【緋彩の瞳】 ウソツキ恋詩 ③

緋彩の瞳

美奈子×レイ小説

ウソツキ恋詩 ③


「あなたは……プリンセスは……」
プリンセスと言ったとき、彼女の瞳がレイを捉えた。
「愛野美奈子だって何度も言ったんだから、いい加減に名前で呼んだら?」
「……美奈子、さん?」
プリンセスという立場の人を、どんな風に呼べばいいのだろう。
「何それ、他人行儀。美奈って呼んでよ」
「……わかった」
「それで?私は、なぁに?」
一歩近づいてきて、レイの髪を指に絡ませる。


逃げられなかった
身体が逃げようとしなかった



懐かしい匂い

とても、懐かしい



「あなたは……美奈は、どうして私だけ?」
「懐かしいって思うから」
「前世のことでしょう?今じゃないのでしょう?会ってそんなに何年も経ったわけじゃないわ」

それでも、レイも
レイも懐かしいって思う

美奈の声が
懐かしいって思う

「そうね。レイにはそうかも。私には……夢であり幻なのかもね」
「私たち、……前世で何かあったの?」


その声
ずっと、その姿を探していた

『マーズ』

「“何かあった”、って言えば……私がここに来た理由をレイは納得してくれる?」



『忘れないで』


「……わからない。だって、何も覚えていないもの」
「本当に何も覚えていない?」


『忘れないで』


「忘れてしまっている、だけ、なのかもしれないわ」

知りたいと願う気持ちと
怖い気持ち

だけどずっと、ずっとマーズと呼ぶその声の主が目の前にいるのならば

どうしてそう、呼び続けたのかを知らなければならない気がして

「そう?」
「でも、いつかは思い出さなきゃいけないのでしょう?」
「そうね」
指先へと血を送り出す音が、身体を小刻みに震わせていく
言いようもないこの感覚



懐かしい



「レイはきっと前世を思い出してしまったら、私にこう言うと思う」

美奈は小さく、そして寂しそうな作り笑顔を見せた。

「“嘘つき”ってね」

少し手を伸ばせば、その亜麻色の髪に触れることは簡単
彼女がしているようにレイも、その髪に触れたいと願っている

願っているのは、レイなのか
それとも”マーズ“なのか

「………何を嘘吐いているの?」
「さぁ?だって、今は忘れているって、レイは自分で言ったじゃない。言ったところで、あなたにはわからない」
「私は思い出せる?」
「えぇ。思い出したい?」

『マーズ』

「そうね、ずっと………ずっと小さい頃からあなたの声が胸に染みていたの。“マーズ”って。その声の主にやっと会えたのだから、どうして美奈が、プリンセス・セレニティが私を呼び続けてきたのか、知りたいって思うわ」

美奈は息を飲み込むように唇を閉ざし、それからレイの頬に指先で触れた

『ずっと、好きでいて』

頬に触れたその冷たい指先が
紙で切ったような痛みを走らせたのは

錯覚

「レイ」
「………美奈?」

真っ直ぐな瞳がただ、レイを見つめる



「先に謝っとく。ごめんって」
「何を?」
「きっと明日…明後日くらいになればわかる」
「何がわかるの?」
「………マーズを私がずっと呼び続け、想い続けてきた理由が」

「マーズって、呼び続けたのはやっぱりあなたなの?」
「私って言うより、私の……あの頃の私の意志だと思う」

『ずっと、好きでいて』

あの言葉の意味は?
目の前にいる美奈に、それを聞けなかった


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Date:2015/04/08
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