に?」
「………どうして?レイからしたら、……そうよね」
桜の花が土に還り、緑が朝日に映える。
プリンセスは、その朝の風に揺れる葉の音に耳を澄ませるように、ゆっくりと目を閉じた。


『マーズ』
『忘れないで』
『ずっと、好きでいて』


頭で考えた言葉ではない
ずっと、ずっとその声と一緒に生きてきた
彼女に出会えた日から
その声がレイの血液に流れ
身体を駆け巡っていくようだ
その声に生かされているように感じる
痛いと嘆くのは身体なのか心なのか、前世の自分なのか
それなのに、嫌だという感情がない
それが怖い


関連記事

*    *    *

Information

Date:2015/04/08
Trackback:0
Comment:0

Comment

コメントの投稿








 ブログ管理者以外には秘密にする

Trackback

TrackbackUrl:http://fireredfantasia.blog.fc2.com/tb.php/520-37fdc90d
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)